若い衆の一日 中郎の佐吉の一日
三河屋の若い衆で最近入ってきた佐吉は若い衆の下っ端も下っ端の中郎。
彼は明六ツの卯の刻(おおよそ朝6時)に雑魚寝の若い衆の寝場所から中郎三人が起き出し顔を洗ったりした後で、六つ半(おおよそ朝七時)にかるく朝食をとる。
「いただきまーす」
「いただきまーす」
今日は雑穀飯にシジミの味噌汁、大根の漬物になんと卵焼きがついていた。
「卵を焼いたものかぁ、あむ、あまぁ、うまー」
「全くここの見世で働けて俺たちは運が良かったよな」
「他所だと白飯と味噌汁だけって聞くもんな」
朝食が終わって遊女が大門まで客を見送ったあと見世に戻ってきたら朝五ツ辰の刻(およそ朝8時)になっているので三人で手分けして一階の廊下や玄関、厠などの掃除を始める。
「さーて今日も掃除頑張るか。
ぴかぴかにするぞー」
佐吉は今日は板張りの廊下の雑巾がけで、桶に水をくんでそこに雑巾を浸し水から上げたらギュッと絞って廊下の端から端、隅から隅まで雑巾がけをする。
大見世の廊下が汚れていたら話にならないのでこのあたりは厳しい目で見られる。
「いくぞー」
たたたたと廊下を往復して雑巾がけし、その後は遊女が入る前の風呂の掃除だ。
階段を上がった二階は中郎などの下っ端は入ってはいけない決まりなのでそちらはやらないというかやれないので、二階番などの二階に上がれる若い衆の先輩などが掃除をしたり金具磨きは見習い禿がしたりするらしいけど実はよくわからない。
「よいしょ、よいしょ」
長柄のついた”ぶらし”ができてからは内湯の床掃除も結構楽になった。
細かいところは手に持ったたわしで擦って綺麗にする。
もちろんそれは昼見世の遊女がおきてくる朝四ツの巳の刻(朝10時)の前にきっちり終わらせなければならない。
「間に合ったー。
あーつかれた」
雑巾がけや内湯の掃除などは結構な重労働なのでそこで一切り(約30分)ほど一旦休憩が入る。
そして昼見世の遊女や一緒に食べてる見習い新造や禿も食事が終わったらその後の広間の掃除もやる。
お店一番の藤乃太夫がお供の若い衆、新造、禿を引き連れて道中に行く時は邪魔にならないようにしないといけない。
そして掃除が主な仕事の中郎たちは結構重労働なのもあり昼九ツの午の刻(正午12時)には軽い食事が出る。
「梅のお握りうめー」
「こっちは”つなまよ”だけどうまいぞー」
「ほんとにありがてーよな」
「ほんとほんと」
そんなところにたまに楼主の戒斗がそういった光景と鉢合わせることもある。
「おう、お前さん達の体や仕事の調子はどうだ?」
佐吉はそれに対して笑顔で答えた。
「あい、体に悪いとこもなく美味しいものも食えて幸せだって皆で言ってます」
周りの中郎もウンウンとうなずいている。
「そうか、お前さんたちが掃除をしててなにか気がついたことがあったら言ってくれな。
ここをこうした方がいいとかこういったとこが不便だとか。
それと見世を綺麗にするのはとても大事だが他の若い衆がやってることもみながら覚えてってくれな」
「はい、わかりました!」
と言っても入ったばかりでもある佐吉には特に思いつくものはなかったが。
昼八ツ半(およそ昼の15時)くらいには先輩の二階番の次平も起きてくる。
「次平さんおはようございます」
「おう、おはよう」
次平さんは2階に上がれる数少ない人。
「俺も次平さんみたいに二階に上がれるように頑張らないと」
「そりゃおめーかなり大変だぞ、お前さんたちは2階に上がれて遊女たちと話せるなんて羨ましいと思うんだろうけどな」
「ええ、僕たちから見たらすごく羨ましいです」
「ああ、だけど客に対する愚痴とかを延々と聞かされてそれをウンウン大変でしたなと受け流さないといけないのは結構きついぞ」
「そういうものなんですか?」
「ま、今はわかんないだろうけどそういうもんだ」
そんな話をした後、次平さんが楼主様と話をしに行ってしまったので、僕たちは遊女さんたちがこれから座る格子のなかや格子そのもの、玄関や下駄箱などを徹底的に掃除して綺麗にする。
厠なんかは一定の時間ごとに綺麗に掃除をしたりもするよ。
「おわったー」
そして暮六ツの酉の刻になって夜見世が始まれば僕たちの仕事は終わり。
広間で夕食を食べ最後のお湯で風呂に入って体を綺麗にする。
その後で時々楼主様が文字の読み書きや九九などを教えてくれたりすることもある。
「んーといんいちがいち、いんにがにー」
「なかなか覚えるのは大変そうか?」
「そうですなぁ、結構難しいです」
大体は夜五ツの戌の刻(およそ20時)くらいには皆で布団に入って寝る。
明日も朝にちゃんとおきないといけないしだいぶ疲れたから早く寝てしまおう。
「おやすみー」
「おやすみー」
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