第49話 責

 アルテナ、シアン、ブラウ、バーントの四人がブリアンの屋敷に帰ってきた時、

慌ただしく駆けまわる使用人たちの様子に、屋敷の中での異常を感じ取った。


 日は遠く、残照もいずれ夜に落ちる頃合いであったが、

屋敷の中を灯してまわるのとは違い、火に惑うような様子であった。



 通りかかった使用人の一人に話を聞くと、


「お連れの方が、急に体調を崩されまして―― !! 」


 と、悲鳴のように答えたため、

四人は急ぎ、ソーマがいるはずの部屋へと駆けこんだ。



 アルテナを先頭に部屋へと入ると、


 寝台のそばに医師の男性とジョンがおり、

壁の方で使用人たちがずらりと控えていた。


 当の本人は顔を赤くし息を荒げ、苦しそうに寝台へと寝かされており、

そんなソーマを医師が触診していた。



「何があった? 」


 ソーマへと視線を向けているアルテナやシアンと違い、

ブラウとバーントはジョンへと視線を向け、

ジョンと親しいバーントが代表して尋ねた。


「……、……」

「ジョン。」


 バーントが目の前に立ち、肩に手を置いても返事がなく、


「……、……」

「おい、ジョン。」


 バーントに問い詰められ、うつむいていたジョンは


「……ボクたちの失態だ。」


 悔いながら顔を上げた。



 ジョンは――


 退屈であろう彼を、油を用いた按摩へ誘ったこと。

 途中で面会があり、彼を残してそちらへ対応していたこと。

 彼が按摩中に眠ってしまっていたこと。

 按摩師達や その部屋に残しておいた使用人が、

按摩を終えても彼を起こさず退室し放置してしまっていたこと。


 ――それらをぽつりぽつりと打ち明けた。


 本来は、按摩中に抱こうとしていたことや、

彼と対面して即座に異常を見抜けなかったことなどは伏せていたが。



 聞くに限れば『不運が重なった』とも言えると、

バーントやシアンは思ったのだが、


「……医師を呼ぶために、彼を居残らせたはずじゃなかったの? 」


 アルテナはジョンをキツく睨んだ。


 アルテナたちは最初、

ソーマも連れて冒険者斡旋所へ行くつもりであったのだ。


「――っ!」

「……ブリアン家だかなんだか知らないけど、聞いて呆れるわ。」


 ジョンの説明と彼の現状、

そして今、医師が不安そうに視線を彷徨さまよわせていたのを見て、

アルテナは肩を落としてため息を吐いた。


「ぐっ!? 」

「ソーマの状態が、さらに酷くなるようなら許さないからね。」


 ジョンの歪む表情を見て、アルテナはそう吐き捨てて部屋を出て行った。



「シアンは彼女についてなさい。」

「お師匠様? 」

「医師がいてくれているのだから、

我々がここに居続けても、することがないだろう? 」

「それは……そうですけど……はい……」


 と言いつつ、シアンも釈然としないまま、アルテナの後を追って退室した。


「さて……医師の方には伝わっているかわかりませんから、

ソーマ君に関して言わせていただきますと。」

「はい? 」

「彼の、体調を崩す前の状態は――」


 ブラウは、自身が知る限りのことを医師の男性に話した。



 医師はブラウの話に驚くばかりだったが、


「そういうことがあったのですか……

これは、しばらく様子を見ないといけませんね。」


 と、真剣な表情で頷いてソーマを見ていた。





 ジョンは自責の念にかられていた。


 彼の状態をあの時 即座に見抜けなったのもそうだし、

ディールを叩き返した後、すぐに様子を見に行かなかったことも、

そもそも、彼をどうにかして関係を持とうとしていたことも間違いであったからだ。


 ジョンの中で『貴族の人間か否か』という、立場の線引きがあるが、

彼は親友の連れであり、ジョンにとって『客人』であるということを失念していた。


 嫌がる客人に対し執拗に抱擁するという無礼を働いたうえ、

按摩に誘っておいて放置し結果、体調を崩させるという、

ブリアン家の貴族として、やってはいけないことをやってしまった。


 それに彼や、彼女達にウソをついてしまった。


 屋敷に訪れた初日であり、昼も過ぎているし、

彼の状態を正確に把握していなかったから、

翌日にきちんと医師を呼べば良いと考えていた。


 抱えの医師も、薬の調達や診察、休養を欲しているだろうから――


 というのもあったが、言い訳にしかならないことは充分自覚していた。



 しかしどうにもならない。


 彼らと出会って早々から――


(ボクは何をしているのだろうか――)


 と、ジョンはうなされているソーマの寝顔を見て、拳を強く握りしめた。


 もし彼の症状が悪化するようなら、

彼女が許さない以前に、自分が許せない。


 ブリアン家の嫡子ちゃくしである自分がなんという失態を――

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