7 街から追放されて――

第126話 ビーズ

 ノースァーマの街を出て進路を西へ、

おれ達は順番に 二台の荷車を押しながら旅をしていた。


 馬車などに使われる荷車と呼ぶには小さいし、

工事現場などで使われる手押し車よりも大きいソレには、

 食料や水袋や、野宿などのサバイバルに使えそうな代物と――


「つ、辛くないでしょうか……? 」


 なんだか申し訳なさそうに荷車に乗っているミザリーさんが、

荷車を押している おれに声を掛けてきていた。


 ミザリーさんは長袖の白いワンピース (スカートの裾は膝下が隠れるくらい)に

申し訳程度に胸当てや脛当すねあて、軽めの腕鎧と腰鎧を着けていた。


 ミザリーさんは戦闘をするわけじゃないけど、

旅の途中で何かに狙われないわけじゃないから……


 万が一の時、ミザリーさんには、

荷車に積んだ弓矢を使ってもらうことになっている。



「大丈夫だよ。」


 そう笑顔で答えると、若干 下がり気味だった彼女の尖った耳が

ピンと上がっていた。


 浅黄色のサラリとした髪から突き出ているミザリーさんの耳。


 俗にいうエルフ耳なんだけど、エルフ耳になったからって、

今のところ、それ以外に特に変わったところはないらしい。


 まぁ、ちゃんと調べたわけじゃないんだけどね。



 おれと同じように、もう一台の荷車をヴィラックが押していた。


 ヴィラックは どこで手に入れたのか、

髪の色と同じ赤紫色のスーツに、腕鎧と足鎧を着けて、

二本の剣を腰に装備していた。


 ヴィラックは何を考えているのかわからないけど、

おれのことを『お姫様』って呼び続けている。


 屋敷にいた時、ヴィラックの体から黒い粒子が出ていたけど、

制御できているのか、今は まったく出る気配がなかった。


 あいつは おれのために戦う とか言っていたけど、

どこまで信用できるのか……



 一緒に旅をすることには なったけど、

他の皆も、あいつの行動には注意をしていた。



 そう言えばヴィラックのことを、特にジョンが気にしていたな……


 左目が赤くなったジョンは、右目や髪の色が黄色のままで、

ヴィラックと同じように藍色のスーツに腕鎧と脚鎧を、

左手に盾を持って、左腰に一本の剣があった。


 改めてジョンを見ていると、本当に顔はカッコイイんだよなぁ……


 そう思ってジョンを見ていたら、


「そろそろ代わろうか。」


 丁度、川にかかる橋を渡る前だったこともあるのか、

ジョンが おれのそばに来た。


 おれとジョンが交代したため、

ヴィラックもマルゼダさんと交代していた。



 マルゼダさんは 茶色の革の服に左腰に剣で、

いつものウェスタンな感じだった。


 朱色の髪も いつもの通りだし。


 交代して手が空いたからか、

おれに近寄ってくるヴィラックの前に、


「……」


 おれの姿を隠すように、バーントさんが立っていた。


 焦げ茶色の短い髪が揺れたバーントさんは一番 重武装で、

以前に比べて全身の鎧の面積は大きくなってるし、

中型の盾に、左腰の剣に、右肩には担いだ筒の中には槍が三本、

左肩には 大きくて長めの剣を背負っていた。

 その大きめの剣を抜きやすいように、

鞘の片方の辺が くり抜かれていた。


 アルテナは その加工された鞘を見て、


びやすくなるじゃない。」


 と言っていたけどね。



「並んで歩くだけだって。」

「おれも そうしよう。」


 ニコやかにしているヴィラックと、

鋭い顔つきをしているバーントさん、


 なんか一触即発って感じだった。



 その間にミザリーさんと

ずっと歩いていたシアンさんも交代していた。


 シアンさんは黒に近い蒼い長髪を後ろで縛っていたんだけど、

今は真ん中分けにした前髪を後ろでくくって、

腰まで届く後ろ髪は そのまま流していた。


 服は青色のワンピース (半袖でスカートの裾は膝より上)に

ミザリーさんのよりもガッシリとした胸当てやら脛当て、

腕鎧と腰鎧を着けていた。


 以前は 杖を持ち続けていたけど、

たすき掛けにした革ベルトで杖を背中に背負えるようになっていて、

 手が空いた分、シアンさんは革の盾とナイフを持つことになった。


