第125話 追放(旅立ち)

 パプル家の屋敷の敷地で、

おれはシェンナさんに殺されそうになって、

 ノースァーマの街中にいたブラウさん達からも拒絶された おれは、

おれ達は、その日から五日後に街から出て行くことになった。



 街を出て行くまでの間は、

おやっさんたちのいる加工屋の一室をいくつか間借りして、

旅支度を全員で、大慌てで やっていた。


 ブリアン家の屋敷が潰れた時に、

アルテナの使ってた鞄や道具類も一緒にダメになってたから、

おれ達は大急ぎで代わりを調達しないといけないし、

おれの服とか鎧も、襲撃のせいで まだできていなかったし……



 おやっさんやアインさん達は、

おれや変化のあったミザリーさん達を見ても、

以前と変わらず接してくれていたのがありがたかった。


 ……戻った時に、おれのドレスの胸元がザックリ破れてたのを見て、


「い、いったい何があったんだっ!? 」

「け、怪我っ!? 怪我はしてないかっ!? 」

「ソーマが飛び出していったのを見て、心配してたんだからな!? 」

「む、胸元がっ、誰か代わりの服を持ってこいっ!! 」


「おぇら わめくんじゃねぇっ!! 」


 お弟子さんたちが大慌てには なっていたけどね……



 黒い粒子が出たり出なくなっていたりするヴィラックが、


「おれはこれから、お姫様のために力を振るうよ。」


 そう言って、おれの近くをうろちょろするようになったけど、

ジョンやバーントさんが彼を監視してくれていた。


 でもたまに、ヴィラックがどこにもいない時があったけど……


 たまに と言えばマルゼダさんもどこかに出かける時があって、

でも夜には加工屋に戻ってきていた。



 旅の準備をする以外にも おれは、

おれ以上に落ち込んでいるシアンさんを慰めることを優先していた。


 親代わりだったんだからな、ブラウさん……


 アルテナもミザリーさんも、

おれがシアンさんを慰めている間は、そっとしておいてくれるけど、

それ以外の時は、常にどちらかは おれのそばにいた。


 二人とも、おれの事を心配してくれているようで、

おれは二人の好意をありがたく思っている。


 でも、もっと自分が強かったら―― なんて、考えてしまう。


 魔物も人も、襲ってくる連中を返り討ちにできるくらいに強かったら……



 あれからブラウさんは屋敷にいるのか、こちらには一度も来なかった。

シェンナさんも、あの時から会っていない……


 パンプさんはバーントさんと話をしてたからか、

たまに様子を見に来るくらいで、ちょっと微妙な雰囲気だった。



 あの襲ってきた連中が再び襲ってくることもなかったし……



 色々と忙しかったくらいで、

この五日間は、ある意味平和に過ごす事ができていた――



 おやっさんたちには前日の夜に挨拶をして、


「これは? 」


 ―― おれ達が出て行く日の朝、

加工屋の前には、四輪の手押し車が二台置かれてあった。


 木に あちこちが革や金属で作られている荷車を見て、


「ボクは馬車を寄越せと言ったんだが、

ディールめ、馬がないと動かないだろう と、言い返してね。」


 左目が赤くなったジョンは、その時を思い出して

軽くイラついているようだった。


「屋敷に行ってて大丈夫だったの? 」

「ん? あぁ……ディールも それほど愚かではなかったよ。」


 おれの言葉に苛立ちを抑えたジョンは、


「パンジーはともかく、ディールは、

今の状況の方が―― 屋敷に戻るより まだ良いだろう と判断してたね。」


 そう言って、朝焼けの空を見上げていた。



 まだ良い、か……まぁ確かに、

屋敷の使用人の人達とか冒険者の人達とか、

おれ達に良い感情持ってなかったみたいだし……


 あぁ、そっか――


「ブラウさんも そうなんだろうね……

そうじゃなかったら旅支度の期間なんて くれなかっただろうし。」

「っ……」


 おれはポツリと呟いて、

シアンさんがピクッと反応していたのを見ていた。


 少しずつ、シアンさんも落ち着いてきたようだった。

良かった……



 おれは フード付きのローブを目深に被って、全員を見る。


 アルテナにシアンさんにミザリーさんに、

ジョンにバーントさんにマルゼダさんにヴィラック。


 アルテナ以外の全員が フード付きのローブを着ているから、

なんだか怪しい集団のように思えて少し笑ってしまいそうだった。


「さぁ、行きましょう。」

「あぁ。」


 初めて出会った時に比べて

過激なビキニアーマーを着たアルテナの言葉に、

おれ達は頷いて歩き出した。



 二個の手押し車は、それぞれ順番で押していくことになった。



 ノースァーマの街……もう二度と来れないのかな……


 そんなことを考えながらも おれ達は太陽の登る方へと、

このノースァーマの街から出て行った。





 ノースァーマの街より北の山々――


 その中でぽつんとある洞窟の奥深く――



 洞窟の暗闇の中から、一人の女が出てきた。



蒼真ソーマの知識では、

人は産める限りは何人でも子を産めるようだ。」


 長い黒髪をした女性は 外気に裸を晒していたが、


「この世界の魔物とは違う魔物、幻想ファンタジーやゲームのモンスター。」


 女性の指が、足が、体が、


魔物モンスターを産む女神とやらに、なってみるのも一興か。」


 黒い粒子を放つタコの姿に戻り、


「この世界がパパソーマママで どうなるか、

あぁ、楽しみだわぁ……」


 再び女性の姿になり、

嬉しそうにお腹を撫でまわしながら山の中を歩いて姿を消した――

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