寛文3年(1663年)

正月と言えば餅だが小さい子供が食べるとハラハラするな

 さて、年末恒例の歌合戦や歌劇興行は無事終わって、無事に年末年始を過ごし年が明け寛文3年(1663年)になった。


「正月はゆっくりできて助かるぜ」


「そうですね」


 俺と妙はそんな事を言いながらのんびり過ごしているが、正月の7日間は吉原と品川の三河屋系列は休み。


 江戸の元旦は大晦日が徹夜な分どの家も寝正月なのだが、初日の出を拝みに早朝から出かける人々もたくさんいて品川は特ににぎわっているし、恵方詣りや氏神詣りもあるので浅草も人は多い。


 なので、小見世や切見世の女郎たち、浅草への参拝客で賑わう万国食堂や花鳥茶屋、吉原旅籠や吉原温泉、品川の店などは休んでるわけにも行かないので元旦は休みだが、二日目から仕事になってしまうけどな。


 何時の時代でもサービス業は辛いのだ。


 江戸時代の銭湯である湯屋は元日から営業しており、人々は”初湯”を楽しんだりもする。


 なにせ埃っぽい江戸を大勢の人間が歩き回るわけだからな、風呂に入ってさっぱりはしたくなるわけだが、初湯では入浴料とは別に“お祝儀”が必要であったりするのだが、湯屋からもお客さんへお返しの“お年玉”や若水わかみずをつかった大福茶だいふくちゃが振る舞われたりする。


「大福茶の振る舞いは吉原温泉でもやらないと駄目か、まあこういうのは大事だしな」


 いつもより余分にお金をもらったらその分サービスをするというのは当たり前だよな。


 大見世や中見世が7日まで休む理由は、正月元旦から江戸城やら大名屋敷やら菩提寺への挨拶回りが大変で遊郭にくるどころではないお武家様や正月の恵方詣で忙しい寺社仏閣は正月元旦も当然休みはないわけだが。


 今年の冒頭の江戸城への将軍挨拶の時に発布された武家諸法度改正の寛文令により、キリスト教禁教が明文化され、不孝者の処罰規定が加えられ、殉死の禁止も明文化された。


 その一方で、大船建造の禁については商船については例外ということも明示された。


「これで海運がさらに活発になるかもな」


 内陸部の藩には関係ないが、湊がある藩にはこれは大きいだろう。


 上方の京都でも京都で院政を行っていた後水尾法皇が禁裏御所御定目きんりごしょおさだめを発布して、後水尾法皇が新天皇を補佐する御側衆や近習衆(近臣)達を統制し、ひいては当時10歳の天皇の育成方針(下様之野卑な事柄、すなわち世俗の流行に目を奪われず、天皇に相応しい行跡・心持を備える)にも反映されるようにという意図を込めて制定したようだ。


 現実的には成長した霊元天皇は寛文11年(1671年)には武家伝奏の江戸下向中に花見の酒宴を開いて泥酔する事件を起こしたりなど奔放な行動を取ることが多く、後水尾法皇や公家たちを悩ますことになるのだが。


 元日は仕着日だから例年通り遊女や見習いの禿にくわえて、禿よりも小さな遊女の子供にも新たな小袖を贈る。


「みんなあけましておめでとう、今年もよろしくな」


 俺がそういうと桃香はニパッと笑う。


「あい、戒斗様のためにがんばりやすよ」


 楓も元気に答えてくれた。


「はーい、わっちもがんばりやすよー」


「おう、そのいきだぞ」


 去年は藤乃・鈴蘭・茉莉花と言った太夫・格子太夫・格子のような位の上の方の遊女が抜けて少し大変だったが、それは逆を返せば位が下の遊女が上に登れるチャンスでもあったわけで、なんだかんだでその穴は埋まってる。


 子どもたちは男のコは凧揚げ、女の子は羽根つきをして楽しみ、年末についた餅は年神様にお供えされる、元日にはそのお供えを“神様からのありがたいお下がり”として雑煮にしてみんなで食べる。


 関東の雑煮は焼いた角餅、小松菜、大根、里芋、海苔、三つ葉、柚子の皮などが入った醤油ベースのすまし汁仕立てだが、今年はそこにちょっと豚肉に大根おろしをたっぷり加えてみた。


「これはなかなかうまいでやすな」


 と結構評判だ。


「おもち、おいちー」


 と清花も喜んで雑煮を食べてるがようやく数え4歳、現代で言う3歳になったばかりの清花が餅を喉につまらせたりしないか結構ヒヤヒヤしたぜ。


 今年も家庭円満、商売繁盛で行きたいものだ。

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