暖かくなってきたし食中毒にそろそろ気を使わないとな・美人楼門外店も繁盛してなによりだ
さて、6月になり大分暖かくなってきた、そして暖かくなると食い物がいたむのも早くなる。
玄米に麦や雑穀を混ぜた雑穀米だと栄養が豊富な代わりに特に危ない。
実際21世紀現代で俺が学生の時に弁当が傷んでいたことも一回有ったしな。
給食だとアレルギーで食べられないとかがあるが弁当は傷むという怖さがある。
カレーも一晩おいたりすると実は細菌が大繁殖して危ないそうだ。
そんなわけで今までは朝にまとめて飯を炊いて夕方の飯は茶漬けにすることで冷めた飯を食うようにしてきたが、そろそろ食中毒などを起こしても困るので朝晩の飯は別々に炊かせるようにする。
俺は飯炊きの係がいる台所へ向った。
「飯を食った女たちが腹を壊すようでも困るんでな。
今日から食事のたびに米などは炊くようにしてくれ」
「へえ、承知いたしました」
そのぶん薪代などは余計にかかるようにはなるが、食中毒で集団で病気になる方がやばいし、まあ飯も炊きたてのほうが美味いしな。
節約は大事だがやり過ぎは逆効果になることもある、薪代をケチって病気になって余計にカネがかかるのはアホらしいよな。
俺は妙に頼んで西田屋や玉屋にも同じ通達を出してもらった。
妙をこき使い過ぎかもしれんが嫌な顔もせずに働いてくれるのはありがたい。
「すまんな、助かるぜ」
妙は笑って言う。
「いえいえ、これは大事なお仕事ですし、遊女の皆さんの体を気遣うのはすばらしいですわ」
こうして理解してくれるのは本当にありがたいよな。
そんな感じで俺の遊郭などは切見世も含めて大分食事内容は改善されてきたが、この時代の江戸の庶民や下級武士は白米と漬物と味噌汁というのが普通の食事だったから栄養が偏りすぎだ。
そりゃ脚気にもなるし流行病にも弱くなるだろ。
肉の食い過ぎもそれはそれで色々良くないが、もう少し卵や肉、魚などのタンパク質は増やしたほうがいいと思うんだがな。
それでなければやっぱり麦や雑穀を混ぜることだな。
雑穀は米に比べると味はないに等しいが、食物繊維、ミネラル、ビタミンなどの観点から言えば白米よりもずっと優れている。
厄介なのは白米は栄養価的には大変よろしくないのだがとても”美味い”ということなんだ。
そして米は収穫倍率も高い、困ったことに水が冷たく寒暖の差が大きいいほど米はうまくなるが寒さに弱い、なので豊作と凶作の差が激しい。
会津とか越後、信濃が美味いコメが取れる米どころとして優れてるのはその為もあるんだよな。
それまでは芋を育てて食べていた人間がコメを食べてしまうと芋は味気なさすぎて食えなくなるなんてことも実際東南アジアやアフリカなどでは起こってるようだ。
逆に粟、稗、黍、四国稗、唐黍などの雑穀は寒さや乾燥に強くしかも育成も早い、しかし栄養が満点でも冷めるとボソボソして食いづらく雑穀そのものにはほとんど味がない。
そしてそういったことから江戸時代ではほとんど売り物にもならない。
また粒が小さいため鳥害を受けやすいと言う欠点もある。
なかなかうまくいかないものだな。
「まあ、雑穀は粉にして食えばそこそこうまいしそっち方面で考えるか」
黍は黍団子などにもされるが、そういった和菓子だけでなくクッキーやパン、ピザのような洋風料理や洋菓子に加えてもいいはずだ。
洋菓子などは乾燥していて食べづらいイメージもあるけどな。
珪藻土で耐熱皿を作ってグラタンもぜひ食べられるようにしたいものだ。
さて、美人楼などの吉原門外店ができたことで、浅草寺への祈願名目で浅草寺に来た後、その帰りに美人楼や万国食堂、もふもふ茶屋へやってくる女性客は水戸藩の奥女中を中心にしてその話を伝え聞いた他の御三家や親藩、更には大奥の女中なども増えた。
万国食堂から出てきた女たちが笑顔で話をしている。
「大変美味しかったし、珍しい食事でした。
ぜひまたきたいものですね」
「そうですね、私たちはなかなか外出できませんし」
そのほかに割りと裕福な商人の娘なども来ている。
美人楼でのヘアケアやリンパマッサージの施術、販売している物品の価格は吉原の中のほうが少し安いし、観劇の帰りに立ち寄って買っていくやつや化粧品などを買っていく遊女も居るから吉原内の店もそれなりに繁盛はしてるけどな。
この時代の江戸城や藩邸の奥女中というのはいろいろな理由で城や藩邸の中からはなかなか出られない。
特に江戸城の大奥は休暇をもらって親元へ帰る宿下がりを許されるのは将軍に直接会えないお目見え以下と呼ばれる下級女中だけで、お目見え以上と呼ばれる上級女中は基本的に寺社への代泰という形でしか城外へは出られなかっだ。
これは将軍家の守秘義務によるものだな。
