安くて携帯しやすい雨具を作ってみようか
さて、江戸時代でも雨が降るのは21世紀と変わらない。
「今日は雨か……」
藤乃がため息をつきながら言った。
「雨だと道中が大変で困りますな」
「ああ、そうだよな雨よけもたいへんだし」
「足元も滑りやすいですし」
江戸時代初期の雨具としてはまず傘がある。
傘の歴史はものすごく古く開閉できない傘が古代の中国で発明され、その後に奈良時代頃には日本に伝えられ
これは竹軸にくくりつけた竹骨に布を貼り付けて雨にぬれるのを防いだわけだが、その後に室町時代には和紙に油を塗布する事で紙に防水性を持たせ、開閉させる事ができるようになったらしく、傘を専門に製作する傘張り職人や座の登場もこの頃らしい。
そして江戸時代になると屋号(店名)を書いた傘を客に貸し出して、店の名の宣伝に使われるようにもなった。
和傘は雨傘としてだけではなく日傘としても使われ太夫道中では若い衆が屋号のかかれた傘を、その隣に付き添って差し掛けながら太夫と移動をともにすることで太夫などが日に当たらないようにしつつどこの遊女かわかるようにしていたりもするのだが、他人に対してさしかけることもあって普通のものよりも大きく作られているのでかなり重かったりもする。
傘には魔除けの意味もあって野点の際に設置されたりするものも日よけ、雨よけにくわえて魔除けのために設置されていたりもする。
ただ和傘は重くて耐久性にも難があるうえに一つ200文(おおよそ5000円)と高価であるという欠点があったりするんだけどな。
なので紙が破れたり骨などが折れたりしたときはまずは修理して使い続けた。
江戸時代のたいがいのものはそうで21世紀のように壊れたら捨てて新しく買えばいいという考えはなかったのだけど。
「流石に蓑をつけて道中するわけにはいかないしな」
「そりゃそんなみっともないことはできへんですわ」
他に身に着けて使う雨具は蓑がある。
稲わらなどを編んで作った衣服の上からまとう外衣だがこれもかなり重くてかさばる上に燃えやすくて危ないという欠点があるが、安くて風に煽られても壊れたりしないし、横からの雨でも濡れたりしづらいので傘よりは蓑のほうが多く使われている。
そしてカッパはもともとはポルトガルから来た宣教師が身につけていたケープで、ケープのポルトガル語である「
合羽は当初は羅紗(羊毛を使った厚地の毛織物)を材料としたもので、織田信長、 豊臣秀吉、足利義昭など当時の支配者たちは早速これを真似て作らせ好んで身につけていたらしい。
マントをバサリと広げて”フハハハハハハハハ”と高笑いをあげるとなんか権力者っぽいイメージはあるな。
キリスト教に関係があるものが身に着けていたものとしては珍しくそのまま残って江戸時代に入るとまずは大名や旗本などの上級武士の間にも広く使われるようになって、やがて豪商などにも使われるようになるのだが元禄の頃には町人の贅沢禁止となったため、代用品として油紙を使った和紙のものや綿製の物が作られていった。
逆にいうと現在の雨具は重くてかさばる和傘や蓑か、高くて一般人では手に入らないラシャのカッパしかないわけだ。
「ふむ、安くてかさばらない身につけられるカッパがあると便利そうだな」
「そういったもんがあると皆助かると思いますわ」
実際にそうした和紙や綿布の合羽は、安価で軽量で便利なため開発されるや瞬く間に庶民に普及していって旅の際には防塵・防寒・雪よけ・雨よけに使える道中着として、さらに野宿する時は地面に敷いて体温を奪われないための敷物として、腰を掛ける時には折りたたんでやはりクッションのための敷物として活用されるなど、旅のときは必ず持っていくものとして珍重されたらしい。
似たようなものとしてはポンチョがあるがポンチョはもともとは中南米で使われていた日よけや防寒対策の外套だな。
前で合わせるわけじゃなくて四角い布のど真ん中に頭を出すための穴を開けているということでは貫頭衣に近いけど。
「じゃ、権兵衛親分に作ってもらうか」
「そうしてもらいましょ」
俺はいつものごとく工場へ向かって権兵衛親分に安くてかさばらないカッパを作ってもらうことにする。
「おーい親分、また新しいものを作ってもらいたいんだが」
「今度は一体何だ?」
「安い麻や木綿を使ってカッパを作ってもらいたいんだが」
そういうと親分は渋面になった。
「おいおい、俺は針子じゃないし縫い物は専門外だぞ」
「そうか、困ったな」
その様子を見ていたらしい毛糸を作っていたりする女の子が声をかけてきた。
「ならオイラたちが作りましょうか?」
「おう、そうしてくれると助かるぜ。
作り方としては袖なしの
「わかりやした、おまかせください」
子どもたちがわちゃわちゃといろいろ喋りながら表地と裏地を重ねてそこに油紙を入れた袷を作りあげていった。
「こんなもんでどうでしょう?」
「おお、いい感じだぞ、ついでに膝くらいまでの大きさの布地の真ん中に穴を開けて裏に油紙を貼り付けるものも作ってくれ。付き添いの若い衆とか
「わかりました」
やっぱり子どもたちがわちゃわちゃといろいろ喋りながら大きな布に油紙を縫い付けて雨よけポンチョを作りあげていった。
「こんな感じでいいですか?」
「おお、いい感じだぞ。
うちの見世で使う分以外に普通に売る分も作るようにしようか」
「わかりました」
そしてできた合羽を藤乃に持っていく。
「雨除けで濡れないように上に身につけるように作ったんで使ってくれな」
「これは良いもんでやすな、ありがたく使わせたいただきやす」
それからお付きの
「桃香もこれを頭からかぶってなるべく濡れないようにしてくれ」
「わっちのも作ってくれたんでやすか、ありがとうございやす」
その他に道中につきそう若い衆などにもわたして着るようにさせたが横風で雨にうたれても中の服が濡れないとなかなか評判は良かった。
これで体を冷やして風邪などをひく可能性も減るだろう。
「よしこれを吉原旅籠で売るか」
旅の途中で雨に降られても困らない雨よけにもなる外套として吉原旅籠で簡易ポンチョを売ったら結構売れたぜ、広げれば四角い布だから折りたたんで持ち歩くのも楽だしな。
「旅の時に着やすい安くてかさばらない雨具ってやっぱほしいやつは多かったみたいだな」
工場の子どもたちだけでは生産が追いつかないので合羽や
針仕事は女性の仕事ということで切見世女郎などの女性の働き口も増やせたしなかなか良かったんじゃないかな。
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