第42話 再会を喜ぶ暇すら今はなく

 ん……んん? おれ、また気を失ってた?


 寝ていたっていう自覚もなく、まぶたを開くと、

アルテナが横から、おれの顔を見下ろしていた。



「あぁ、やっと目が覚めた? 」

 アルテナ? おはよう。おれ寝てたみたいだね。


 やれやれと言いたそうな、少し安堵したような表情のアルテナに、

おれはそう言って上体を起こした。



 ここがどこかはわからないけど、ベッドの上ってことは、

宿か、それとも誰かの家かにお邪魔してるわけなんだな……



「……ソーマ? 」

 ん? どうしたの?


 アルテナが眉根を寄せて、険しい表情でおれを見ていた。



 ……アルテナ? ちょっ!? 顔近っ!?


 ずいっと横顔を近づけてきて、思わず顔を引いてしまう。


 遠目から見てもアルテナの顔はかわいいのに、

近くで見ると肌のきれいさとか白金の髪や、彼女の耳にも目がいってしまう。



「ソーマ……何日寝ていたかわかる? 」

 えっ? 言われてもわからないけど……そんなに寝てたの?


 横顔を近づけたまま尋ねるアルテナに、

彼女の瞳に、ドキっとしてしまいながら、おれはそう答えた。



「……ソーマ。」

 あ、アルテナ? ちょ、ちょっと痛いよっ!?


 急に正面を向いたと思ったら両肩を掴まれて、

痛みに思わず顔をしかめてしまった。



「声が……声が出てないっ……ソーマ……」

 ……え? ――


 そんなおれよりも、アルテナの方が泣きそうな表情をしていた――



 それから……



「……ふむ。恐らくだが、大声で泣いたことと、

あの黒い魔力を直に浴びた影響かもしれないね。」


 おれを診察し終えたブラウさんは、そう診断した。



 あの後アルテナは全員を呼び出し、

おれが寝かされていた部屋に全員が揃っていた。



 アルテナ、シアンさん、ブラウさん、

マルゼダさん、それから――


「何か? 」


 全員の中で一番 背の高い冒険者の男の人。

焦げ茶色の髪に、革に鉄板を貼り付けた軽鎧を着た、無表情な人。


 ―― 怖い。


 この人……あの時『母さん』と おれを殺しに来た人だ。



 思い出したら、また体が震えてくる。



「……詳しい事はノースァーマの街の医師に診てもらった方が良いだろう。

というわけで、食事をしてから村を出ようと思うんだが……」


 視線をブラウさんに戻し、

おれはブラウさんの言葉に頷いた。





(ソーマさん、声が出なくなってるなんて……)


 シアンがそれを聞いた時、まるで自分のことのように衝撃を受けた。


 アルテナに呼ばれて彼のもとへ行き、ブラウの診察の様子を見ていて、

彼が本当に声が出なくなっていることに思わず天を仰いだ。


 傍目から見て、何か変化や異常があったわけじゃなく、

ただ声が出なくなっていた。だから尚更シアンは驚いた。


 そしてソーマの、バーントへの対応を見て、

シアンの目から見て、彼が恐怖を感じていることがわかった。


 まるで幼い頃の自分のように、人前ではそれを見せないように……



「ソーマさん、動けますか? 」


 シアンは一歩前に出て、手を差し出した。

ソーマはシアンを見上げ 頷いて、その手を掴んだ。



 彼は戦うすべを持っていない。


 アルテナさんから聞いて、

魔物の死にすら涙した、あの時の様子から見てそれがわかった。


 彼は戦わない。戦えない。


 彼は私に似て、私と違っていた。


 私には魔法がある。



「すぐにおいしいものを用意しますからね。」


 シアンはソーマに、笑顔でそう言った。





 あぁ~、ひさしぶりにシアンさんの手料理を食べた。


 アルテナやみんなと再び会えて良かったよ。



 ……あの人が、なぜ一緒に行動しているのかわからないけど。


 向こうから変に話しかけてきたりしないから、まだ……ね。



 おれがリビングで食事を終えると、すぐに連れ出されてしまった。

もともと出発する手筈は整ってたみたいだった。


 ……おれが寝ててもそうするつもりだったのかな?


 声が出ないから、誰かに尋ねることもできないけど。



 村はのどか……というか、かなり暗い雰囲気。

閉鎖的なのか知らないけど、おれを見る眼がかなりキツイ。


 うん、早くこの村から出ていこう。


 布の屋根がついた馬車の荷台に乗りこんで、

馬車は村を出て、街道を走っていった。


 ノースァーマの街って、どんな街なんだろうなぁ……


 早く声が出るようになると良いなぁ……

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