四宿の一つ品川の公許遊郭化の許可が出たぜ

 さて衣替えも終わり、清花は余った綿で作った兎のぬいぐるみを気に入って、よく抱きかかえて過ごしている。


 そしてある日のこと、二代目藤乃の所に水戸の若様が来て、俺はいつものように桃香に呼ばれて揚屋に向かってた。


「水戸の若様が、戒斗様とお話しをしたいそうでありんすよ」


「おう、わかった今行くぜ」


 とりあえず、俺達は揚屋の二代目藤乃が持ってる部屋へ向かい、座敷に上がることにする。


「三河屋楼主戒斗、失礼致します」


 すっと障子を開けて中を見る。


「うむ、楼主よ久方ぶりであるな。

 この鮭の天ぷらの衣焼ムニエルは誠に美味であるぞ」


 俺は若様に頭を下げて言う。


「は、ありがとうございます」


「しかしもう、鮭はなかなか手に入らぬ季節であると思うのだが、どうやって手に入れたのだ?」


「正月すぎに出回っておりました新巻鮭を、三河屋の氷室にて保存しておりました」


「ふむ、なるほど、そう言うことであったか」


 現代であれば養殖技術も確立し、冷蔵や冷凍で保存も簡単になっているので、旅館やファミレス、牛丼屋の朝定食や弁当、おにぎりなどに一年中入っている鮭だが、この江戸時代では秋から冬以外ではなかなか手に入りづらい鮭はかなりの高級魚。


 21世紀に比べれば江戸時代は塩も高価だったこともあるが、比較的寒い場所でしか鮭が取れなかったため、腐らないように干鮭と呼ばれる内臓を取って天日でカラカラになるまで干した鮭が一番多い。


 21世紀だと鮭とばみたいなものを除けば鮭の干物というのは珍しいのだが、この時代では干鮭を薄く削いで、酒につけてふやかしてそのまま酒のつまみにしたり、水で戻して普通に料理したりといった感じで食べられている。


 で、鮭の内蔵を取って塩を十分すり込んで腐敗しないようにした上で、それを莚で巻いて荒縄で縛ったものが正月定番の荒巻鮭。


 江戸時代でも新巻鮭は正月の武家の高級な贈答品の定番の一つでもありたいきすのような縁起物の魚は別格としてこいふな鮟鱇あんこう細魚さよりさわらあゆなどと鮭や鱒は同格の上魚つまりとても美味しい魚とされていたのだ。


 そんな事もあって江戸時代初期では江戸などの東国でもなかなか庶民は食べられない高級魚、京都や大坂などで塩鮭が比較的手に入りやすくなるのは1800年代だったりする。


 21世紀ではたしかに美味しいけど、普通に食べられる安い魚というイメージの鮭は江戸時代では全然イメージが違うのだ。


「それで、今回伝えようと思ったことだが、以前にそちらに言われた品川を、吉原のように公許の遊郭として売春を公認する代わりに、お前さんをその監督役とするという話だが」


「はい、結果としてはいかがなりましたでしょうか」


「うむ、明暦の大火後の復興に伴い、それ以前よりも住宅となる場所が広がっており 北の吉原、南の品川と公許遊郭をわけたほうが、結果的に江戸の治安維持にも役に立つということでお前さんの案を採用することに決まった」


「ありがとうございます」


「正式の認可については勘定奉行の方より告げられるであろう」


「はい、これで品川などもむしろ管理がしやすくなるかと思います」


「うむ、そうあってほしいものだ」


 俺は水戸の若様に頭を下げた。


「本当にありがとうございます」


「うむ、今後もうまくやってくれ」


 なんだかんだで江戸幕府は治安維持要員の絶対数が足りていないせいもあって、いろいろ禁止をしてもなかなかそれが徹底せずに結果として黙認と言う形になることも多かった。


 品川が公許遊郭になれば幕府は冥加金が入り、俺は品川の飯盛り女や水茶屋の茶女などの状況も改善できるだろう。


 岡場所がある程度はできていくのは仕方ないところもあるがな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る