熊や西田屋三代目を人事権を持つ支配人に引き上げて俺の仕事の負担を減らしてみるか

 さて、吉原の他の四宿等の公許遊郭化を進める前に系列店の幹部を揃えないとな。


 遊郭の遊女にも禿や新造のような見習いと格子、格子太夫、太夫のように遊女としての格の違いがあるように男の方にも階級のようなものはある。


 まず楼主は遊郭のオーナーで資金をだしている人間。


 見世の最高管理経営者でもあって系列の見世の開店や閉店などの経営権と、遊女や若い衆の雇用や解雇、昇格、降格などについての権利をすべて持っているし見世をどういう風に運営するかを決める役割も持っている。


 そしてその妻である内儀もほぼ同等の権利をもっている。


 まあ妙は畑違いなのも有ってそこまで口を出したりしないけどな。


 その下が金勘定と若い衆への指示を主にする番頭と番頭の書物の補助をする物書き、遊女や禿に指示を出すやり手。


 このあたりは雇われ店長と副店長といったところでその下のスタッフに仕事を指示することと客との金のやり取りや帳簿付けなどの実務的な事を行う。


 ここであれと思ったかもしれないな。


 ”番頭には人事権はないのか?”と。


 うん、番頭には人事権はないんだ、だから遊女の採用は俺が全部やってるだろ。


 しかし、これは今は改革の時期だから俺のやり方を周りに周知させるためにやっているがひどく効率が悪いことだ。


 何でもかんでも俺が決めないといけないんじゃな。


 というわけでそろそろ熊も俺のやり方もわかってきたと思うし、中央本部を設置して俺は系列の惣楼主となり、三河屋や十字屋以外の遊郭の細かい仕事からはなるべく外れようと思う。


 そして熊には俺が見てる小見世椿屋の”楼主”と”番頭”の間の”支配人”になってもらう。


 見世の支配人なら見世の遊女や若い衆たちの人事権を渡す。


 もちろん熊が上手くやれなかったら降格もあるわけだが。


 まあこういうやり方自体は21世紀で俺が風俗グループで働いていたときのやり方の真似だが、その時も多くの風俗の系列店だけでなく居酒屋やフィリピンパブ等の違う業種の飲食店なども全て本部で統括していた。


 本部は基本的に店長の人事と総合的な売上管理を行うのが仕事であって、現場の采配は店長に任せるのが本来普通のやり方だ、まあ風俗に限らず水商売や飲食も同じような感じだと思うけどな。


 本部の仕事は簡単に言えば売り上げをあげられる人間を店長として昇格させ、売上を上げられない人間は店長以下に降格させること。


 俺の場合それに加えてその下で働いている人間の健康を考慮できることも加わるけどな。


 え、俺自身とか職人に対してはどうなのかって?


 一応考えてるつもりではあるんだがな、俺だってちゃんと十分な時間寝たり、十分な栄養は取ってるし、職人に対しても21世紀ばりに無茶な工程や価格でやってるわけじゃないぞ。


 まあ、江戸時代はのんびりしてるから周りに比べると無茶に見えるけどな。


 まずは母さんや妙と相談することにした。


「母さん、妙、俺の負担を減らすためにまずは総本部を作って俺はそこの惣楼主になることにしたよ」


 母さんは頷いた。


「ああ、いいんじゃないかい。

 でもこの見世はどうするんだい?」


「ああ、三河屋と十字屋は直営店として俺が見るよ。

 まずは小見世の人事権を誰かに持たせてみようと思う」


 妙も頷く。


「私も良い考えだと思います」


「まず熊を小見世の支配人にして見ようと思う。

 三河屋の番頭は二階番の佐吉を繰り上げてみよう」


 そして俺は熊を呼ぶ。


「熊、お前さんにはいつも助けられてる。

 で、今回俺はお前さんを椿屋の支配人まあ俺の代わりに見世の運営を任せたいと思うんだがどうだ?」


 熊はびっくりしていたがコクコク頷いた。


「へい、見世を任せていただけるんでしたら俺も頑張ります」


「ああ、頼むぞ」


 俺は熊と一緒に椿屋に向かう、そして遊女たちを集めて熊を紹介した。


「お前さん達、今日から椿屋の支配人としてこの熊が見世を仕切ることになった。

 三河屋の番頭として俺と一緒に働いてきたやつだから心配はいらんはずだ、よろしく頼むな」


 熊が頭を下げる。


「よろしく頼みます」


 遊女たちも笑いながら言った。


「あお、わっちらこそ」


 同じように西田屋の支配人は西田屋三代目に任せることにした。


「まあ、元々はあんたが引き継ぐはずの見世だしな。

 もっともあくまでも楼主は俺のままだしあんたが俺の理念に外れたことをやるようだったら見世の運営から完全に外れて貰う場合もあるぜ」


「分かりました、結果を出してご覧に入れましょう」


「ああ、楽しみにしてるぜ」


 中見世は吉原歌で売り出したり多くとのつながりを作ったばかりだからいまは他人には任せらんない。


 美人楼吉原店に関しては竜胆を支配人にすることにした。


「店を私に任せてもらえるのかい?」


「ああ、美人楼に関しては俺が口を出す要素も少ないしな」


「わかったよ、じゃあこれからも頑張らないとね」


「よろしく頼むぜ」


 こうしていくつかの店の運営を俺は部下に任せることにした。


 うまくいくようなら吉原旅籠屋なんかにも支配人をつけてさっさと任せたいところだな。

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