田圃の農法を試験的に改良してみようか

 さて、やっと暖かくなってきたこの時期、田圃では田植えが始まる。


 稲は元々揚子江の河口付近かベトナムあたりに起源を持つ東南アジアの熱帯植物なので寒いと育たんからな。


 そしてこの時代では苗はある程度育った成苗植えで、植え付けから60日もたつと、穂は実り始める。


 というわけで水戸の若様経由で勘定奉行の許可もえて田圃の作業を変える手伝いをすることにした。


 とは言え種籾の塩水による選別などは時期もとっくにすぎている上に、貴重な種籾を塩水に入れて浮いたものは捨てるということをいきなりやっても農民に白い目を向けられるだろう。


 ここで今回やってみるのは田植定規をつかい正条植を行うこととその後の合鴨農法と魚道農法。


 まあそれぞれ一反(おおよそ990m2)ずつほどの試験栽培だけどな。


 本当なら道路を直線で区画に分けて曲折した道路や畦道をなくすようにして、直線状の水田区画を整備したほうが良いのだが、土地に関しては色々権利なども有ってそうすることは難しい。


 川や水路の流れや道路などに沿って大小様々な直線でない緩やかな棚田のような水田ではなく直線の水田のほうが、牛で引かせる鋼鉄製の鋤を用いることで耕作や用水や排水がスムーズになるし、田植えや収穫の時の運搬も楽になるし、雑草を取るのも楽なんだが仕方ない。


 まず全ての田んぼにおいて田植えの際に育った稲の距離が近すぎて稲の育成が阻害されない距離の長さに作った田植定規を用いて等間隔に苗を植えていく、端の方の余った部分は定規で入る場所は等間隔に植えてもらう。


 アイガモ農法の田圃は大きめの場所は家鴨や合鴨を飼うための鳥小屋のためにスペースを開けてもらう。


 その間に大工の権兵衛親分に頼んで田圃の周りを獣が入れないように柵と網で覆い、田圃の一部を埋め立てて鳥小屋を作ってもらう。


 親分に頼んで魚道を作るために人足を雇って山谷堀から魚道を引いてもらい鯉や鮒、泥鰌などが自然に入ってこれるようにする。


「いつもすまんな、よろしく頼むぜ。

 代金はまた2両で頼めるか」


「やれやれ、旦那は相変わらず人使いが荒い。

 まあ、任せていただきましょう」


 権兵衛親分は相変わらず仕事が早くあっという間に埋め立てて鳥小屋を完成させてくれた。


「流石だな。

 ほれ、代金の2両だ」


 親分は嬉しそうに受け取った。


「へえ、ありがとうございます。

 これでまた鈴蘭に会いに行けますな」


 すっかりはまってるな。


 はらった金が結局俺のもとに戻ってくるのはありがたいが。


 アイガモ農法の田圃は田植えの6日後に生後2週間から4週間ほどの家鴨や合鴨の雛を昼間の間は水田に放し飼いにすれば、そいつらが雑草や害虫などを食べ水田を綺麗にしてくれ、泳ぎながら水田の水を掻き回してくれることによって、水を濁らして水温を上げ稲の成長を助けさらに、稲についている虫を家鴨や合鴨が食べる接触刺激が稲に作用し茎を太くしてしっかりした稲を作りさらに家鴨や合鴨の排泄する糞尿が肥料になる。


 まあ、田圃の雑草や害虫のたぐいだけでは栄養は足りないので、万国食堂の残飯なども食わせるけどな。


 淺草は江戸では田舎だから夜には野犬や狐、狸、イタチなどが出るのでそういった鳥獣に襲われると困るので鳥小屋に戻す。


 アイガモ農法は農作業の労力をかなり低減させてくれるなんともありがたい方法だ。


 まあ、一見良いことずくめに見えるが雛でない家鴨や合鴨だと稲も食べてしまうので1年以上立ったやつは使えない、だからある程度は雛を生ませるために残し、それ以外は増えすぎないように卵を食べたり育ちすぎたものはしめて鴨鍋にする。


 また水鳥の羽は断熱効果が高い、合鴨の羽を抜くのは大変だが、それを布団につめて羽毛布団にしたり羽毛を詰めた半纏をつくれば今より冬も暖かく過ごせるかもな。


 魚道を作ることで鯉や鮒などを田圃に住まわせる農法も基本は同じだ。


 魚が水中の雑草や害虫などの幼虫を食べてくれる。


 鯉や鮒は食べても栄養も豊富だ。


 ただアイガモ農法よりは効果は薄いとおもう。


 ついでの少し農具工具の改良も進めよう。


 なら、まずは鍬からか。


 江戸時代の発明の鍬と言えば備中鍬だな、そしてそれを鋤として進化させたのははねくり備中。


 備中鍬は刃の先が2本から6本に分かれているもので、その分土の抵抗が少なく、畑の深耕や水田の荒起に用いる事ができる。


 これの問題は平鍬に比べれば歯が細いので曲がったり壊れたりやすい、加工が大変な分たかい、広くてまっすぐな土地の場合牛と鋤を使って耕したほうが楽ということだが。


 日本において鉄は貴重な金属なのでまず鉄そのものが高く、玉鋼は更に貴重でたかい。


 しかし、備中鍬の刃先の細さで土に力任せに刺しても曲がったり折れたりしないようにするにはそれなりに良い鉄が必要だ。


 俺は鍛冶職人に相談してみた。


「というわけで股鍬を玉鋼でつくって歯が二本、三本、四本、六本のものを試作してもらいたい」


「はあ、わかりやしたやってみます」


 まあ、とりあえず鍬は作ってみて使い心地や耐久性を試してみるしかないな。


 使い勝手が良くてもすぐ壊れてしまうようじゃ意味がない。


 あとは脱穀用の千歯扱き、選別用の千石とおしや万石とおしも収穫までには作っておかないとな。


 扱箸から千歯扱きに、とおしから千石とおしに器具を置き換えれば脱穀や選別も楽になるだろう。

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