4 男色貴族の屋敷へと

第43話 ノースァーマの街の貴族

 マルゼダはノースァーマの街に入ったあたりで、彼らと別れた。


 馬車の中では、特に誰かに話しかけることはなく、

話しかけたかった人物が声が出ず、話せない状態だったため、

尚更 話すこともなく過ごしていた。


 本来、彼らと深く関わり合わない方が彼にとっては良いのだが、

気になったことがあれば放っておけないのが、マルゼダという人物だった。



 それでなくても、今回は収穫があった。


 魔物の卵の密輸を防いだし、魔物の脅威から村を救った。

 あのブラウ・マディソンと出会い、彼が魔力を用いて魔法を扱ったり、

義理の娘にも それを教え、魔物討伐に役立てていることを知った。


 黒い魔力というものがあり、それが魔物を変異させ、

人体に影響を及ぼすことをも知ることができた。



 そしてどうやら、彼らを尾行する者がいることも掴めた。


(黒魔導教団といったか……)


 尾行している者が教団の者ではないのかもしれないが、

それにしても、やはり黒髪の彼には 何かがあるのだろうか?



(ソーマ……たしか物語に出てくる薬の名前だったか? )


 信仰に左程の興味もないマルゼダは軽く首を傾げたが、


「毒となるか薬となるか……できれば薬であってほしいもんだが。」


 彼の姿を思い返し、マルゼダは虚空を見つめて呟いた。


 マルゼダ はしばらく街の外を眺めていたが、

中へ入って、いずこかに去っていった。





 ノースァーマの街はホルマの街と違って、

ちょっと質素というか、どの建物を見ても派手な装飾が左程もなく、

鍛冶屋や加工屋、物を作ってる音が わりとあちこちから聞こえてきていた。


 馬車は まだ街中を走っており、木の車輪が石畳でカタコト鳴っていた。


 おれは荷台の縁の中央に背をもたれて外の景色を見ていた。


 武器に防具にと、冒険者のひとたちがそこらにうろついている感じ。

冒険者と商売人とが多く見えて、一般の人のが少ない印象だった。



「懐かしいね。」

「……昔と、では違いますか?」


 懐かしがるブラウさんに、バーントさんが尋ねた。


 バーントさんは なぜか自分からは名乗らなくって、

馬車の中で気を利かせたブラウさんが紹介してくれた。


 それでもあの人は、


「……よろしく……」


 と、一言しか話さなかったけど。



 ブラウさんの隣にバーントさんが、

おれの両隣には、アルテナとシアンさんが腰を下ろしていた。


「昔は……魔物と魔族と戦う最前線の集落でしかなかったそうだからね。」


 魔物と……魔族?


 ブラウさんは全員の視線が自身に集まっていることに気づいて、


「今でこそ、魔物は各地で自然発生するようになっているけれど、

昔はノースァーマの街より、さらに北の山々から降りてきていたんだそうだ。」


 まるで先生のように授業を始め出した。


 シアンさんのお師匠様だから、教えるのには慣れているのだろう。



 で、ブラウさんが続けて言うには――



 魔力が世界に降り注がれた日以降から、

天柱山と、さきほど言った北の山々から魔物が降りてきた。


 高い所に棲息せいそくする動物から魔物が生まれやすかったのだろう……と、

当時の人達も今の人たちも、そう推測していた。


 魔物たちがエサを求めて降りてきて各地へと向かい、

大勢の人々が犠牲になった。


 魔物同士での同士討ちも、もちろんあったのだろうけども。


 で、動物から魔物が生まれるのに、

人族から魔物が生まれない―― わけがなかった。


 緑色の髪を持つ人族、生まれながらにして人と違う形態をした人族、

つまり、人族から生まれを『魔族』と呼んだ。


 魔族と魔物の関係は不明だが、魔物を従えた魔族もいたそうだ。


 当時は魔族を魔族とも呼ばなかったけれど、

子を哀れんだ母親たちが隠し育て、一部は人々の中で暴れて殺され、

一部はいずこかに寄り集まって集落を作ったらしい。


 大抵の魔族は、魔物同様に街道や山道などで、行商や旅人を襲っていたらしい。


 今現在、あちこちにいるであろう『族』という呼び名は

その『魔族』から来ているのだそうだ。


「まぁ人族に似た魔物のほうが恐ろしいと、

当時の者達は魔族を徹底的に探したそうだがね。

その頃には……冒険者を辞めてホルマの街へ帰ってたね。」


 そう言ってブラウさんは締めくくった。


 懐かしんでいるように見えて、

ブラウさんにも当時は何かがあったのかもしれない。

 そんな表情をしているように見えた。



 おれはずっと『賊』だと思ってたけど、『族』だったんだね……

正直 どうでもいいけど。



 そうこうしているうちに馬車の動きが止まり、

おれ達は馬車から降りることになった。



「わぁ~、凄い綺麗……」


 馬車から降りて周囲を見回したシアンさんが感嘆の声を漏らした。


 バーントさんが宿と医師に融通が効くから、と言っていたらしいけど、

 ここはブラウさんの屋敷と違い、

まさに豪華な貴族の屋敷みたいな敷地に来ちゃったんですけど、


 あの、本当に ここで合ってるんですか?


 植え込みや庭もかなり手が込んでいるし、建物だって今まで見た中で一番凝ってる。

っていうか、木窓にガラス入ってるし!?


 この世界で自分が今まで見た限り、

どの建物もガラスなんて使われてなかったけど、あるところにはあるんだなぁ……



 馬車を動かしていた御者ぎょしゃはブラウさんから料金を受け取ると、

すぐに馬車を動かして、その場から去っていった。


 その間にバーントさんは入り口である鉄門のそばにいた男性二人に歩み寄り、

門番らしい男性のうち一人が屋敷の中へ、もう一人は、にこやかに会話していた。


 そして――


「やぁバーント!! ひさしぶりに会えてボクは嬉しいよ!」

「突然ですまないな。ジョン。」

「なんのなんの、君との仲じゃないか。

話は簡単に聞いたけど、部屋なら空いているし医師もすぐに呼ぼう。」


 屋敷から出てきた髪の黄色い男性が、

バーントさんと握手し、軽く抱擁した後に快く言っていた。



「……で、彼かな? 」

「ああ。」


 ジョンと呼ばれた男性が、スタスタとおれの前へと歩み寄ってきた。


「ようこそブリアン家へ、ボクはジョンって言うんだ。よろしく。」


 自分より頭一つ分背の高いイケメンが、笑顔で握手を求めてきた。


 もし日本に来てたら、女性たちがアイドルとしてキャーキャー言うくらい、

モデルさんみたいで爽やかな美形青年だった。


 おれは特に拒む理由もないから、笑顔で握手に応じた。


「いやー、君、子どもみたいに背が低いねー。」


 んっ? おわっ!?


 ジョンさんの握手した手に力が入って、グイッと引き寄せられた。


 そんなことをされると思ってなかったから、

引っ張られるまま、彼の胸に顔を埋める形になってしまった。


 あれ? バーントさんには抱擁しにいったのに、なんで?


 いくらカッコイイといっても、

男に抱きしめられても何も思わないし嬉しくもないし、

ただただ疑問にしか思わなかった。


「バーントもそうだけど、君もちょっとにおうね。」


 この人、初対面なのに失礼じゃない?

それに顔近づけてくるなよ! いつまで抱きしめてんだよ!?


 思った以上にコイツの力が強くて、引き剥がすのにかなり苦労した……


 なんなんだコイツは……

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