吉原旅籠の評判はなかなかだ、そろそろ元湯屋の水茶屋や売春旅籠の取締も頼もうか
さて、昨年の大見世が2軒潰れたときに引き取って旅籠に改装した建物だが、基本的には置屋を女性用、揚屋は男性用として分けて運営している。
ちなみに旅籠は食事を提供する宿屋のことで、宿泊客が食事を持参して自炊する宿泊施設は木賃宿だな。
木賃宿では宿泊者はみずから持ってきた米を炊か無いといけないし大部屋での雑魚寝だった。
だけどここの施設ではちゃんとそれなりに良い内容の食事も提供するし、ふかふかのかけ敷ふとんもある。
この時代敷き布団は薄く掛け布団はないのが普通だからこれはかなり評判が良い。
「おっとう、おっかあ、昨日はふかふかで暖かい布団で一緒に寝られてよかったね」
どうやら家族みんなで川の字になって寝られたらしいな。
寒い冬は皆んでくっついて寝れば余計暖かい。
俺もひとり寝じゃなくて妙と一緒に寝てるから暖かいぜ。
「ああ、そうだな。
そんな料金が高いわけじゃないのに良い布団で寝られたよな」
「内湯に入れたのも良かったわよね」
「肩までお湯に浸かったのー」
「ああ、あれはいいもんだな」
昨日泊まった家族がそんな会話をしている。
時代劇なんかでは湯船のある風呂が普通に出て来るが、本来ほとんど存在しないからな。
そして客が遊郭に泊まると遊女はぐっすりねれないからその分料金は高くなるが、その分を浮かせたい客用として作った旅籠だから、本来的にはビジネスホテルのようなものだが、宴会場としての利用を考えれば高級ホテル的もしくは高級旅館のようでもあるし、ラブホテル的な要素もある。
まま利用目的を無理に狭めないで使わせたほうが取りこぼしがない。
21世紀現代でもラブホテルなのかビジネスホテルなのか曖昧なホテルも結構あるけどな。
「はい、いらっしゃいませ。
ご利用は何名様で?」
「大人二人に子供二人」
「分かりましたでは大きめの部屋へ案内しますね」
あくまでも部屋の料金ではなく泊まる人数に合わせた料金なので同じ部屋を使わせるなら人数の多い客に大きめの部屋を使わせたほうがいいからな。
「お魚美味しいね」
「ああ、米も良いコメを使ってるな」
「お味噌汁もお出汁がきいてて美味しいわよ」
「もう、おなかいっぱ~い」
食事用の広間で家族四人で膳を笑顔で賑やかに食べている様子も微笑ましいな。
基本的に食事は皆広間で食べてもらってる。
「そちらはどちらから?」
「相模から来たんですけど、そちらは?」
「うちは下総から来たんですよ」
相模は神奈川、下総は千葉の上の方まあ、そこまでは遠くないし、そこそこでかい庄屋か商家なんだろうな。
男性用は昼間は逢引用の出会い茶屋つまりラブホテルのようなスペースとしてや高級料亭のような純粋に宴会を楽しむ場所として。
もしくは内湯で女に背中を流してもらうのが目的のやつもいるな。
女性用は憧れの遊女や歌劇のファンの女性などが昼間に宴席に使う。
どちらも夜は比較的安価に宿泊ができる内湯付きの施設として人気だ。
遊郭は元々宿泊も料理の提供も能の披露などもできるようにできてるし、広い宴席もある総合的な施設でもあるので改装自体は簡単にできた。
「まあ、掃除とかが大変なんだがな」
部屋が昼間も夜も埋まってると部屋などの掃除をするのがなかなか大変なのだ。
このあたりは現代におけるラブホテルも同様なんだがな。
ちなみに家族連れの宿泊の場合はどちらでも大丈夫だが、男しかいなければ男性用、女や幼い子供もいる場合は基本女用旅籠の大部屋を使わせてる。
「さすがに妻子があるやつで他の女を襲うやつはいないだろう」
本当は家族用の建物も有ったほうがいいのかもしれないけどな。
「年も開けたし、そろそろ私娼の取締もお奉行様にお願いしないとだな」
江戸で公娼と認められているのは吉原遊郭の遊女だけでそれ以外に売春行為をしているのは全部私娼、つまり違法行為だ。
逆に言えば吉原の中であれば湯女でも大丈夫なんだけどな。
ちなみに21世紀の性風俗の中でソープランドでの本番行為も本当は違法、なので保健所の立入検査があって、そのときに問題点、たとえば部屋の中に”マットプレイ用のマットやらローションなんか”があったら潰れてしまう。
ピンクサロンも違法でここも保健所の立入検査でアウトだ。
建前ではソープランドは公衆浴場、ピンクサロンは飲み屋で営業許可を取ってるからな。
許可を取ってる箱型ヘルスやデリバリーヘルス、ホテル型ヘルスは合法だ。
怪しい中国人だか韓国人だかわからんお姉ちゃんが”マッサージどう?”と聞いてくるのは違法も違法なボッタクリだ。
けど、なんだかんだでソープランドやピンクサロン、中国人マッサージが潰れてないのは暗黙の了解ってやつだろう。
