なんだかんだで吉原全体の活気は前よりずっとあると思うぜ

 さて、本来であれば普通は番頭ややり手に任す、竹のようなあたらしい禿や、三郎みたいな新入りの若い衆の様子を俺自身もちゃんと見るようにしつつ、清花や海老蔵と遊ぶ機会もなるべく増やしていくつもりの俺は、品川に派遣している龍からの文で遊郭や綿の製糸や機織り工場などの進捗も聞いている。


 遊郭を囲う堀もそろそろ形になって、後は建物をたてて行くだけになっているな。


「刈り取りが終わったら製糸や機織りなんかの作業をする人員の求人を出せるようにしたいところだな」


 今年の収穫量に多少問題があっても、即座に現金が手に入る仕事があれば飯盛り女よりはずっとマシな働き口になると思うんだ。


「吉原でもうちの施設なんかが呼び水になって他の見世もそれなりに繁盛するようになってるみたいだしいいことだ」


 繁華街というのは猥雑なものだが、今の吉原は花街というより複合娯楽施設マルチアミューズメントセンターのようなものだから男ばかりでなく老若男女が独り身でも家族連れでも訪れている。


 そして今俺は清花と海老蔵を連れて吉原の中を散歩している。


 そこですれ違ったのは花鳥茶屋を見物してきたらしい家族連れだ。


「孔雀キレーだったね」


「そうだな、これで病気にもならないですむな」


「きれいな羽をいただきましたし大事に飾っておきましょう」


 孔雀は孔雀明王の化身で害虫やコブラなどの毒蛇を食べることから孔雀明王は人々の災厄や苦痛を取り除く功徳があるとされ、病気を取り除くと信じられていたし、仏教では三毒といわれる貪欲・瞋恚(憤怒)・愚癡(無知)も喰らってくれると信じられていたから家庭円満にも効能があると思われている。


 料金も高くないのでそれこそ暇な武士、仕事が休みの町民、浅草寺寺社詣でのついでにとやってくる奥女中までが思い思いに動物を眺めていたりする。


 21世紀だと繁華街といえばキャバクラやホストクラブや風俗店なんかがいっぱいな怪しい場所というイメージもあるが、デパートやドン・キホーテなどの商業施設にゲーセン、カラオケなどの娯楽施設に普通の飲食施設なんかもあったりしてそういった相乗効果で人も店も集まってくるんだな。


「お、三浦屋の高尾太夫の道中か」


 そしてフラフラ歩いていたら三浦屋の看板太夫の高尾が置屋から揚屋まで向かう途中の道中に出くわした。


「しゅごいねー、きえーだね」


「うん、すごいな」


 周りの見物客同様に清花と海老蔵も高尾太夫の道中の華やかさになんとなく心が浮き立つのかちょっとはしゃいでる。


「清花は将来に、ああやって道中をやる太夫になりたいか?」


 俺がそういうと清花はコクっとうなずいた。


「あい、やりたいでし」


「そうか、やっぱ憧れるもんだよな」


「あい、きえーでし」


 21世紀では舞妓を目指すのは京都以外からやってきた中学を卒業した女の子が圧倒的で、置屋のお母さんの娘などが舞妓を目指すことはあんまりないそうだが、舞妓はいろいろ厳しいからな。


 今の時代に携帯電話は禁止とか、あと、マクドナルドなどのファーストフードやコンビニでの買い物も基本的には禁止らしい、まあ例外もあるらしいがイメージをそれだけ大事にしてるわけだがそういった窮屈な生活を知ってれば余計やりたくないんだろうな。


 この時代は楼主の子供の女の子は遊女か内儀に、遊女の子供は基本的に遊女か遊郭の下女になるしかないから職業選択の自由はないに等しいんだけど。


「そしたらいっぱい勉強しないとだめだぞ」


「ちゃんとべんきょするでし」


「そうか、もうちょっと大きくなったら頑張ろうな」


「あい」


 海老蔵が清花の言葉を聞いてウンウンとうなずいている。


「やくしゃになるためがんばっていろいろべんきょうしないと」


「おう、ふたりともがんばれよ」


 そして俺は久方ぶりに三浦屋、玉屋、西田屋を集めて聞いてみた。


「お前さん達、最近の景気はどうだ?」


 三浦屋は笑顔でいった。


「ああ、うちは好調だな。

 下駄の歯がすり減って大変だ」


「そいつは良かったぜ。

 玉屋はどうだ?」


 玉屋は曖昧に笑っていった。


「まあ、以前よりはずっと状況は良くなったな。

 まあ、店替えのために二人お前んとこに出したから、人が足りてないが」


 俺はそれを聞いて苦笑。


「まあ、持ち直したならいいんじゃないのか。

 あのときのままだったら下手すりゃつぶれていたっぽいし」


 西田屋も笑顔でいった。


「おかげでうちも持ち直しましたよ。

 一時はどうなるかと思いましたけどね」


「おう、そりゃ良かったな」


 そして三浦屋が言う。


「また新しい施設を作るんだったら今度からは俺たちも噛ませてくれねえかな」


 俺はそれにうなずく。


「ああ、そうだな。

 なるべくそうするようにしておくぜ」


 三浦屋としては儲けに加わりたいというのもあるんだろうけど、何でもかんでも俺だけでやるのもやっぱあんまよくはねえからな。

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