三和土を使って仲通りの舗装をやり直してみようか

 さて、品川の公許遊郭化に伴い、郭としての濠を作り始めさせるとともに、吉原は品川の見本となるべきであるので、見直さなかればならないところを、ちゃんと見直さなければな。


 現状最大の問題は、仲通りの舗装が、あまりうまくいっていないことだと思う。


「レンガの歩道ってのは、意外に整備が大変なんだよな。

 まあ俺に土木の舗装の知識が、あんまりないってのが、あれだったんだろうけど」


 江戸時代の道は基本的に、木で土を突き固めるだけのものが多い。


 21世紀の学校の校庭を思い受けべてもらえばわかりやすいと思うが、雨が降ると沢山水たまりができ、乾けばホコリが舞い上がってて大変だからと、レンガで舗装してみたんだが、舗装のためには深く掘り返しての、基礎づくりと排水をしっかりしないといけないし、レンガは結構割れやすい。


 そして工事をしてから結構立っているが、やはりレンガが結構凸凹している。


「うーん、やはりレンガ舗装はいまいちだな……」


 排水用の木樋や、凸凹防止用の板も、そろそろだいぶ傷んでるはずだし、舗装の種類そのものを変えたほうがいいかもしれない。


 21世紀だと、道路の舗装といえばアスファルトが一般的だが、アスファルトが道路舗装に使われるようになったのは結構新しく、原油を蒸留して製造する石油アスファルトの値段が安価になって、加熱したアスファルトを敷いたあと、ロードローラーで均し、平坦に転圧する工法ができてからで、重い車が頻繁に走るようになったあとは、アスファルト舗装が一般化したらしい。


 もっとも、アスファルトはコンクリートやレンガなどに比べたら、割れにくい代わりに、比較的耐摩耗性が低く劣り、そのためわだちが出来やすく、さらに寒い場所では割れて、穴が空くことも多いため、長くても10年毎に舗装の補修が必要になる。


 そのため、場所によっては損傷した舗装道路を50年くらいは補修がいらない、セメント舗装に切り替えたり、砂利道に戻すことが行なわれていたりもする。


「やっぱ、あんまり金がかからないほうがいいんだよな」


 便利さや、快適さを維持しようとすると、ある程度はコストがかかるのは仕方ないが、それが抑えられるに越したことはない。


「試しに三和土たたきで舗装してみるか?」


 三和土は、敲土たたきつちの略で、花崗岩、安山岩などが風化して出来た土に、消石灰とにがり、もしくは灰汁を混ぜて練り、床などの上に塗って叩いて固めるもの。


 3種類の材料を混ぜ合わせることから「三和土」と書き、江戸時代でも一部土間の床に使われ、漆食叩しっくいたたきともいうようで、漆喰は石灰をなまって呼んだ言葉だったりする。


 石灰は日本でも結構簡単に手に入るからな。


 21世紀ではセメントモルタルか、コンクリートにほぼとってかわっているが、古い家の土間や門前、駐車場などは三和土を使っている場合もあるし、一部では土系舗装材として用いられている場所もある。


 明治期の日本の土木技術者である、服部長七が改良した長七たたき、もしくは人造石と呼ばれる物は舗装・治水・用水・護岸・築港などの工事において広く使われていたりもする。


 長七たたきは粘土50%、消石灰30%、砂20%に「にがり」つまり塩化マグネシウムを混ぜるのだが、これにより更に強度がます上に、この長七たたきは水にさらされても、強度が低下しないうえに、用いる材料が安価に大量に入手可能であったりする。


 もっとも土や粘土の質によって、割合や水の量は微調整が必要なようだが。


 なので取り寄せた土などの割合などを、試行錯誤して比率を微調整してきちんと固まる配合の割合をようやく探し当てた。


「これで、うまくいくと、いいんだが」


 俺は、口入れ屋経由で人足を集めて、すでに舗装されている、仲通りの道の補修を開始した。


「まずは、レンガをすべて取り外してくれ、それから板と樋も取り外して、新しいものにしてくれな」


「わかりやした」


 人足たちはレンガを一つ一つ取り外していき、その下の木の板や排水用の樋を、新しいものに入れ替えた。


「次は三寸(およそ9センチメートル)ほど、たたきを敷き詰めてたたき固めてくれ」


「わかりやした」


 人足たちが、指示通り三和土を敷き詰めて丸太で叩き固め、木の板を使ったトンボで平らにならし、表面に砂を撒いて、もう一度踏み固めたら、後は乾燥させるだけだ。


「今度は、うまくいくといいんだがな」


 3日ほどは立入禁止にして、三和土が乾くのを待った。


「うん、今回はうまく行ったようだな」


 きちんと固まっていてよかったぜ。


「もっともある程度したら、すり減って凹んだりするだろうから、そこに水たまりとかできたら、補修の必要はあるだろうが」


 それでも少なくとも、レンガの舗装よりは、凸凹したりする心配はなさそうだし、材料も焼くための燃料費で高くなるレンガより安いしいい事ずくめだな。


 見た目は、自然な土の道とあんまり変わらないが、むしろその方がいいのかもしれない。


 レンガ道というのも、風情があっていいとは思うけどな。

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