第113話 街の外 人と犬の戦場
ソーマがフォリアに刺されるまでの時――
ノースァーマの街へと迫り来る犬達の視線の先の空では――
キラリと光る晴天の星々のように
また、黒き雨のように ザンザンと
冒険者たちの手から放たれた矢が降り注ぎ、
天から落ちる小さな太陽のような火の球の数々が、
荒ぶる風と共に地面へ、犬の魔物の群れへと叩きつけられた。
ノースァーマの街の外で、
守るべきモノを守ろうとする
街の中へと攻め入らんとする
より遠くから、より多くの敵を減らす。
敵と味方が入り乱れる状況では、
遠距離用の武器は 味方を撃つ可能性が高くて使えない。
それがわかっているからこそ、
それがわかっているからこそ、
犬の魔物の群れは全速力で走っていた――
*
走り、走らされてシアンの息があがる。
シアンはブラウに連れられ 手を引かれ、
街の外から中へ、街を守る石壁の上へと急ぎ駆けていた。
魔物の群れへ魔法による攻撃を仕掛けた
魔法以外の攻撃手段がなかった。
乱戦になった場合、また集団に囲まれた場合の防衛策も
彼女は持ち合わせていなかった。
ブラウは、そんなシアンの護衛に専念し、
状況に応じては再び、魔法での攻撃を考えていた。
石壁の上へと移動している間に、
戦況がどう変化しているのかも わからないのだから。
「まだ多くの犬たちが……私達は……勝てるのでしょうか? 」
「勝たねばなるまいよ、シアン。」
辿り着いた石壁の上から見渡す街の外の光景に、
「そうでなければ、次は街の中が戦場になる。もう一度……」
「……、……、……」
ブラウは、震えるシアンを奮い立たせていた。
*
もしシアンとブラウがいたとしても 魔法では唱えるのに遅く、
弓矢では 狙って一矢撃つのが限界であろうほどに近い距離にまで、
犬の魔物の群れが接近していた。
様々な鎧を着た冒険者たちが、各々に武器を用いて 犬に振るい、
犬達は、爪と牙と数でもって冒険者たちに襲い掛かっている――
*
「犬相手じゃ、重い武器を振り回している暇もねぇな!! 」
橙色の髪のパンプは 背中に担いでいた
腰に帯びた剣を振るい、犬を斬り伏せていた。
「オーカー! カーキー! 背中は任せたぜっ!! 」
「へいっ! 」「おうっ! 」
パンプは後に続く二人の返事を聞きながら、
(バーントは……まぁ無事だろう、が……)
彼のいるであろう方向に視線を向け、次の敵へと剣を走らせていた。
*
こげ茶色の髪のバーントは、
以前よりも露出が過激になった鎧を着たアルテナと ともに戦場を駆けていた。
バーントとアルテナは事前の打ち合わせもなく、
アルテナが群れの中を駆けていき、アルテナに意識の向いた犬たちを
バーントが仕留めていく戦法を取っていた。
アルテナの速さ 身軽さと バーントの
群れの数を減らしながら 二人は、黒い三つ首の犬の魔物を目指していた。
バーントは左腕に中型の盾を持ち、右手には両手持ちもできる長剣を、
そして背中に携えた槍筒には投擲用の槍が三本 入っていた。
長剣も背中の槍も、黒い魔物と戦うためだけに用意した代物であった。
(あの黒い魔物は、ソーマを狙っている……)
一度は街を去った黒い魔物が再び攻めてきた理由。
(ソーマは、普通の人間なんだ……)
髪が黒いだけの彼との 今まで起きた事を思い返し、
―― これからも、おれの事……守ってくれますか?
バーントを抱きかえし、笑みを浮かべるソーマを思い返して、
(ソーマは、おれが守るんだっ!! 今度こそっ!! )
バーントは長剣を強く握りしめて、アルテナの後を追いかけていた。
*
「いたっ! 黒い魔物っ!! 」
バーントの先を走るアルテナは、その姿を見つけて声を上げた。
緑色の体毛をしている犬の魔物二匹の後ろに、
その二匹よりも巨大な黒い三つ首の犬の魔物。
「ホォ、ダレ ト 思エバ、アノ時ノ。」
黒い三つ首の犬の魔物はアルテナを見て声を掛け、
「クロイ カミ ハ ……マチ カ。」
アルテナより遠くを、黒い魔物は見つめていた。
「っ!? させないっ!! 」
その視線の先に気づいたアルテナが、
剣を構えて魔物へ迫ろうとするが――
「コレ ハッ!? 」
三つ首の魔物が驚愕を示し、
二匹の犬の魔物が怯えて三つ首の後ろへ逃げ、
「あれは……!? 」
目の前の魔物よりも強い『何か』を感じたアルテナが
思わず振り向いた先―― ノースァーマの街の中で、
「いったい どうし―― あの黒い煙は!? 」
追いついたバーントがアルテナ達の様子を見て 同じように振り向いた――
*
「また、黒い魔力が……それも今までよりも巨大な……」
「あの方向……パプル家の屋敷のあるところではないか?……」
街中に突然現れた黒い魔力に、シアンは恐怖のあまりブラウに縋りつき、
ブラウは険しい表情で、天高く噴きあがる黒い魔力を睨みつけていた。
*
アルテナとバーントは戦場にいることも、
すぐ近くに敵がいることも忘れて、黒い魔力を呆然と見ていたが、
「呼ンデル……」
黒い魔物が二人を跳び越えて駆け出していき、
「っ!? バーントっ!! 」
「わかっているっ!! 」
我に返った二人は、三つ首の魔物を急いで追いかけた。
「呼ンデル 呼ンデル!! 」
黒い三つ首の犬の魔物は噴きあがる黒い魔力へ向かって駆ける。
「行クゾ! スグ 行クゾ! 」
黒い魔力へ、街へ走り、それでも急ぎ、
「―― 我ガ子 ヨッ!! 」
魔物の背中から黒い翼が生え、黒い三つ首の犬の魔物は空を飛んだ。
黒い魔力は衰えることなく空へと噴きあがり続け、
家に引きこもっている街の人間たちを不安と恐怖に陥れていた。
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