まあ、なんだかんだで寺へ行くという名目で江戸城から外出して寺社参拝した帰りに歌舞伎や能、吉原歌劇などを観劇したり、食べ歩きや買い物などをしてストレスを発散したわけだから浅草寺の裏手に店が開けたのはラッキーだったな。
今更ながら説明するが大奥は、江戸城の本丸にある将軍の正室や側室などの嫁さん達、そして一緒に住むその生母や子女、その他雇っている女中たちの住んでいる場所だ。
大奥は将軍と幼い息子、医師を除けば男性は入れなかった。
その広さは6000坪で21世紀現代で言えば東京ドーム二つ分に相当する。
馬鹿みたいなでかさで、将軍の世継ぎを絶やさぬためには必要と考えられてたんだが結局あんまり役に立っていないんだよな。
徳川家康の時代から江戸城には大奥と呼ばれる区画自体は存在した。
しかし、当時はまだ天下の定まらない時代だったので政務の場所である表と私室である奥の区別はまだなかった。
男子禁制の大奥をつくったのは2代目の将軍秀忠で3代目将軍の家光の時代に春日局が、江戸城大奥の制度を整備し、この時は最大で4000人ほどの奥女中を抱えていた。
なんでそんなにまで増えたかというと大奥の最大の目的は、将軍の世継ぎを産み、育てる事なわけだが、江戸時代では30歳を過ぎての高齢出産は極めて危険とされ、30を過ぎたら将軍の夜の相手はできなかった、しかし、守秘義務もあるので年を取った女をやめさせることも出来ない。
側室側も今更出ていってくれと言われても困る。
だから、家光の子供を作ろうとして若い女を集めた後、そいつらの面倒をずっと見ていたからということだな。
しかし、慶安4年(1651年)徳川家光が死ぬとその後を継いだ家綱は江戸城大奥の女中3700人以上を解雇し、不要な建物を取り壊した。
解雇された女は尼になった人間も多かったようだ。
その時渡された金は一人四両。
一般人には十分な額だが贅沢に慣れた女には少ない額だと思っただろう。
しかし、家光の時代の幕府の年間予算はおおよそ80万両(おおよそ800億円)だが、大奥の運営費はそのうちの20万両(おおよそ200億円)要するに幕府の支出の四分の一が大奥の運営費用だったわけだ、そしてその20万両の約半分は女性達が身につけるもの、衣服、化粧品、簪や櫛に使用されていたそうだ。
息子の目から見ても父親と母親の大奥への金のかけ方は度がすぎるように見えたのだろうな。
実際に家光はその一代で500万両もの金を散財して徳川の屋台骨を傾かせる原因を作っている。
しかし、武断政治から文治政治への転換のためといろいろ金を使った結果、500万両有ったという徳川の財産は家綱が死んだときには100万両も残っていなかったそうだ。
後の将軍吉宗の時代の幕府の年間予算は73万両ほどで大奥の人員は350人ほどとなり運営費は6万両ほどになった。
家綱の時代は大量リストラしたとは言えやはり300人ほどは居たようだ。
仮に現在の大奥の奥女中が身につけるものに年に2万両(おおよそ2億円)使うとしても、その一部が来るだけでもそりゃ美人楼の門外店も儲かるよな。
大奥の全員が高給取りの金持ちセレブなわけじゃないにせよ、そのうちのいくらかは美人楼に来るのは間違いない。
ちなみに玉の輿という庶民が上流階級と結婚する言葉の由来は、家光の側室となり八百屋の娘として生まれたが最終的には徳川5代将軍・徳川綱吉の母へとなったお玉の名前からきてる。
徳川将軍は意外と正室の宮家や公家の子供ではなく母方が庶民の子供が多いんだな。
俺は美人楼などの責任者である竜胆に聞いた。
「どうだ竜胆。営業は順調か?」
竜胆は笑顔でいう。
「もう施術が忙しくて大変ですわ。
なんだかんだで装飾品や絵などもよく売れてますよ」
俺はその言葉に頷いた。
「そうみたいだな。
まあ、俺にとってはとてもありがたい話だぜ」
「ありがたいですが、忙しすぎるのも考えもんですわ」
「まあ、それには同感だ」
見世の手伝いには禿たちも出してる。
そうすればちょっとした小遣い稼ぎ程度にはなるし、たまに違うことをするのもストレス解消になるみたいだぜ。
太夫たちに名を書かせた名入の絵、手形、俳句などが売れれば太夫たちも副収入が増える。
副収入が増えれば休みが増えてもそれを取り戻せるからな。
お陰で俺の見てる三河屋や西田屋、協力してる玉屋の遊女たちは結構楽になったぜ。
三浦屋も参加すればよかったのにな。
まあ大奥は色々闇の深いところでもあるのであまり首は突っ込みたくないんだよな。
歌舞伎座の山村座が廃座とされ1400人ほどが処罰された江島生島事件のようなこともあるしな。
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