素人のど自慢はいまいちだったな、はやり歌の数を増やすとしようか

 さて月が変わり2月1日になった。

 この日からは吉原を太神楽(だいかぐら)が回り始める。


 太神楽は大道芸の一種で獅子舞や傘回し、土瓶回し等の大道芸が仲通りを中心に行われる。

 傘回しは開いた和傘の上に鞠や桝をのせて回しつずける芸だな。


 21世紀では海老一染之助(えびいちそめのすけ)・染太郎(そめたろう)の太神楽師コンビの”いつもより長く回しております””弟は肉体労働、兄は頭脳労働、これでギャラは同じ”が有名だったな。


 まあ、そんな感じで相変わらず吉原は賑やかなんだが、今日は素人のど自慢の開催日でもある。


 基本的に商家は毎月の月末は締め日で翌日の1日はだいたい休みだ。


 そのほかの休みが無いよか、休みが1.11、21だったり1、6,11.16.21.26だったりするかは店によって違うが、月のはじめの1日が休みなのはほぼ確実だからこの日は休みの商人の参加者や見物客が見込めるからな。


 そして、劇場の楽屋にのど自慢の参加希望者が集まってきて、見物客も集まってきた。


 今日は劇場の入場料は取ってない。


「まあ、いきなり高い金はとれないよな」


 なんせ素人の歌を聞かせるだけなわけだからな。


 これ自体は吉原に若い女などがより入りやすくするための方策の一環にすぎない。


 俺は参加希望者に、にこやかに挨拶をする。


「皆さん参加を希望していただきありがとうございます」


 俺がそういうと参加者の一人が進み出てきて俺に聞いた。


「優勝者には賞金が出るって本当ですか?」


 あれ、俺そんなこと書いたっけ?


 まあ、賞金を出したほうが参加者も増えそうだしそうするか。


「ああ、ちゃんと出すから安心しろ」


 それを聞いた参加者の目が燃え上がったような気がした。


 まあ、盛り上がるならいいか。


 ちなみに審査員は大見世の太夫格5人だ。


「皆さんおまたせいたしました。

 これより素人のど自慢大会を開催します。

 なお優勝者には賞金として金一封が送られます」


 今回の参加者は10人で老若男女様々だ。


「一番、潮来節(いたこぶし)」


 潮来節は日立の潮来地方の民謡だな、元々は船歌が櫓を漕ぎながら歌う舟歌だったが、次第に座敷歌として広まっていった。


 歌ってるのはおっさんだがまあ微妙だな。


 ”きんこーん”


 うお、厳しいな、さすがに太夫格の耳はごまかせんということか。


 おっさんはトボトボと下がっていく、まあ、素人にしては悪くはなかったと思うぜ。


「二番、川崎音頭(かわさきおんど)」


 今度は若いお姉ちゃんだな。


 川崎音頭と言ってもこれは伊勢古市(いせふるいち)に近い川崎から起こった歌で、伊勢の古市遊郭で広まった歌だ。


 21世紀の神奈川県川崎市で盆踊りで踊る曲とは関係ないぞ。


 ”きんこーんかーん”


 あれぇ?という感じでお姉ちゃんは首をかしげてるが、採点厳しいな。


「三番、潮来節(いたこぶし)」


 あちゃー、もう曲がかぶったか。


 といってもこの時期における座敷歌の種類なんて少ないからな。


 年末の遊郭歌合戦のように遊郭の太夫同時が競う場合はある意味同じ曲のほうが競う感じで分かりやすかったともいえるが素人ののど自慢だとあんまり同じ曲で差がつきすぎても残酷だし盛り上がらない気もするな。


 この頃の流行歌というとあとは”なげ節”くらいか。


 そんな感じでのど自慢は進んでいき最後になった。


「十番、津軽じょんがら節」


 お、自前で三味線も持ち込んでくるとは気合入ってるな。


 割と若い女だが技術もありそうだ。


 津軽じょんがら節は津軽の民謡で津軽三大民謡の一つ。


 じょんがらもしくはじょんからの語源は津軽の浅瀬石城(あせいしじょう)下にあった寺の和尚・常椽(じょうえん)の名前に由来するという。


 慶長二年(1597年)に浅瀬石城は敵の大軍に攻められ落城し、その時に常椽和尚はがけの頂上から浅瀬石川に飛込んで自ら命を絶ったという。


 そのご和尚の亡骸は村人によって和尚を手厚く葬られ墓が建てられた川原は「常椽川原(じょうえんかわら)」と名付け、夏の盆の時期になると、供養と慰霊のために常椽川原に集まり盆踊りが行われたという。


 そのときに歌われたのが、常椽川原節(じょうえんかわらぶし)でそれがなまってじょんがら節になったという、その後じょんがら節は盲目の人が家々の前で津軽三味線の演奏をして、お金や米などの報酬を得る門付けの曲となり、人々の気を引くためにのんびりとした踊りの曲から演奏してその報酬をもらうための、速弾きや激しい撥さばきの楽曲となっていったのだな。


 ”べん……べん……”


 三味線が鳴り響き演奏が始まる。


「お、かなりうまいぞ」


 三味線の速弾きはけっこう大変だが上手くこなしながら歌を歌っているが歌の方もうまい。


 旅の芸人一座の女芸人かな?


 ”キンコンカンコンキンコンカンコンキンコンカーン”


 お、文句なしの合格でこれは優勝間違い無しだな。


「おめでとうございまーす。

 今の感想を教えて下さい」


「あ、はい、正直嬉しいです」


「では、賞金の金一封です」


 一両小判が入った包を手渡す。


「本当にうれしいです、皆さまありがとうございました」


 女はそういってでていった。


 正直途中まであんまり盛り上がらなかったから最後に盛り上げてくれて助かったぜ。


 しかし、この時代においては歌は基本的に農作業や漁、木こりの作業や船頭の舟歌、盆踊りの踊り曲のような曲がのんびりした物が多いがじょんがら節のような激しい感じの曲は面白いな。


 遊女たちに”なんとか桜”のような有名な和風ボカロ曲をアレンジして教えて毎週劇場で歌って踊らせたりするのもいいかもしれない、桜がつくボカロ曲は名曲が多くていいよな。


 この時代なら著作権で訴えられることもないだろうし。

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