 シアンさんには魔法があるんだけど、

魔法を使うまでに狙われたら困るからね……



 ……、……、……



 ミザリーさん……は、違うけど、

シアンさんにも自衛用の武器があるんだけど……


 おれは武器、何も持ってないんだよね……


 おやっさん達のいる加工屋のところで武器を物色してたら、

アルテナ達に止められたんだよね。


 まぁ、変に戦おうとするより逃げろ ってことなんだろうけど……


 代わりに腕とか足、胸や腰の鎧は兵士の人みたいに

鉄のようなもので しっかりと守られていて、

 胸元の破けていたワインレッドのドレスは、

どうせだから と、縦一直線に切ってジャケットみたいになっていた。


 ジャケットみたい……なんだけど、元が長スカートのドレスだから、

袖が腕鎧で隠れると マントみたいにも見えるんだよね。


 皆は街から出た時にフード付きのローブを脱いでいたけど、

おれは そのまま着続けていた。



 そんなに髪が黒いのってダメなのかな……



 おれは、先に橋へ足を踏み入れたアルテナの後を追い、

おれの動きに気づいたアルテナが振り向いた――


  革の長手袋の外側と革のオーバーニーソックスの前面に、

楕円形の金属板を動きやすいように貼りつけた腕鎧と足鎧。


 腕鎧の拳骨の部分に四角い金属板が溶接され、

また足鎧の靴底は下駄みたいな感じになっていた。


 アルテナの胸や腰を守るのは、

かなり面積の小さいピンクのマイクロビキニだけ。


 ビキニの上も下も ほどけにくいように縛る紐が

かなり長くなってて、紐が体をぐるっと一周して結ばれている。

 下も長い紐が二対あり、同様に一周して結ばれていた。


 ビキニの布の幅が小さくて大事なところしか隠せていなかった。


 左腰にある剣の鞘は たすき掛けて吊り下げていた。


 ―― 太陽に照らされて反射する白金の髪と彼女の肌が、

おれには とても眩しく見えていた。



 あ、そういえば――



「どうしたの? ソーマ。」


 アルテナの声を聞きながら、


「これ、渡し損ねていたから。」


 おれはズボンのポケットから、

以前アルテナに贈って、一時的に預かっていた物を差し出した。



「これは――」


 アルテナは食い入るように それ見つめ、


「まぁ綺麗……」

「色とりどりな……」


 シアンさんとミザリーさんが羨ましそうに、


「ほぅ……」

「へぇ。」


 バーントさんとマルゼダさんが感嘆の声を漏らし、


「……」


 ヴィラックはジッとこちらを見つめ、


「宝石、ではないね。ソーマ君、それは? 」


 ジョンが興味深そうに尋ねてきた。



 アルテナと二人で旅をしていた時に立ち寄った村で、

おれはアルテナに数珠じゅずを贈ったんだけど、

アルテナが防具を新しくする時に預かっていたんだ。


 街を出るまでの間に、これに緑と黒以外の色を付け、

紐を長くして ネックレスに加工し直していた。



 ネックレスになったコレは もう数珠じゃなくて――



「ビーズ、かな。」


 ―― ビーズアクセサリーのビーズ。


 木製だけど、ビーズで合ってるのかな?



美異珠びいじゅ? ……ふむ、素晴らしいね。」


 ジョンは何か、一人で納得しているみたいだった。


「ビーズ……」


 おれは、前髪も後ろ髪も長くなったアルテナの首に

ビーズのネックレスを……かけにくいな……


 元から身長を抜かれている上に、

下駄みたいな脚鎧をアルテナがいているせいで

余計に身長差がついて、半ば抱き着く感じになっちゃうし……


「……アルテナ? 」

「え? あっ、あ、その……なんでもないわ。」


 かけ終えてちょっと離れると、

顔を赤くしたアルテナは顔をそっぽ向けて、


「……ありがとう。」


 ぽつりと呟くと、背中を向けて歩き出してしまった。



 ネックレスをアルテナの首にかける時にずり下がったフードを

被り直して、おれはアルテナの後に続き、


 アルテナの目的の街、チカバの街を目指して、

おれ達は橋を渡って、旅を再開させていた――

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