第122話 右に手を、左に手を

(まぁ、どっちの言い分も間違っちゃいないんだよなぁ……)


 朱色の髪の男マルゼダは、

集団の最後尾を歩きながら先ほどのことを思い出し、考えていた。



(国を、民の安全を思えば、あの女衛兵士の判断は正しい。)


 冒険者として、の事を思えば、

マルゼダは内心、シェンナの行動を否定することができなかった。



 マルゼダは先頭から二番目の、

シアンとミザリーの間を並んで歩くソーマの黒髪を見て、



(あの黒い煙を出したり 人を変えたのが、本当に彼だったなら、

これからも同じような事が起きる可能性もあるわけだしな……)


 マルゼダは噴きあがった黒い煙を思い出し、

またミザリーの変化した耳に注目していた。


 次に マルゼダの前を歩くジョン、ヴィラック、バーントの後ろ姿に

マルゼダは視線を移すと、


(この男、何を仕出かすかわからないんだよなぁ……)


 ジョンとバーントがヴィラックを間にして歩いている理由が、

自身の考えと同じであると推察していた。



(だからって、彼を殺せるか? っていうとなぁ……)


 マルゼダは再びソーマの後ろ姿に目をやり、


(オレだったら―― )


 マルゼダは、死んだ黒い魔物に抱いてすがり、

泣いて祈るソーマの姿を思い出して、頭を振った。



 ―― 守るべき者を守り、必要ならば誰であろうと斬る。


 というのが、マルゼダという男なのであるが、



(『一つしかない腕輪を、どちらの腕に着用すつけるのか?』だな……)


 彼は小さく溜息を漏らしていた。



 最後にマルゼダは、先頭を歩くアルテナの背中に視線を向け、


(本当に彼が 国に害を成す魔族だったら、彼女はどうするつもりなんだ? )


 背中から彼女の腰へと目線を下ろし、


(……なんで あんな裸みたいな恰好してるんだ? ……本当に……)


 マルゼダは青空を見上げて歩いていた。





「ヴィラックと言ったな? 」

「そうだけど? 」


 左目の赤くなったジョンは、

隣を歩くヴィラックに声を掛けた。


「その黒い蒸気、出さないようにはできないのかい? 」


 ジョンの疑問に、黒い粒子魔力が体から出ているヴィラックは、


「ん~……出し続けてたら誰かに目をつけられるねぇ。

まぁ、なぜ出ているのかもわからないんだけど。」


 そう返答しながら目を瞑り、


「ぬぬぬ……おぉ、止まった。ハハハハハ。」


 軽く唸っていたが、いつの間にか制御できたことに喜んでいた。



(止めれるのか……)


 ヴィラックの言動にジョンは内心、不愉快であったが、


「ジョンは……」

「なんだい? 」

「目が赤くなって、何か変わったのか? 」


 ヴィラックの隣を黙々と歩いていたバーントが尋ねてきて、


「ん……いや、わからないね。」

「そうか。」


 ジョンはバーントに そう返事をしていた。



 だが、



(あの、普段以上の動きは―― )


 ―― 強くなりたい?


(―― そういうことなのか? )



 ジョンは、黒い空間の中で出会った

肌の白いソーマの姿が脳裏をよぎっていた。





 おれは……邪神でも魔族でも、子どもでもない……



 シアンさんとミザリーさんと、並んで歩きながら、

おれは、うつむきながら歩いていた。


 胸元の破れたドレスキメルスから見える素肌は

刺されたはずの傷さえ綺麗サッパリと なくなっていて……



 ―― 彼は魔族だ!! 殺すしかない!


 おれは、シェンナさんに殺されそうになった……


 ―― 行きましょう。


 でも、アルテナは おれに手を差し伸べてくれた……



 考えたら考えるだけ 思考がグルグルと堕ちていくけど、

このまま考え続けていたらダメだ、ってことはハッキリしていた。



 アルテナと繋いでいた自分の手を見ていると、

シアンさんの視線に気づいた。


「……」


 シアンさんは何かを言おうとして、

でも、言葉にできないみたいだったけど、


 おれが その手を彼女に向けると、

シアンさんは、はにかんだ表情をして おれの手を握ってくれた。



「? 」


 反対側の手のそでをクイクイっと引っ張られて

おれは そっちへ顔を向けると、


「……」


 ミザリーさんが、なんとも言えないような表情で

おれを見ていた。


 耳がエルフ耳になったミザリーさんに もう片方の手を出すと、

彼女は顔を赤くして、おれの手をそっと握っていた。



 両手に華か……



 正面を見ると、アルテナが前を歩いている。


 後方にはジョンもバーントさんもいるし、

マルゼダさんや、あの怪しいヴィラックもいる。



 ヴィラックは ともかく、

みんなが おれのそばにいてくれるなら、


 おれは まだ、この世界で生きていける……

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