第45話 美しいドレスに抱擁を

「ソーマさんかわいいぃー!! きゃーっ!! 」


 う、嬉しいけど複雑っ!! む、胸が! 息が! 匂いが! 体温がっ!

でも複雑すぎて喜べないっ!! 嬉しいけど離れてくれシアンさんっ!!


 喜色満面なシアンさんにキツく抱きしめられ、

 男として嬉しいけど、男として嬉しくない現状に、

おれは引き剥がすこともできずに、ただ腕を震わせていた。



「いったい何の騒ぎ……シアン! 」


 ロウリュの脱衣場から出てきたアルテナが駆け寄ってきて、

シアンさんを引き剥がしてくれた。


 助かって嬉しいような、嬉しくないような……


「……ソーマ? その恰好……」


 事情も知らずに助けたアルテナも、おれの姿に目が点になっていた。


(まぁ、そうなるよな……)


 アルテナもシアンさんも、体型に合致した綺麗なドレスを着ていた。


 ロウリュへ向かう前に簡単に採寸して、

脱いだ衣服や鎧からもサイズを測ったんだろうし。



 おれも体型に合致した綺麗なドレスを着ていた……



 脱衣場でコレを見た時、

おれもブラウさんも、バーントさんもビックリしてたよ。


 バーントさんが 近くを通りかかったメイドさんに確認をとってもらったら、


「今ある服で身長に合わせたら、それしかなかったそうだ。」


 ということで、ドレスを着るハメになった。


 他の男物の服を着れば良いだろ、って思ったんだけど、

袖や丈が余分に長くなって折りまくらないといけないし、

服にそういうしわができるのはダメらしい。


 それに、体型に合わない服は絶対に出さないらしい。



 体型に合わない服を出すと


『相手の体型も見取れない、体型に合わせた服を提供できない失礼な家』


 という悪印象を持たれてしまうからだとか。



 だからってドレスは着たくなかったよ……

濡れた薄いタオルみたいなのだけでいるわけにもいかないし……風邪ひくからね


 今まで着ていたのは もう洗ってるみたいだし、

元の世界のパジャマは……明日着よう。だいぶスレてボロくなってるけど。



 ドレスって女物だから肩幅とか合わないだろうと思ってたら、

合っちゃったんだよなぁ……腰回りは胴の帯で調整できるみたいだし。


 上下一体型のドレス、それにしてもスカートか……うぅ、足元が不安。


 用意されていたのがドレスだけだったからノーパンツ。


 女物でいいから何か貸してほしかった……


 でも声出ないから言えないし、

これをどう伝えれば良いのかもわからなかった……


 スカートの中に、何重にもふわふわなやつが仕込まれているけど


(……は、恥ずかしいなぁ……)


 意識しとかないと、いつか猥褻わいせつ物陳列罪で捕まっちゃうよ……





 彼は背が低く、以前からまるで子供のように思っていたバーントだったが、


 ソーマのドレス姿を見て、


(ちょっとこれはいけないな……)


 と思っていた。



 というのも――



「おぉ、全員揃っているね。」


 通路の途中の脇道から、ジョンがやってきた。


「いやぁ、我がブリアン家の用意した衣服はピッタリみたいだね。

お嬢さまがたのドレスも美しい。」


 そのままジョンが、こちらに近づいてきて褒めている。


 内心は警戒しているバーントだが、現時点では何も問題ない――


「君はドレスもピッタリなのか、アッハッハッハッハ!! 」

「「「っ!? 」」」


 ―― 歩みを止めずにソーマに抱き着いたのは問題だった。


 抱きしめられた当人はもちろん、彼女達もブラウも驚いていた。


 ソーマは振りほどこう、引き剥がそうとしても、ジョンが離さなかった。



「……ジョン、そのへんにしておけ。」

「……、……、わかったよ。」


 ジョンの肩に手を置いて数秒、彼は名残惜しそうにソーマを放した。


「少し遅いけど昼食を用意したんだ。食べにおいでよ。」


 笑顔で伝えると、また元の脇道へと戻って去っていった。



 バーントがそれを見届けると、自身へ視線が集まっているのに気付いた。



「バーント君、彼はその、もしかして……」


 バーントはブラウの言葉に頷いて、


「彼なりの事情はあるが……男色家だ。」


 バーントの言葉にブラウは納得し、アルテナは理解できずにキョトンとし、

シアンは両手を口元に当てて顔を赤くし、ソーマは顔を青ざめさせていた。

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