第114話 黒い魔力に笑う者
ソーマがフォリアに刺され、地面に倒れこんだ直後――
パプル家の屋敷の正門付近では、
「ソーマ君っ!? 」
「ソーマ様っ!? いやぁっ!? 」
すぐそばにいたジョンとミザリーが、
血や地面に汚れるのも考えもせずに ソーマのそばで膝をつき、
ジョンは倒れたソーマに手をのばそうとし、
ミザリーは両手で顔を覆って うつむいていた。
*
「―― くっ!! 」
異常を察知したマルゼダは使用人たちの間を割って出て
服に隠し仕込んでいた短剣をフォリアに投げつけ、
「がっ!? 」
ソーマを刺して ひとしきり叫んでからは
そのまま立ち尽くしていたフォリアの首に、
マルゼダの投げつけた短剣がズブリと突き刺さり、
彼女は短い悲鳴とともに仰向けに 地面にと倒れ込んだ。
「フォリアっ!? 」
「フォリア……どうしてっ!? 」
倒れたフォリアの
地に膝をつけ 驚き戸惑いながらも声を掛けた。
カルミア、ラティ、フォリアの目的は、
教団のために『ソーマを連れていくこと』であり、
彼を死に至らしめることではなかった。
また、ラティが彼を思い 目的を果たさない可能性はあっても、
フォリアが彼に対して殺意を抱いていたとは、
二人とも思ってもいなかったのであった。
「……ずっと……三人で……ずっ……と……」
首と口から血を流し、かすれた声でフォリアは言い残し、
「フォリア……」
「なんてことを……」
ラティもカルミアも、彼女が助からないことを悟って涙を流していた。
*
(早く医師を、いや、これだけ深々と剣が突き刺さっては……)
ジョンはソーマの状態を見て、目を伏せた。
地面に横たわったソーマは 胸から背中にかけてを剣で貫かれ、
胸と背中と、そして口から血を流し、痛みに顔をしかめながら
目を
「ソーマ様……ソーマ様……」
隣ではミザリーが手で顔を覆ってうつむいたまま
(余程 彼を想っていたのか……)
ミザリーの様子にジョンはそう思った。
そして ジョンは後ろの 屋敷の方向を振り返ると、
ディールやパンジー、屋敷の人間たちやマルゼダも、
もう彼は助からないと、この現状に顔を伏せ 言葉も出ないようであった。
(街の外で戦っているバーントたちにどう伝えれば……)
ジョンは今も戦っているであろう彼らを思いながら、
改めてソーマの顔を見下ろした。
彼は
目を瞑ったまま、血で汚れた歯をむき出しに ニヤリと笑んでいた。
(―― なっ!? )
ジョンが それに気づいた時――
彼の流した血や影、彼自身から爆発的に黒い
煙のようにゴウゴウと噴き上がっていった。
粒子の湧き上がる範囲は急速に拡大していき、
屋敷全体を簡単に包み込める程にまで なっていった――
*
(呼ばれている。呼ばれている。)
ソーマとジョンの二人を、
そしてカルミア、ラティ、フォリアの三人の後を追いかけ、
以前には加工屋で ソーマに服を着せられていた長い黒髪の女性は、
「音ならざる声。呼び寄せるもの。『悪』になるもの。変えられるもの。」
湧き上がる黒い
透明になっていた体と服の色を元に戻し、呟いていた。
「あぁ……何を? 誰に? 考える? 」
湧き上がる黒い魔力の中心にいるソーマへと向かいながら、
「次は、どう
表情はないものの唇の両端がニィと つり上がり、
ぺろりと出した舌が 身長ほどの長さにまでにジュルリと伸びて、
膨らんで太くなったが、人並みの長さと太さの舌へと短く戻っていた。
*
「な、何よこれは……」
襲撃者の死体を確認していたため、
遅れてソーマ達を追いかけていたシェンナは、
「火事……ではない、黒い煙……? 」
パプル家の屋敷の近くにまで来た時に、
空高く噴きあがる黒い魔力を目撃して足を止めてしまっていた。
(彼らがいるのは間違いないんだろうけど……)
シェンナの意思に反して、
生存本能が屋敷へと近づくことを避けていた。
「行かないと……」
それでも、彼女の体は前に進めなかった。
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