第111話 壊れた屋敷
「本当に こちらは違うようだが……まぁいい。」
『
「おれは血が見れれば、それで良いのさ。」
パプル家の人間であるディールとお付きの侍女のパンジーは、
自分たちの前に現れた青紫の髪色をした男の登場に、危機を感じていた。
だが 両者の間の空間に、外から『何か』が壁を壊し――
「んー? 邪魔したかな? 」
―― そこからヴィラックが侵入し、
ディールたちと両手持ちの剣を持った男とを見比べていた。
「……まぁ、邪魔だが。」
ヴィラックの顔を見て青紫の髪の男が言い、
そして壁を壊した『何か』を見てから、
ニヤリと口元を歪めてヴィラックを見た。
「そうか、邪魔か。」
「ああ、邪魔だ。」
ヴィラックは左腰に帯びた剣に手を、
男―― 『
互いに接近し、両者の剣が交えて火花が発した。
*
(だいぶ やられたみたいだな……)
朱色の髪の男マルゼダは、パプル家の屋敷内へと入り込んでいた。
襲撃者の撃退と、屋敷での生存者の保護のために。
血の匂いに顔をしかめ、警戒を怠らずに通路を歩いて、
ソーマの間借りしている部屋に入った。
(本当に、彼に何かあるのか? )
黒魔導教団が、そして『
ソーマを狙って襲撃したのだろうと想定して、
マルゼダは潜伏者がいないかどうかを確かめていた。
(そういえば……)
「確か……ミザリーとか言ったか? 」
ブリアン家の屋敷にいた時から、
ソーマの世話をしていた
ガタッ
「っ!? ……、……ミザリー? 」
物音を聞いて一瞬、腰に帯びた剣へ手を伸ばしつつも、
マルゼダは確かめるように 大きな
「は、はい……ミザリーです……」
「あぁ、良かった。襲撃者が隠れてるのかと思った。」
衣装棚から出てきた薄黄色の髪の使用人に、
マルゼダは安堵しつつ話しかけた。
「
*
「
悔しさと焦りと悲しみと、怒りや不安の混ざった声で
ジョンがおれの隣で呟いていた。
おれも同じ気持ちだった。
屋敷への道の途中には 血痕が付いてあったし、
屋敷の正門から入り口までは無残にも壊されている。
屋敷から逃げようとしたのか 真っ黒に焦げた人の死体があるし、
正門とかを壊すために使って用済みになったからか、
金属の柱のような物が、ここに捨てられていた。
どうしてこんなことを……
屋敷の中にいた人たちは……ミザリーさんは無事なんだろうか……
無事を願って屋敷の中へ入ろうと一歩踏み出したけど、
いきなり ジョンに腕を掴まれて、おれはジョンを見上げた。
「すぐに中に入って、誰に出会うかわからないよ。
あの『
両手……あのアデニとか言ってた男の仲間がいるかも、か……
ジョンの言うことも わかるけど……
ジョンの顔と、壊された屋敷の入り口とを見て、
おれはどうすれば良いか わからなかった。
けど、入り口の方からバタバタと足音が響いてきて――
「ソーマ様っ! 」
「おおっ、無事みたいだな。」
ミザリーさんにマルゼダさんが、
「ジョン、なぜ
ディールさんやパンジーさんが、
屋敷の使用人の人達を数名ひきつれて、入り口から出てきていた。
「ディール、こっちも襲われてたんだろう。」
「こっちも、って……」
「ああ、来たよ。襲撃者たちが。」
「……」
ディールさんはジョンの言葉を聞いて 声が出ないようだったけど、
「そっちは片付いたのか? 」
「いや、まだ中に敵がいる。外から現れた奴が戦ってくれているんだ。
以前……見たことのあるような男だったが。」
「そうか……こちらは片付いたよ。衛兵士の連中とかが来ててね。」
「衛兵士が! それなら、時期に屋敷にも駆けつけてくれるか。」
「そう期待しているよ。」
二人は情報のやりとりをしていた。
それを横目に――
「ソーマ様に何事もなくて、良かった……」
―― 正面に立つミザリーさんが、瞳を潤ませて おれを見つめ、
「おれも、ミザリーさんが無事でよかった……」
おれはミザリーさんを抱きしめたい衝動に駆られながらも、
その衝動を抑えて見つめ返し、屋敷の方を見上げた。
正面入り口を壊された屋敷。
静寂の中で 風が鋭く鳴いて耳に響いている……
そして、背中をゾクリと刺すような冷たい悪寒に、
おれは思わず身震いをしそうになっていた――
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