第9話 森の中の遭遇

 森の中は、思った以上に暗くなる。


 日光を浴びようと木々が枝を伸ばし 葉を広げるからで、

日の光をさえぎられれば、その分 地上は暗くなる。


 そして今 段々と、日が沈みかけているのだった。


 日が完全に落ちてしまう前にと、

アルテナや村の大人たちは、村の近くにある森へと急いだ。


 アルテナはもしもに備えて、戦闘に入れるように剣だけを持ち、


 村人たちは火の棒(たいまつ)を複数本も持っていた。


 そのうちの一本に火をつけた状態で、

村人たちは二人、または三人と、隊を組んで行動していた。


 また村人たちも、思い思いに手ごろな武器を持ち歩いていた。



 森の中では、いつ、何が出てくるのかわからないのだから――





 魔物に魔力だなんて、

まるでゲームかファンタジーの世界だな……


 おれは木工の親父さんが言っていたことを思い返しながら、

木が鬱蒼うっそうとした森の中を走っていた。



 ―― おいおい、村の子どもを助けに行ってくれるのはありがたいが、

ここ最近は特に魔力が満ちてるらしくって危険なんだぜ?


 ―― 魔力?


 ―― んぁ? 魔力を知らねえのか? まぁ、おれもよくは知らねえんだがよ。

魔物って化け物が出てくるのは、その魔力のせい って話なんだよ。



 日の光を遮られ、草葉や木々に囲まれてうす暗い森の中。


 子供の姿や声を見逃さない 聞き逃さないよう

せわしなく注意を払いながら、おれは走り続ける。



 ―― おれの死んだ爺さんの……生まれる前か後かは知らねぇけど、

 真っ昼間の晴天だったのが突然真っ暗になって、

緑の胞子かなんかが空から降ってきたらしくってな。


 ―― それが魔力?


 ―― おうよ。誰がそんな名前を付けたのかも知らねぇんだがな。

 それからしばらくして緑色の化け物、魔物が出てくるようになったんだわ。

これが出てきた当時は、魔物のせいで あちこちで大勢死んだらしいしな。



「あっ!? 」


 何かに足を引っ掛けられて、つんのめって倒れこんでしまった。


「いってぇ……」


 何に足をとられたのかと思って見てみると、

木の幹と幹との間に紐が張られていた。

 引っかかる前は、草葉に隠れて見えない仕掛けになっていた。


 罠か。狩猟の……ではなさそうだな、これは……


 獣がひっかかるとも思えない。

いや、村から来るであろう人を狙った罠に、痛みとともに怒りも沸いてくる。


 しかし今は、迷っているであろう子供を探すのが先だ。


 そう考えて頭を振って雑念を追い払い、

森の中の捜索を続けることにした。



 ―― まぁ、魔力も一概に悪いことばかりじゃなくてな。

 魔力が広がってから生まれた連中は、

それ以前の連中より体が丈夫になったらしいし、

 最近聞いた話じゃ、その魔力をなんとか利用して

魔法ってのが出てきたらしいからな。

 まぁここらで魔力なんてもんをどうこうしようとしている奴がいたら、

相当の変わり者だろうけどなハッハッハ!!



 ……話に夢中になって、

豪快に笑う親父さんの顔まで思い出しちゃった。



 しかし、本当に魔法なんてものまで出てこられたら、

ここは過去じゃなくて異世界なんだって認めないといけないよな……


 じゃあ、なんでおれはここに来てしまったんだろうか?


 魔力とか魔法のせいなのか?


 おれは魔法を使えるようになるのか? どうやって?


 魔物以前に、人間相手にもビビッて動けなくなってるおれが、

魔法を使うことができても、いざって時に魔法を使うことができないかもな……


 はぁ……


 自嘲気味にため息を吐いてしまう。



 その時、子供の悲鳴が森の中に響いた。


 近い。何をもっての悲鳴なのか? あのバカ息子たちもいるんだろうか?

考えることはあるけど、その悲鳴の方向に足が向かっていた。





 森に入っていった子供と、

その子供を探すために森に入った彼を追って、

 アルテナと村人達が、組織だって森に入ってしばらく経った頃。


 微かに子供の悲鳴が聞こえたアルテナは集団から飛び出した。



 木の根や草葉やらで見えにくい足元よりも、


(枝から枝へと伝った方が速い。)


 と彼女は判断し 駆けた勢いで枝に跳び掴まると、

その勢いと腕力で次の枝へと飛び移り、

次々と枝へと飛び伝ってから枝の上に着地すると、

今度はまるで地面を走るように枝を跳んで渡っていった。


「嘘だろ……」

「おれは夢でも見てるんじゃないか……? 」

「裸の姉ちゃん凄ぇな……」


 それを見た村人たちは皆一様に立ち止まり、しばらく呆然としていた。



 枝を走り渡った先でアルテナは、その状況を見て軽く驚いた。


 手に何かを持って腰を抜かして驚き後ずさる子供、

その子供を守るように前に立つ彼、

 そして、彼らを襲おうと囲む緑色の大きな蜘蛛くもの群れ。魔物だ。



 アルテナは、魔物は単独で行動すると聞いていた。


 何せ周囲にいるものには、

手当たり次第に攻撃を仕掛けるくらい気性が荒いのだから。


 過去に遭遇した魔物も、単独で行動するものばかりだった。



 蜘蛛、虫は一度に複数の子供を産むとアルテナは聞いたことがある。

虫の子供の大半は天敵に食われたり、生き延びる数が少なくなるからだろう。



(その子供すべてが魔物だったら……いや、詮索せんさくは後でいい!! )


「はあああぁぁぁぁっっっ!! 」


 大声を上げて威勢をつけ、彼らの正面にいる魔物へと頭上から仕掛けた。


 狙い定めた一撃で一匹は地面ごと叩き斬られ、

地面から剣を振り上げた勢いで、そばにいた一匹を横に切り払う。


「アルテナ……」

「子供を連れて下がりなさい!! 」


 呆然としていた彼にアルテナが怒鳴ると、

ハッと正気に戻った彼は子供を連れて、その場から逃げ去った。



 二匹をやられた他の蜘蛛の魔物たちはいびつな奇声を上げ、

赤い眼が更に赤く、前足を上げて威嚇いかくをしていた。



 ただでさえ数が多いのに、この足場の悪い森の中では不利だ。

彼らが森から逃げ切るまでの時間を稼ぎつつ私も逃げよう。――


 アルテナは 瞬時にその判断を下すと後退しつつ、

飛び掛かってくる魔物を切り捨てる。それを繰り返す。


 魔物たちはそんなに頭が良くないのか、回り込むような行動は見られなかった。



「っ!? 」


 しばらく繰り返した後、後退あとずさった後ろ脚に突如触れた違和感を感じて

アルテナは咄嗟にそれを見て確認した。


 木々の間に張られた太めの紐。


 アルテナは知らなかったが

先ほど彼がひっかかった罠だった。


 そちらに意識が向けてしまったアルテナが魔物たちのことを思い出した時、

魔物たちは一斉に彼女に飛びかかっていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る