ようやく吉原へもどってきたぜ
さて、内藤宿で一泊した翌朝、俺は旅籠の主人に昨日の夜についた飯盛り女の見世変えをしてもらえないか交渉することにしてみた。
「お前さんがここの旅籠の主人さんかい?」
俺がそう言うと主人はニコニコしながら言った。
「ええ、そうです。
いろいろ銭を落としていただきありがとうございました」
「ああ、でこの娘を気に入ったんで出来れば身請けさせてほしいんだが、いくらくらい掛かる?」
「ほ、身請けですと? お客さんも物好きですな。
あいつは大して稼いでませんから20両もあればいいですよ。
あるんならですけどね」
「20両か、わかった、即金で行こうか。
そのかわり証文ごともらうぞ」
「へ、20両即金で? わ、わかりましたでは証文をお持ちします」
暫く待つと飯炊き女と証文を持った主人がやってきた。
「念のために確認しますが、気に入らなかったからやはり身請けはやめたなどと言われても、一切金は返しませんぞ」
「ああ、そんな事は言わないさ。
じゃあ、20両だ」
俺が20両を出すと主人は目を輝かせた。
「おお、小判で20両とは素晴らしいですな。
ではこれが証文ですぞ」
「ああ、間違いなく受取ったぜ」
遊女の身請け金は太夫クラスだと500両や1000両の金額になることもあるが、売られたばかりの禿や切見世・小見世の遊女だと15両や20両ぐらいだったりする。
むろん、普通だとそれでも十分高いのだがな。
「じゃ、行こうぜ」
「あ、は、はい」
俺は飯盛り女に聞いた。
「そういやお前さんの名前は?」
「はい、
「そうか、通。
お前さんを身請けしたのは、これから俺のもとで働いてもらおうと思ってるからだ。
もっとも無理に春を売ろうとしなくてもいいぞ。
いろいろ銭をかせぐ方法はあるしな」
「あ、は、はい、わかりました。
どうぞよろしくお願いいたします」
そして他の者達と合流した。
俺が通を連れてることに当然首をかしげる紅梅達。
「おや? 楼主はんその娘はいったいどうしたんでやす?」
「ああ、飯盛り女を身請けしてきた。
尤も身請け金は吉原のどっかで働いてもらって金は返してもらうけどな」
「なるほど、また、三河屋さんの気まぐれですか。
以前行き倒れになっていた娘を拾ったとも聞きますが」
「まあ、そうだな。
この娘、通は性格は良さそうなんだが飯盛女になるには強引さがな、だいぶ足りなそうだったし」
「そういう意味では飯盛り女というのはわっちらとは全く違うようですな」
「ああ、そうだな」
内藤宿から日本橋までは半里(2km程度)で、そこから吉原はすぐだ。
「ああ、やっぱりなんだかんだで吉原が一番落ち着くな」
そして久しぶりに清花と会えた。
「あーとーた!」
清花がテコテコと俺に向って小走りで走ってくる。
「おー清花、ただいまだ」
清花の脇に手を入れて抱き上げるとすごくよろこんだ。
「わーい」
そして後ろから妙が声をかけてきた。
「今回は吉原は二番だったそうで残念でしたね」
その言葉に俺は苦笑しながら清花を床へおろした。
「ああ、やっぱお伊勢さんのお膝元だったからかもな。
俺がいない間みんな病気をしたりしてないか?」
「はい、私もお義母様も清花もみんな大丈夫でした」
「そうかそうか、それはなによりだ。
見世の方も時に問題はないよな」
妙が頷く。
「はい、特に問題になることはありませんでしたよ」
「ああ、俺がいなくても見世も吉原も波もなく回るのはやっぱいいことだ」
妙がうなずく。
「はい、そうですね」
「ああやっぱり皆が常にいないと見世が完全に回らないようじゃ困るしな。
去年は江ノ島に行ったから今年は日光参りにでも行こうか」
「それは良いですね」
日光社参は江戸時代の歴代の江戸幕府の将軍が日光に参拝する公式行事があり、その際の随行人員の規模は10万人単位でそれだけにめちゃくちゃ金がかかり、家光公の代で幕府の財政が傾いた要因の一つだったりもするのだが、逆に言えばそれによって日光街道筋は潤った。
榛名詣や妙義詣なども行われ意外と北関東の詣で場所も多いのだ。
「ついでに草津の湯にも入ってきたいな」
「それは良いことですね」
江ノ島や善光寺などと違って、武家の信仰目的がつよい日光で、一般大衆は奥へは入れないがそれでも十分だろう。
四宿の一つ千住宿も見たいしな。
もちろん当然ながら日帰りは無理で往復で7泊8日は最低必要になるけどな。
「なるべく早く行くとしようか」
「はい、そういたしましょう」
うん、日光東照宮の参拝を真面目に計画してみようか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます