続・ある日の吉原遊廓のお客達:大工の師弟編

 さて、三河屋よりうけた仕事の養蜂用の蜂の巣箱をきっちり作り上げた報酬で、腕のいい大工の権兵衛親方とその見習いの太助は早速三河屋で遊べるように予約をしに行った。


「おいらは山茶花ちゃん一筋ですが、親方はどうするんで?」


 親方は考えてみたが実物を見てもいないのに決められるわけもない。


「とりあえず格子の誰かで見世任せにしてみようと思ってるよ」


 親方の言葉に頷く太助。


「それもいいかもしれませんな」


 太助は山茶花を親方は格子の中でおまかせでまずは夜の予約をした。

 そして親方は懐から金入れを出すと太助に1両(おおよそ10万円)を手渡した。


「よし支払いはまたこいつでやんな」


 太助はやはり恐る恐る小判を受け取る。

 やはり1両は見習い大工にとってはとてつもない大金だ。

 江戸時代における庶民はほとんど金貨とは無縁だった。


「へい、ありがとうごぜえやす」


 そして親方は腹を押さえて言った。


「腹減ったしそこら辺でなんか食うか」


「へえ、そういたしやしょう」


 やがて、二人は連れ立って、吉原の大通りを歩いていき、蕎麦屋ののれんを見つけると二人はその暖簾をくぐった。


「へい、らっしゃい、なんにしやすか?」


「天そば2つと板わさに酒をくれ」


「へい、承知しやした」


 この頃の蕎麦屋はそば本来の香りを大切にしていた、だから注文を受けてから蕎麦の実を臼でひいてから打ったので、出来上がるのに時間がかかった。

 客はその蕎麦が出来上がるのを待つ間に焼き海苔や板わさなどを肴にしてお酒をちびちび飲んで待っていたのだ。

 蕎麦屋は蕎麦を食べるだけでなく軽く酒を飲んで腹ごなしをする居酒屋のようなものでも有った。

 しかも蕎麦屋の酒は上酒とされていた。


「ほれ、太助も飲め」


「へえ、ありがたくいただきやす」


 二人は日本酒を猪口できゅっと飲んで薄く切られた蒲鉾をわさび醤油につけて食べればこれがまた日本酒にとても合う。


「んー、うめえな」


「ほんとうまいですな」


 やがて蕎麦のよい香りとともに、海老天の載った天そばが運ばれてきた。


「へい、お待ちの天そばでい」


 さあ、早速と二人は箸を手に取った。


「おう、きたきた、伸びんうちに食うぞ」


「へえ」


 挽きたてうちたての蕎麦の香りが漂う麺をズルズルとすすり、サクサクと揚げたての海老天をハフハフと食べる二人。


 やがて食べ終わるとてんぷらそばの三十二文を2つ分、上酒一合四十文、板わさ十六文をあわせて払って店を出る。


「夜見世までにはまだ少し時間があるしまた吉原意和戸の劇にでもよるか」


「へえ、あそこもいいですな」


 二人はさっそく吉原意和戸へ向かい、今回はためらわずに二人は芝居小屋の中へ入っていく。

 そして入り口で受付で親方は念のため聞いた。


「おい、最前列で2人で400文で大丈夫だな」


「へえ、大丈夫で」


 親方は二人分400文を取り出して支払った。


「へえ、まいどあり」


 二人が中に入ると、やはり中はほぼ満席。


 しかし、今日は女衆の姿が多いようだ。


 そして親方と太助が最前列に座ると、舞台が始まる時間が来た。


 劇場に語り部の声が響く。 

 ”本日の演目は散所太夫(さんしょだゆう)でございます、皆様しばしご静聴を”


「ん、脱衣劇じゃない、ちと早すぎたか」


「まあ、暇つぶしにはいいんじゃないですかい」


「ん、まあそうだな」


 ”時は平安の終わりごろ、平家が権力の絶頂にあった頃のお話でございます。

 その頃はお公家様が土地をたくさん持っていた頃です。

 しかし、公家の代官と平家の代官がそれぞれの土地に派遣され

 年貢をそれぞれ取っていくため農民はとても苦しんでいました。

 ある時夏がとても寒く稲の実らない年がありました。

 しかし、公家の代官も平家の代官も稲をいつも通り

 取っていってしまいました

 種籾もなくなり気落ちした村からは村人が逃げ出し

 散所(さんしょ)と呼ばれるようになりますが、

 そこに日向という人買いがやってきて村の娘でも

 器量良しとされるあんずとすももという姉妹を買いました。

 その人買いを「散所の大夫」と人は呼びました。”


