町単位での合同避難訓練を通じて吉原の子どもたちが仲良く遊ぶようになって何よりだ
さて、まずは三河屋から始めた避難訓練と消火訓練だが、俺の持つその他の遊郭や施設でもそれぞれ行い、それを見せながら俺の見世ではない他の見世にも行わせていった。
「いざというときに逃げ出せるようにするのは大事だぜ」
「しかし、書や楽器なんかを運び出さないのはどうなんだ?」
「そいつは時と場合によるな、持ち出せる余裕があるなら持ち出したほうがいいとは思うが」
この時代の楽器や書物なんかはバカ高いからな。
しかし、人の命や外観には変えられるもんじゃない。
そして最終的には道路で区切られた基本的な自治の単位であるである”町”の全てで合わせて避難訓練をした。
江戸時代の町は21世紀現代で言うところの”町内会”のようなものだと思ってもらえればいいと思う。
「よし、今日は町全てでの見世や店で一斉に避難する訓練をするぞ」
吉原には置屋と揚屋の春を売る店しかないわけではなく、引手茶屋以外の一般の茶屋、提灯行灯ろうそくを扱う明かり屋、欠けた陶器を直す焼き接ぎ、穴の空いた鍋を直す鋳掛屋、雪駄直し職人や下駄直しなどの履物を直す職人、提灯の張り替え、傘の張替えなどの紙の張替えをする職人、切れ味の悪くなった包丁などの刃物を研いでキレ足を戻す研ぎ屋、そろばんの修理を行うそろばん直し、煙管を直す羅宇屋、樽や桶の
「小さな子供は親がちゃんと手をつないでくれー。
子供同士でもいいぞー」
「わかりやした」
「わかったよ」
「あいー」
「大事なのはおはしもてだぞー。
幼い子供が転んだり押されたりしないように、ちゃんと前後の間隔を開けて歩けよー」
「あーい」
親に手を引かれる子供もいれば、子供同士で手を繋いでいる子供もいる。
遊女の子供は基本見世の禿などと同じ扱いだから、親というのはいない感じだしな。
まあ、町長屋の子供も長屋の住人皆が、共同で面倒を見る疑似家族のようなもんなので、子供は親が面倒を見なければならないという概念が、21世紀現代より薄いだけプレッシャーも少ないんだよな。
もっとも吉原などの例外を除けば、江戸は女性人口が圧倒的に少ないので、実際の父親がだれかわからない場合も多かったようだけど。
21世この日本と同じように、江戸後期の人口は減少しているが、その原因は現代では大学に進学した後就職してからようやく結婚することで起こったように、江戸時代の女性は武家や商家へ奉公に出てから箔をつけての結婚が増えたとによって晩婚化がすすみ、戦争がなく病気への対策も進んだことによる死亡率の低下が起こり、三男三女以下の部屋すみの人間はそもそも結婚できないため、未来への展望がなくやる気がないものも多かったための少子化が進んだ結果だと言われている。
そのため、商人は一人ひとりの消費者を大切にするようになっていく。
人口が増えないのだから、新規客もそうそうは増えない。
だからこそ常連となる客の情報をしっかりつかまなければならず、家族構成や季節によって、何が必要かを予め把握し、丁稚が顧客のところまで御用聞きに行って物を売ったわけだ。
現状では元禄くらいまでは人口が爆発的に増えていくから、人口ボーナスの恩恵を受け新規顧客はしばらく増え続けるはずなんで、常連を大事にすることも大事だが、新規顧客をどうやって増やすかも大事なんだけどな。
そこでおごって廻しやら振りやらの不誠実な行為をすれば、史実で格子や太夫が消えたのと同じ結果になっちまうだろうし、新規客が常連になる可能性はそんなに高いわけじゃないからな。
それはともかくこの時代は儒教思想が強く女より男、子供より年長者、子供より親、弟子より師匠、といった関係であると明らかに扱いがちがって、女子供の扱いというのは結構男より軽いものであったりするのも変えていきたい。
そして、合同避難訓練の結果、今までご近所様ではあっても、あんまり接点がなかった子どもたちに接点ができたことで、遊郭の子供も普通の店のこどもも混じって遊ぶようになった。
いまやってるのは子をとろ子とろというこの時代の鬼ごっこ。
親を先頭にしてその後ろに何人かの子がつながって1列になり、鬼は最後尾の子を捕まえれば鬼の勝ち。
「ここは行かせないぞ」
「むむむ」
この鬼ごっこは親は年長者がやり、年長者は足が遅くてつかまりやすい年の下のものを守るという意識を持たせるにも役にたったらしい。
そして集団で遊べば否応なくコミュニケーション能力も上がるはずだし、清花や海老蔵に遊び仲間がいっぱいできたというのはいいことだな。
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