第111話 壊れた屋敷

「本当に こちらは違うようだが……まぁいい。」


 『両手探りょうてさぐり』の襲撃を受けたパプル家の屋敷。


「おれは血が見れれば、それで良いのさ。」


 パプル家の人間であるディールとお付きの侍女のパンジーは、

自分たちの前に現れた青紫の髪色をした男の登場に、危機を感じていた。



 だが 両者の間の空間に、外から『何か』が壁を壊し――



「んー? 邪魔したかな? 」


 ―― そこからヴィラックが侵入し、

ディールたちと両手持ちの剣を持った男とを見比べていた。


「……まぁ、邪魔だが。」


 ヴィラックの顔を見て青紫の髪の男が言い、


 そして壁を壊した『何か』を見てから、

ニヤリと口元を歪めてヴィラックを見た。


「そうか、邪魔か。」

「ああ、邪魔だ。」


 ヴィラックは左腰に帯びた剣に手を、

男―― 『血風けっぷう』のアコニは、剣を構えて前傾に姿勢を低くし、


 互いに接近し、両者の剣が交えて火花が発した。





(だいぶ やられたみたいだな……)


 朱色の髪の男マルゼダは、パプル家の屋敷内へと入り込んでいた。


 襲撃者の撃退と、屋敷での生存者の保護のために。


 血の匂いに顔をしかめ、警戒を怠らずに通路を歩いて、

ソーマの間借りしている部屋に入った。



(本当に、彼に何かあるのか? )


 黒魔導教団が、そして『両手探りょうてさぐり』が、

ソーマを狙って襲撃したのだろうと想定して、

マルゼダは潜伏者がいないかどうかを確かめていた。



(そういえば……)



「確か……ミザリーとか言ったか? 」


 ブリアン家の屋敷にいた時から、

ソーマの世話をしていた使用人彼女のことを思い出していた。



 ガタッ



「っ!? ……、……ミザリー? 」


 物音を聞いて一瞬、腰に帯びた剣へ手を伸ばしつつも、

マルゼダは確かめるように 大きな衣装棚クローゼットに声を掛けた。


「は、はい……ミザリーです……」

「あぁ、良かった。襲撃者が隠れてるのかと思った。」


 衣装棚から出てきた薄黄色の髪の使用人に、

マルゼダは安堵しつつ話しかけた。



屋敷ここにも 加工屋にも、彼を狙う敵が現れたんだ。」





屋敷こちらも襲撃されていたのか……」


 悔しさと焦りと悲しみと、怒りや不安の混ざった声で

ジョンがおれの隣で呟いていた。


 おれも同じ気持ちだった。


 屋敷への道の途中には 血痕が付いてあったし、

屋敷の正門から入り口までは無残にも壊されている。


 屋敷から逃げようとしたのか 真っ黒に焦げた人の死体があるし、


 正門とかを壊すために使って用済みになったからか、

金属の柱のような物が、ここに捨てられていた。



 どうしてこんなことを……


 屋敷の中にいた人たちは……ミザリーさんは無事なんだろうか……



 無事を願って屋敷の中へ入ろうと一歩踏み出したけど、

いきなり ジョンに腕を掴まれて、おれはジョンを見上げた。



「すぐに中に入って、誰に出会うかわからないよ。

あの『両手探りょうてさぐり』の人間と出会うかもしれないしね。」



 両手……あのアデニとか言ってた男の仲間がいるかも、か……


 ジョンの言うことも わかるけど……


 ジョンの顔と、壊された屋敷の入り口とを見て、

おれはどうすれば良いか わからなかった。



 けど、入り口の方からバタバタと足音が響いてきて――


「ソーマ様っ! 」

「おおっ、無事みたいだな。」


 ミザリーさんにマルゼダさんが、


「ジョン、なぜ屋敷こっちに戻ってきたんだ!? 」


 ディールさんやパンジーさんが、

屋敷の使用人の人達を数名ひきつれて、入り口から出てきていた。



「ディール、こっちも襲われてたんだろう。」

「こっちも、って……」

「ああ、来たよ。襲撃者たちが。」

「……」


 ディールさんはジョンの言葉を聞いて 声が出ないようだったけど、


「そっちは片付いたのか? 」

「いや、まだ中に敵がいる。外から現れた奴が戦ってくれているんだ。

以前……見たことのあるような男だったが。」

「そうか……こちらは片付いたよ。衛兵士の連中とかが来ててね。」

「衛兵士が! それなら、時期に屋敷にも駆けつけてくれるか。」

「そう期待しているよ。」


 二人は情報のやりとりをしていた。



 それを横目に――



「ソーマ様に何事もなくて、良かった……」


 ―― 正面に立つミザリーさんが、瞳を潤ませて おれを見つめ、


「おれも、ミザリーさんが無事でよかった……」


 おれはミザリーさんを抱きしめたい衝動に駆られながらも、

その衝動を抑えて見つめ返し、屋敷の方を見上げた。



 正面入り口を壊された屋敷。


 静寂の中で 風が鋭く鳴いて耳に響いている……



 そして、背中をゾクリと刺すような冷たい悪寒に、

おれは思わず身震いをしそうになっていた――

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