第123話 宣告

 おれ達がパプル家の屋敷を出て 街中を歩いていると、

ブラウさんや屋敷にいたはずの人達が集まっていて――



「止まりなさい。」


 ―― おれ達の前に出たブラウさんが、険しい顔つきをしていた……


 あ、もしかして、おれがシアンさんと

ミザリーさんの手を握っているから―― なんて 思っていたけど、



「おい、彼女の耳……」

「ジョン様、目の片方が……」

「あいつ、剣で刺されたはずだよな? 」

「背中までグッサリだったのに、なんで生きてるんだよ……」

「あの魔物、屋敷の方に行って、すぐに出て行ったのは……」


 パプル家やブリアン家の使用人や 両家お抱えの冒険者たちが、

おれ達を見て、ヒソヒソと話し合っているのが聞こえていた。


 ブラウさんも みんなも、

おれ達に良い感情は持ってないみたいだった……



「何? 」


 先頭に、おれの前に立っているアルテナが話しかけ、



「衛兵士の彼女はどうしたのかね? 」


 ブラウさんは、明らかに おれ達を警戒しながら尋ねていた。


「屋敷に残ってるわ。」

「死体で かな? 」


 アルテナの答えにブラウさんは そう言い返していた。


 ブラウさんは――



「お師匠様! 彼女は死んではいません! 怪我も何もっ!! 」

「悪いがシアン。こちらで確認しないと信用できないよ。」

「えっ!? 」


 咄嗟に言い返したシアンさんに対しても、

ブラウさんは厳しい態度を見せて、


「まどろっこしいのは嫌いだ。ブラウ、はっきり言いたまえ。」


 ジョンが前に出て、シアンさんの代わりに話を続けた。


「よかろう。はっきり言うが、

ソーマ君と君達を、我々のそばに居てもらいたくないのだ。」


 ―― っ!?


 ブラウさんは、はっきりと おれ達を拒絶した。



 ブラウさんの言葉に同調するように、

ブラウさんの後ろにいる人達の表情や雰囲気が険しくなっていく。



「ソーマ君が魔族かもしれないから? 」

「そうだ。今すぐ殺そうとしないだけ 感謝してもらいたい。」

「勝手なことを。君の教え子である彼女もかい? 」

「必要であれば、そうせざるを得ないだろう。」

「今まで彼と一緒にいたのに? 」

「だから、そばに居てもらいたくないと言っている。」


 ジョンがブラウさんと言い合っている。……けど、

どうして こんなことに……


 アルテナが、シアンさんやバーントさん、ミザリーさんも、

ブラウさんの言葉に怒りがこみ上げてきているような感じに

なってきていて――


「ふんっ、嘆かわしい……屋敷に近づくなということか? 」

「この街からだ。」

「街とは……大きく出たなブラウ。」


 ジョンも嫌悪感を隠せなくなってきているみたいだった。


「我々には、この街の者達も含まれている。」

「お師匠様! 」「お前らっ! 」


 流石に黙ってられなくなったシアンさんと

バーントさんが、ブラウさんに向かって声を荒げ――



「二人とも待って! 」


 ―― おれは それを止めた。


「ソーマさん……」「だがっ……」


 二人が おれを見つめていた。


 二人が おれのために、声を上げてくれるのは凄い嬉しい。



「おれ達は旅の途中だったんだよ。ここに長くいただけで。

だから、出て行く時は出て行くだけなんだよ……

でも旅を続けるにも、旅支度もできていない……」


 だけど、おれはブラウさんを見つめて言った。



 見つめ返すブラウさんの表情は、目は険しかった。


 でも――



「そうだ。出て行くのは構わない。

だが、街や屋敷などが襲撃を受けたばかりなのに、

突然出て行けと言うのは酷いと思うのだが? 」

「……、……それも、そうだな――」


 ジョンが おれの言葉に続き、

ブラウさんも何か思う所があるのか、考えて――





 ノースァーマの街の石壁近く、

近隣に人の気配もない寂れた一角にある家屋の中、


「戻ってきたか。チィ。」


 シュロソ導師配下の『両手探りょうてさぐり


 その両手探の頭役である『火村ひむら』のアデニは、

室内に入ってきた赤い髪の女性に声を掛けた。

 

「はぁ……チョウキもサノオーも、アコニもやられたわ。」

「アコニも!? 」


 チィと呼ばれた、少女とも呼べる女性の報告に、

寝台ベッドに寝ている大男の胸の包帯を交換していた女性が驚きの声を上げた。


 大男――『殴牙おうが』のラグウォートの胸の傷は、

加工屋でエイローにつけられた傷であるが、今はもう塞がっているようだった。



「ほぉ……そうか。」

「アデニ、そうか って、それだけ? 」


 木椅子に座り、丸い机に置いていた酒を飲むアデニに、

ラグウォートの包帯を換えていた女性が眉を寄せて言った。


「ハシュリー、アデニはそういう男でしょ。」

「チィ……アコニはアデニの弟よ? 」

「知っているわ。」


 チィが口を挟み、白い髪の女性――ハシュリーの言葉を聞きながら

チィはアデニの持っている杯に果実酒を注ぎ、その杯を奪って酒を飲んだ。


「アコニは誰にやられたんだ? 」


 アデニは表情を変えることなくチィに尋ね、


「ふふっ、それがね。黒い煙を吐く男よ。」


 口元をぺろりと舐めたチィは面白そうに答えていた。



「黒い煙を吐く男? 」

「黒髪ではないのか? 」

「違うわね。でも、その男は黒髪をお姫様って呼んでたわ。」


 ハシュリーもアデニも疑問を持つが、チィは言葉を補い、


「お姫様? 黒髪って男じゃなかったかしら? 」

「まぁ、わからんでもない。」

「アデニ、そうなの? 」

「見ればわかる。」


 ハシュリーは疑問が晴れることなく アデニの顔を見ていた。



「それでね、黒い煙の、黒髪のそばにいた二人がね……」


 もう一度 果実酒を杯に注いで飲んでいたチィは、


「一人は目の色が変わって、一人は耳の形が変わっていたわ。」


 この報告に、二人がどう反応するかを楽しみにしていた。


「ほぅ。」

「それ本当なの!? だとしたら凄い発見ね!? 」

「それで、どうするの? ラグウォートも まだ寝てるみたいだし。」


 強い興味を示した二人の反応に満足しながら、

チィはアデニに尋ねた。


「目的は、シュロソ導師のところに黒髪を連れていく。だからな。」


 アデニはそう答えてハシュリーへ視線をやり、


「導師は黒髪に興味津々でしたからね。今は私も。」

「まぁ、暴れられれば どうでもいいんだけどねー。」


 好奇心を刺激されて胸が弾むハシュリーの胸を横目に

興味なさそうにしているチィは自身の胸に視線を落として、

今度は果実酒の肉厚なガラス瓶を持って、直接 口をつけて飲んでいた。



「ラグウォートが動けるようになったら、黒髪を探そう。」


 アデニは話を締めくくり、


(黒髪……お姫様か……ククク……)


 彼は初めてソーマを目にした時のことを思い返して、

口元を歪めていた。

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