大阪新町遊廓の惣名主が代わったみたいだな

 さて、最初は『江戸の吉原』の歌合戦に『京都の島原』が飛び込みでやってきて島原が勝利したことに対して囲碁での決着を付けるべく京へ向かったときに『大阪の新町』『長崎の丸山』『伊勢の古市』がやってきて囲碁での勝負をしたのが昨年のこと。


 そして今年は『駿府の府中』『備後の鞆』『大津の柴屋』もやってきた。


 ちなみに新町遊廓の惣名主の顔が代わってるようだ。


「新町遊廓の、お前さんのところは前と顔が代わってるみたいだがなんかあったのかい?」


「ああ、前の惣名主の木村又次郎は遊廓の四方の堀の清掃費を値上げしておきながら、それを幕府に届けず、値上げ分を全て自分の懐にしまい込んでたのがバレてな。

 だから名字帯刀の権利を取り上げられ、惣名主の身分も解かれて、一介の楼主になっちまったんだ。

 今は町ごとにそれぞれ名主を置いていてな、今年は俺が代表で来たんだよ」


「なるほど、そんなことがあったんだな」


「まあ、最近は売上も落ちてたんでいろいろ改めることにしたよ」


「ほう、どんなふうにだ?」


「お前さんのところのように昼は予約のみにして、基本は夜のみ働かせるようにしたんだよ。

 長いあいだ格子の前に座らせていても無駄だしな。

 江戸は昼しか動けない武士も多いだろうが、こっちはほとんど商人だし昼間に開けておくことに意味はあんまりないんでな」


「ほう、そいつはいいことだな」


 どうやら新町の惣名主がかわって運営方針も少し変わったらしい、遊女も去年と違って疲れ切った様子はないし、今年の新町は手強いかもな。


 それから島原の林家が声をかけてきた。


「ところで藤乃太夫の姿がないようだが?」


「ああ、藤乃は今回予選落ちしちまった。

 まあ今年いっぱいで年季明けだし、若いやつの勢いにも押されたのかもな」


「はっ、そいつは残念だ、なら今年の優勝はうちで決まりだな」


「おいおい、藤乃がいなくなったからってあんまり舐めるなよ」


 ちなみに駿府の府中は東海道の宿場町でもあり、神君大権現こと徳川家康公が引退したあと大御所として滞在していたこともあって、当然ここの遊廓も公認されたもの。


 備後の鞆は鞆之浦とものうらとして古くから鞆港の港町として栄えているまちだ。


 瀬戸内海の海流は満潮時に西は豊後水道、東は紀伊水道から瀬戸内海に流れ込み、それにより瀬戸内海のほぼ中央に位置する鞆の浦沖でぶつかり、逆に干潮時には鞆の浦沖を境にして東西に分かれて流れ出してゆく。


 なので鞆の浦を境にして潮の流れが逆転するので、瀬戸内海を横断するには鞆の浦で潮流が変わるのを待たなければならなかったから、潮待ちの港として重要な位置にあったんだな。


 古くは建武3年(1336年)には九州の多々良浜の戦いに勝利した足利尊氏が京に上る途中で、この地に立ち寄り光厳天皇より新田義貞追討の院宣を賜ったり、室町幕府15代にして最後の将軍である足利義昭が織田信長により京を追放された後、毛利氏などの支援のもとこの地に拠点を移し信長打倒の機会を窺ったため、「鞆幕府」と呼ばれることもあることなどから、“足利(室町幕府)は鞆で興り鞆で滅びた”と言われたりもする。


 江戸時代になるとまずは備後国を領有した福島正則によって鞆要害を中心に市街地を取り囲む大規模な城郭「鞆城」の築城が始まるが、これが徳川家康の逆鱗に触れ工事は中止され、その後は徳川家康公の従弟である水野勝成が備後福山藩の領主となり、瀬戸内海の水運と山陽道の要所でもあるこちらも公認の遊郭が設立された。


 大津は近江南部の宿場町で江戸時代の近江は北部の彦根藩以外の殆どは幕府の天領では大津には大津奉行所(時期により大津代官所)が管轄していたがやはり東海道や東山道の交通の要所であり大きな宿場町でもあったがここにも公認の遊郭があった。


 公認遊廓はもっと他にもあるんだが比較的近めの遊廓が来てるのは遠くからだと、往復に時間もかかるしいろいろ大変だからかもな。


 伊勢の惣名主がくじを掲げて言う。


「ではまず、対戦相手をくじ引きで決めましょう。

 1から8までの数字が書いてありますのが1と2、3と4、5と6、7と8で対戦して勝ち残った遊廓がまたくじ引きで対戦相手を決めて進めましょう」


 俺はそれに頷く。


「よし、じゃあ俺からひかせてもらおうか」


 俺の引いたくじは1だった。


「1か。さて俺たちの相手は誰かな」


 残りは大阪新町が2、伊勢古市が3、京都島原が4、長崎丸山が5、駿河駿府が6、備後鞆が7、大津が8となった。


 俺は大阪の遊郭代表の男に声をかけた。


「さて、去年に続いて大坂と江戸の争いになったな。

 お手柔らかに頼むぜ」


「ふふ、今年こそ江戸に勝たせていただきますよ。

 こちらこそお手柔らかに」


 どうやら江戸を見下すだけだった去年と違って大阪新町もだいぶてごわそうだな。

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