ソープランドなんかは大体は公娼街であった赤線の名残だったりするし。
それはさておき、吉原の最大のライバルは湯屋の湯女を抱えていた湯屋が取り潰された後に立て直した水茶屋だったりする、なにせ吉原は場所が悪い、街中にある茶屋なら気軽に遊べるしな。
その他には江戸時代におけるたちんぼである夜鷹や船饅頭、屋敷に伺って遣り取りをする提重や比丘尼、そして日本橋から最初の宿場町となった、江戸四宿と呼ばれる東海道の品川、日光街道の千住、中山道の板橋、甲州街道の内藤新宿という四つの宿場町の飯盛女など。
特に飯盛女は本来はその文字通り旅籠における給仕をする女であるのだが、湯女と同じように客の足を洗ったりなどの世話もすることで、売春も行っていた。
彼女たちの多くは山女衒から売られてくる田舎の女で容貌がさほど良くないものや年齢が高いものが買われることが多く、その実態はかなり悲惨だった。
江戸四宿には飯盛女の投げ込み寺が有ったし、吉原と同じように彼女たちは僅かな金額で売られ、7歳位から下女ととして働かされ、15歳になると売春を強要された。
彼女たちは客がとれず稼ぎがなければ、食事を抜かれ折檻された。
丸裸で梁へ釣り上げ、竹の棒などで打ちのめされた。
病にかかればそのまま放置され、心を病んで首をくくるものも多かった。
吉原の遊女に比べて飯盛女は身請けなどもされないし、年季が開けても行く宛もないものも多かった。
そして死んでも身柄の引き取り手は現れないため投込寺に投げ込まれた。
品川の法禅寺・善福寺・海蔵寺、新宿の成覚寺、板橋の文殊院、千住の金蔵院などは投込寺と呼ばれている。
この時代は妾を囲うこともごく普通に行われているのだが、まあこれは江戸の男女の人口比率が2:1で男が余ってるというせいもある。
その為もあるが基本的に与力同心の治安維持要因の万年人員不足の奉行所はそういった私娼の摘発には熱心ではない。
実際の問題として昨年の明暦3年に湯女風呂が200軒取り潰されたことで、売春行為を行う湯屋や湯女は現在はほぼいなくなった。
だがその後、水茶屋という看板を掲げて、茶屋の外で男たちがおおっぴらに客引きをするようになる。
新吉原の楼主は”警動(けいどう)”という私娼を見つけたら奉行所に報告し摘発してもらう権限を与えられている。
なので寛文3年(1663年)10月にとうとう、江戸町2丁目の名主源右衛門が町奉行所に訴え出たのだが、奉行所は「それならその証拠を持ってこい」とその時は相手にされなかった。
そこで寛文3年(1663年)の11月26日の夜、吉原の若い衆は18人で船に乗りこみ、鉄砲洲、三崎、築地の茶屋町を急襲し、そこで水茶屋の主人・善右衛門と抱えの茶立女・小太夫ら3人を引っ捕らえて番所へ突き出した。
しかし、茶屋の若い衆もそいつらを取り返そうとしたために大脇差しを持って刃傷沙汰になった。
これを受けて翌年寛文4年(1664年)幕府は表店に茶屋を構え女を置いて商売をすることを禁止した。
そして更にその翌年の寛文5年(1665年)、名主源右衛門は奉行所に”茶屋のほうから吉原に引っ越したいと申し入れてきたら受け入れたい”と申し出た。
その際に”茶屋が納得しなければ、問答無用で引っ捕らえて差し出します”と言うことを付け加えたんだな。
これによって茶屋も少し吉原に移転してきたがそれでも茶屋は普通に売春行為や呼び込みを行わせていた。
最終的には寛文8年(1668年)3月4日、奉行所は名主源右衛門を内密に呼び出して茶屋の摘発をおこなわせた。
吉原の若い衆8人を連れた源右衛門と奉行所の同心30人が築地の茶屋を摘発しようとしたが、この時は、情報が事前に漏れていて茶屋に売女はおらず、成果を挙げることはできなかった。
しかし、これが奉行の面目をおおいに潰し、町奉行は翌日から執拗に水茶屋の摘発をくりかえして、鉄砲洲築地や深川門前仲町などの水茶屋を一掃したのだな。
尤もその後も品川や深川等の非公認の岡場所ができたりもするのだが。
「まあ、とりあえず四宿の飯盛女の扱いの酷さと隠れて営業を再開してる元湯屋の水茶屋を報告するかね。」
俺は町奉行所に訪れてそれについて報告をした。
まあ、回答は予想通りだったけどな。
「ならば証拠を差し出すようにせよ」
とな。
ならばまあ、いろんな伝手を使って人と証拠を集めるとするかね。
最も本来の品川などは吉原よりも安くてそこそこ良いサービスを受けられるのがメリットだが、現状における吉原は価格やルックス、サービスで品川を上回ってるから客が吉原から逃げるってこともないと思うんだが。
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