第54話 華

「う~~ん……」

「ディール様、お腹痛いなら浣腸しましょうか? 」

「違うわっ!! というか、なぜいきなり浣腸になるんだよパンジー!? 」


 未だ顔のあちこちも腫れているディールは、

お付きの侍女であるパンジーの言葉にツッコミを入れた。


 パプル家の庭で白塗りの椅子に腰かけ、

のんびりと造園を、草花を愛でていたディールだったのだが、

 どうしても気になることが自然と脳裏に浮かび上がり、

唸り声をあげてしまっていたのであった。



「では何も悩みもないあなたが、なぜ唸っていたのですか? 」

「いちいち失礼だなパンジーは! 悩みの一つだってあるわ!

そうじゃなくて、あの時の黒髪の少女がだな……――」


 ディールはあの時の、自身へ抱き着いた黒髪の――


「あぁ、ブリアン家の屋敷で服の下にいろいろ仕込まれている あの子ですか。」

「―― 具合が悪かっただけかもしれないだろうがっ!!」


 ―― そんな具合が悪かったのかもしれない少女を、

結果的に見捨てたかもしれないことが気がかりだったのだ。



「しかし一言も話さず、ただじっと顔を見てたのがわからないな……」

「ですから、やはり何か仕込まれていたのでは? 」

「そういう方向はもういいからっ! ……待てよ? 」


 パンジーのいつもの調子の発言を切り捨てつつ、

そこから一つ可能性をディールは見出した。


「あいつの屋敷の中だから、迂闊に声を上げられなかったとか? 」


 そんな可能性を見出していた。


「あの服の下に仕込みを……まぁ屋敷にいる時点で、

ブリアン家の関係者でしょうしねぇ、あの子は。」

「むむむ……あの時『助けを求めていた』のは、間違いではないはずだ。」

「それを遠ざけて、さっさと帰りましたけどね。」

「ぐぬぬ……ジョンのやつ、年頃の女は嫌でも、小さければ良かったのか。」

「……?」


 パンジーの言葉にいちいち反応をしつつ、それからディールは少し考え、


「よし、今度は会いに行ってみるぞ。」

「その腫れた顔で? 」

「腫れが治まってから!! 」


 顔の腫れが治まってから、ブリアン家へ行くことを決意していた。





 誰か助けてくれ~……


 体調崩した日から三日が過ぎて、

まだちょっとだけ不調は残ってるけど、

それでも体の方は回復してきた。


 声は まだ出ないのが気がかりなんだけど、

それ以外は至れり尽くせりで、VIP待遇過ぎて逆に落ち着かないくらい。



 元の世界で、これくらいの待遇を受けれていれば、

さぞ心地よかったんだろうけどねぇ。



 それで今……といっても夜中で、もう寝るしかないんだけど……


「……」


 あの日から、夜はミザリーさんに添い寝してもらってるのが辛い……


 お互い裸でね!


 普段だったら嬉しいんだろうけど、

いつもだったら内心嬉しいんだけどさ……


 相手の善意につけこんでいる気がして胸が痛いんだよね。

本当だったら、こんなことしなくて良いはずなんだし。


 それに、サウナ室……じゃなくて、ロウリュだったか?

そこで汗や汚れとか落としに行けてないから、臭うと思うしね。



 ちらりと横眼でミザリーさんを見る。


 おれの視線に気づいて、彼女は笑みを浮かべていた。


 ミザリーさん自身が負い目を感じているのか、

昼間でも自分に尽くしてくれていて、申し訳ないんだよなぁ……


 あ、でも排泄の時に浣腸器を持ってくるのだけは勘弁してほしかった。

便秘してないから必要ないしね。

 もしくは趣味? とも思ったりしたけどさ。



 ジョン以外に、ケツ狙ってくる人がいるとは思わなかったよ……


 そういえば、あれからジョンを見てないな……

向こうが部屋に来ない限り会えないからしかたないけど。


 別に会いたくもないしね。掘られたくないし。



 アルテナたちも一日に数回、顔を見に部屋に来るくらいで、

他の時間何をしているのかわからないしなー……


 声が出れば、話ができれば、それで時間潰せたかもしれないけど。

できない以上は話を聞くか、そばにいるだけだしねぇ……


 ……退屈になるのが辛い。早く寝てしまおう。



 肌にかかるミザリーさんの吐息や

女性特有の甘い匂いでドキドキしながら、

おれは早く声や体調が良くなることを望んで眠ることにした。


 明日には、声が出ますように……

あと、体をキレイにしたい。できれば風呂に入りたいんだよなぁ……

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