とりあえずいろいろな異業種との提携を深めていこう
さて、歌舞伎役者などの興行について、弾左衛門ではなく幕府が直接管理したほうが金になるということは水戸の若様に伝えたし多分、ある程度は理解してもらえたと思う。
弾左衛門は長吏頭を名乗ってるが、幕府はあくまでも穢多頭としていることで両者の認識もずれてると思うが、実質的に金銭的なものを弾左衛門が欲しがるのは当然だが、歌舞伎役者が弾左衛門の支配を受けるべき非人であるというのはちょっと違うはずなんでな。
それはともかく遊郭と縁の深い異業種との業務提携を再度見直してみよう。
遊郭と縁が深い業種と言えば呉服商や小間物屋などだ。
太夫の道中で身につけてる衣装が、どこの呉服屋のやつだとわかればそれと同じものを着たくなるのは当然で、これは21世紀のスポーツ選手にスポーツ用品業界が自分の会社のスポーツ用品を寄贈する代わりに、どこのメーカーのものなのか宣伝してもらうようなものだな。
「では、この衣装を道中の時に太夫にどうか着ていただけますようお願いいたします」
「ああ、わかった、いい生地の物をくれて助かるぜ」
「いえいえ、藤乃太夫が身に着けている評判となれば、うちで反物を買う方が増えますからな。
この程度の投資で済むなら安いものですよ」
「まあ、そうかもしれないな」
特に江戸時代前期における呉服商は、まだ裕福な武士が多かったから呉服商の売上げは莫大なものになる。
なにせ江戸では武士はやたらと参加するべき行事が多く、それぞれの行事にふさわしい衣装を必要とし、それは大名だけでなくその家来などもみな同じように行事に応じた衣装が必要だからな。
呉服商が基本的に反物の掛売りでやっていけていたのも、商売相手が俸給が年に3度位の武士相手だからだった。
「こちらの簪をぜひ藤乃太夫に使っていただきたく」
「ああ、わかった藤乃に渡して使うように言っておくぜ。
どこからもらったものかも含めてな」
「ありがとうございます」
また”首から上が家一軒”ともいわれるほどの豪華な髪に刺す簪などの装飾品や、キセルなども当然、大商人の奥方や奥女中の上の方で金のある立場の人間に注目されていた。
遊女や後の歌舞伎役者は当時におけるファッションリーダーだったから、その衣装や装飾品を呉服屋や小間物屋から寄贈される場合も多くてお互いにお互いの宣伝をしていたわけだ。
そしてある意味当然だが遊女が吉原の仲通りを派手に道中して客のもとに向かう時に身につける衣装と、予約がなかったり生理で休みの日や置屋で禿や新造への教育を行うときはもっと地味で実用的な衣装を着ている。
派手な衣装や髪飾りは贈り物としてもらえたり、太夫などの気を引きたいからと3枚で10両もする布団などを客からもらうことはあっても、地味な普段着を送ってくれる客はまずいないから、それらは当然自腹になる。
もちろん道中で身につけるようなよそ行きの衣装や装飾品も、同じものばかり身につけるわけにはいかないからある程度は自腹で買うんだけどな。
「どうか今度はうちで作った傘を道中で使っていただければ」
「ああ、じゃあそのかわりにそっちの傘を買って、両方の屋号を書きいれて客に貸し出すようにするぜ」
「ありがとうございます」
道中に必須の傘もそうだな、そして傘に屋号が入れられていれば宣伝効果も少なからずあったりする。
雨合羽や簡易雨よけポンチョはまた別に作ってるけど、傘は日よけの日傘にも使えるから別にあると便利なのでな。
「三河屋さん、今度の宴会ではうちの酒を出していただけませんか?」
「なら、ちょっと飲ませてもらってもいいかい?」
「ええ、どうぞ」
「じゃあ……ふむ、悪くないな。
今度の宴会で使ってみるぜ」
「ありがとうございます」
「ついでに手握り酒(酒粕)も貰おうか」
「それは全然構いませんが何に使うつもりで?」
「杜氏(酒作り職人)の手が綺麗なのは酒のせいなはずだし、手握り酒を糠と一緒に水に溶かして薄く伸ばして手肌や顔につけるとどうなると思う?」
「肌が綺麗になる……ですか?」
「ああ、なんで美人楼でそれもやろうかと思ってな」
「なるほどその時うちの名前を出していただくことは?」
「ああ、別に構わないぜ」
「では手握り酒は無料でお渡ししますので、うちの名前を出していただけるようお願いします」
「ああ、わかった」
「ついでに酒を飲むと肌が綺麗になるとかはありますか?」
「それはちょっとわからんが酒の飲み過ぎはかえってよくないと思うぜ」
「そうですか」
ちょっとがっかりしてるようだが、清酒を飲んでも多分肌はきれいにならない気がするんだよな。
まあ何れにせよ酒の蔵元とこういう話をしておくのもいいと思う。
お互いが協力し合い宣伝しあって儲けられればそれに越したことはないしな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます