真田の忍びと剣客商売
真田の殿様の言葉に俺は固まった。
「どうしてそれを?」
真田の殿様は笑っていった。
「まあ、私にもそれなりに情報網はあるのでな。
お猿!」
真田の殿様がそう声をかけるとそしてシュタッと座敷に人の影が舞い降りた。
「はっ、お猿、只今参上いたしました」
お猿と呼ばれた人物はちょっと見た感じはなんというか何の変哲もない若い一般人の男って感じだな。
ダボッとした服を着てるんで体の線は良くわからないけど。
「うむ、札差の越後屋とその接待を受けておる与力たちについて詳細に調べてきてくれ」
「は、かしこまりました」
シュタッと人影は消え失せた。
「なるほど、情報網というのは」
真田の殿様はかかと笑っていった。
「うむ、太平の世となったにせよ情報を得ておくのは大事ゆえな」
戦国時代において真田氏は忍びの者を多数召し抱えており、その中には書物に名を残しているものも少なくない。
講談などにもなっている真田十勇士が有名だが彼らはすべて実在していたわけではない……はずだ。
しかし、その元になった忍者はいたりする。
猿飛佐助のモデルの一人である唐沢玄蕃の子どもであるお猿などがそうだ。
また、武田氏が滅亡した後、 武田信玄が育て上げた歩き巫女の多くは真田氏によって引き継がれた。
真田氏が小さな勢力であっても強力な大名として見られ、なかなか隠居が許されなかった理由の1つにこの忍びによる情報収集能力があったからだろう。
元歩き巫女のくノ一である彼女らは豪商の屋敷や大名家の武家屋敷に下女や女中として面接を受けて正面から入り込み、普通に働いて周りの信頼を得てその中の情報を収集した。
また、男衆も行商人として町中を歩き回ったりして情報を収集して回ったわけだ。
まあ、うちに出入りしてる行商人が真田の殿様の配下の忍びであっても驚きはしないな。
「まあ、情報が手に入るまではしばらく時間がかかるだろう。
その間に桜太夫の想い人に何かあってもよろしくないであろうし用心棒を雇っておいたほうが良いやも知れぬな」
おれは真田の殿様の言葉に頷いた。
「たしかにそうですな」
その日はそんな形で終わった。
そしてその翌日俺は浅草聖天町の佐々木累の道場を訪ねた。
この道場も一時期は門弟が少なくなって大変だったらしいが、竹刀と防具を俺が作って渡したら実践的な打ち込みが出来るとまた評判になったらしい。
中からは掛け声などが響いてきている。
俺は道場の入り口で中に声をかけた。
「俺は浅草吉原の三河屋戒斗というが道場主さんはいるかい?」
中から出てきた男は俺のことを胡散臭そうに見ている。
「何だお前は、我が道場の師範になんのようだ」
「ああ、ちょっと頼みたいことが有ってな」
俺のその言葉に門弟らしい男は声を荒げた。
「はあ?
貴様のような胡散臭いやつを師範に合わせるわけがないだろう」
そんなことをしていたら中から佐々木累が出てきた。
「一体何をしているのですか?」
「ああ、先生、なにやら怪しげな男が先生を呼べと言うので追い返そうとしていたところです」
佐々木累がそれを聞いて苦笑していた。
「その人には以前お世話になっていますので上がっていただいてください」
「な、この男が?」
「ええ、四割竹刀と防具を作ってくださったのはこの方ですからね」
「な、なんと、これは失礼しました。
どうぞお上がりください」
門弟の態度の急変はなんだかなではあるが、話が揉める前に佐々木累が出てきてくれて助かったぜ。
道場に上がらせてもらった俺は早速話を切り出す。
「あんたの剣の腕を見込んで、また用心棒を頼みたい。
ただ今度は俺達の見世ではなく日本橋の米屋の丁稚を守って欲しいんだが、出来るか?」
「まあ、問題はないよ。
具体的な名前とかを教えてもらえるかい?」
「ああ、助かるぜ」
俺は米屋の清兵衛の事を佐々木累に説明した。
「その清兵衛が使いに出るときなどに影から守ればいいんだな」
「ああ、流石に真っ昼間からしかけてくるようなことはないと思いてえがまあ、万が一ってやつだ」
佐々木累は頷いた。
「わかった、任せてもらおう」
とりあえずこれで清兵衛の身の危険は少しは減らせるかね。
こういう時に力になってくれる人間がいるのは本当に有り難いことだ。
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