 舞台では二人の禿が悲しげな表情で男に連れられていく。


「うう、かわいそうになぁ。

 俺も農家の三男だったからわかるぜ」


「そうだったんですか、親方」


「ああ、俺は田を継ぐあてもねえから江戸に出てきてこうやって大工になったんだ。

 幸い仕事はたくさんあったからな」


 ”やがて姉妹は京の都で白拍子や遊女を育成し、白拍子を貴族などのもとへ派遣する錦楼(にしきろう)へ

 売り渡されてしまいました。

 姉は普通の遊女に妹は白拍子になるべく二人は幼いときから芸や踊りを仕込まれました。

 ろくに食事を与えられず姉妹はお腹をすかせていましたが心優しい姉は妹に自分の食べ物を食べ残したと

 言って分け与えていました”


「姉ちゃん、ひもじいよぉ」


「わかった姉ちゃんの残った分もくいな」


「ありがとう姉ちゃん」


 ”そして姉が大好きな妹は姉に褒めてもらうために辛い芸の習い事をとても頑張りました”


「姉ちゃん、今日は三味線が上達したって太夫様に褒められたよ」


「そう、良かったね」


 二人の様子を見た親方は目頭を押さえました。


 江戸っ子はお涙頂戴に弱いのです。


「うう、かわいそうになぁ」


「そうですなぁ」


 ここで禿と入れ替わりに鈴蘭と茉莉花の姉妹が舞台に上がった。


 ”ある日、あんずは妹を密かに逃れさせようとし 罰として額に焼け火箸を当てられたのです。

 しかしあんずが肌身離さず持っていた守りの観音様あんずの優しい心を見守っていた観音様に

 守られあんずには痕が付かなかったのです。

 さて、独り立ちしたすももはつしお御前と名乗り白拍子として招かれたお公家様の前で舞を踊りました。

 しかし、この年は西国の飢饉で京の街は大慌て、姉には客の付かない日が続きました”


「無駄飯ぐらいに食わせる飯はねえぞ」


 ”姉はそう罵られろくに食事を与えられず、とうとう他所の楼へ売りに出されます”


「ふむ、だいぶ痩せてるが顔は悪くねえな」


「ならどうだ、引き受けてくれるか?」


「分かった、100両で引き受けよう」


「そいつは助かるぜ」


 ”あんずは部屋に有った私物を風呂敷に包み背負って、新しい店の楼主の後ろについて三河の国まで歩きます。

 きっともっとひどいところなのだろう。

 あんずは錦楼に残された妹も心配でしたが自分がどうなるかもわからず不安でした。

 しかし、雨がふらず飢饉に喘いでいた。

 西国やそこから米の入っていない京と違い三河は雪解け水に恵まれて豊かな田畑がありました。

 新たにあんずをかった三河の楼主は豪華な御前をあんずにだして言いました”


「おう、おめえさんとりあえず飯食って元気だしてくれや。

 それからきょうはたっぷり寝ていいぞ」


 ”あんずは目を丸くして言いました”


「あの、これ楼主様の食べるものじゃありんせんの?」


 ”楼主は笑って否定したのです”


「いやいや、間違いなくお前さんのだよ。

 遠慮しないで食ってもうちょっと肉をつけな。

 女の体ってのは骨ばってるんじゃなくて触ったら柔らかく在るべきだぜ」


 ”あんずはうれしさのあまり泣きながら言いました”


「あ、はい、ありがどうござびまず」


 ”あんずは泣きながら食べた。

 そしてその日はぐっすりたっぷり寝た。

 寝ながら思い浮かべるのは妹のすがたでした。

 妹は今ごろどうしているだろうか、寂しくて泣いていないだろうか。

 ちゃんと食べてるだろうか、せめて別れの挨拶はしたかったと

 心は乱れました。

 やがてあんずは楼主に妹のことを話しました”


「私のかかえる借金が増えて年季がのびてもかまんせんです。

 どうか、私の妹をここへ住み替えさせていただけんでしょうか?」


 ”楼主様は腕を抱えて悩んでいいました”


「んー、そいつが人気の遊女だとするとなかなか難しいな。

 まあ、話してみるさ。

 流石に住み替えできるかは金額次第なところはあるけどな」


 ”あんずは涙を流しながら頭を下げました”


「ありがとうございます。

 本当にありがとうございます」


 ”一方のつしお太夫は僅かな暇を見つけて、酒まんじゅうを買い、

 姉に食べてもらおうと自分たちの部屋に行きました。

 しかし、そこにいたのは別の女郎でした”


「あれ?ここは姉さんお部屋でありんすよね?」


「ああ、あんずなら別の見世に売られたよ。

 金の稼げない女郎はいらないってね」


「そんな……」


 ”つしおは手の持っていた饅頭を落として呆然としてしまったのです。

 姉が居なくなってしまったのならこれから自分はどうすればいいのだろうと。

 つしおは楼主と掛け合いました。

 姉が売られた額を自分が稼げば姉を戻してもらえないかと。

 楼主はそれは相手次第だと答えました。

 つしおは落胆したものの、また一緒に働ける可能性がないわけではないと、

 つしお太夫は妹はその日からいっそう必死になって働くようにしたのです。

 さて三河の楼主は錦楼の楼主に掛け合いに行きました”


「手短に行こう、この前お前さんから買った遊女の妹もこっちに居るらしいじゃねえか。

 そいつも俺に売ってほしい」


 ”しかし錦屋は首をたてには振らなかった”


「そうは言われても、妹の方は白拍子でな。

 小さいときから芸事を仕込んできた器量よしだ。

 お前さん相手とは言えそう簡単には売れないぜ」


「ふむ、ちなみにいくらならこっちに出せる?」


「最低限500両だな」


「500両か、白拍子ならそれも妥当ではあるな。

 そんくらいの金額だと俺の一存だけじゃ決められねえ。

 楼に戻って一度相談してからもう一度くるわ」


「おう、そうしてくれ」


 ”そうやり取りした三河の楼主は店に戻るとあんずに聞いたのです”


「あんず、お前さんの妹を引き受けるには500両だそうだ。

 お前さんはその500両を引き受ける覚悟はあるか?」


 ”あんずは少しだけ考えたあとで真剣な表情で答えたのです”


「あい、わっちが一生かけてもその500両かえさせていただきんす。

 どうか妹をお願いしんす」


 ”三河の楼主はその言葉に頷いた”


「そうか、お前さんの覚悟はわかった。

 もう一度話してくるぜ」


 ”あんずはあたまをさげていいました”


「はい、おねがいしんす」


 ”三河の楼主は500両と証文を用意すると再び京に赴いた”


「妹の白拍子貰い受けに来た。

 現金で500両、確かめてくれ」


 ”錦楼の楼主は驚いた、

 500両をもって戻ってくるとは思っても居なかったのだ。

 妹の相談に乗ってやったはいいが安い値段で売るわけ無いは行かない

 理由も有ったからだ”


「まさか500両をもって戻ってくるとはな。

 お前さんの所はそんなに儲かってるのか?」


 ”三河の楼主は笑いながら答えた”


「まあ、500両を即金で出せる程度にはなんとかな。

 ちゃんと飯を食わせ休ませてやったほうが良くなるもんだ」


「そうか、俺もいままでの行いを改めるとしよう」


 ”錦屋は証文を破り捨てると

 新たに200両に書き換えた証文を用意しました”


「お前さん200両でいいのか?」


「ああ、300両はそいつたち姉妹に苦労かけた詫びで

 差っ引いておくぜ」


 ”錦屋が200両が受けとるとつしお太夫は三河の楼主に会わされました

 この後、心を入れ替えた京の錦楼は三河の楼とあわせて大変に繁盛したそうです”


「おう、つしお。

 おめえさんは今日からあんずと同じ見世に移動だ」


 ”その言葉に驚きながらつしおは喜んだ”


「ほ、ほんまですか、楼主様」


 ”錦楼の楼主がこくりと頷いた”


「ああ、本当だ。

 まあ、向こうでも仲良くやれや」


「あい、わかりんした。

 ほんまにありがたいこってす」


「お前さんがあんずの妹か。

 今日から俺の見世で働いてもらうぜ」


 ”つしお太夫は深々と頭を下げた”


「あい、よろしくお願いしんす」


 ”つしお太夫は途中で酒饅頭を買いました。

 やがて、三河の楼で姉妹は再会したのです”


「おう、あんず、いるか?」


 ”中からあんずの声が戻ってきました”


「あい」


 ”楼主はつしおを連れて部屋に入ります”


「楼主様、どうなさった、って、すもも?!」


 ”あんずは呆然としながら目を丸くしていたのです。

 そこには心配していた妹の姿があったのですから”


「姉ちゃん、姉ちゃーん」


 ”すももは涙をながしながら駆け寄ってあんずに抱きついた”


「そうか、楼主様が連れてきてくれたんだね」


 ”あんずも安心したような表情から涙を浮かべて、ぎゅっとすももを抱きかえしました”


「うん、姉ちゃんに会えてよかったよぉ」


 そして、しばらく姉妹は抱き合っていた。


「あ、姉ちゃん、おなかすいてないこれ一緒にくおう?」


 ”姉妹は仲良く饅頭を食いながら再会を祝ったのです”


「うう、いい話だったな」


「へえ、親方」


 周りでは観音様はありがたいねえ、浅草寺にお参りにいかないとねと、女性たちが手を合わせて出ていく、実際に浅草寺へお参りに行くのだろう。


 一旦幕が下りて、女客は大部分が出ていき、代わりに男客が入ってくる。

 続いては脱衣劇が始まった。


 ”トンテンシャン”


 三味線の音とともに舞台の上に先程の姉妹が姉は女姿、妹は男姿で赤い傘を回しながらゆっくりと入ってきた。


 ”おおー”


 時折傘から、はみ出る生脚が艶かしく、行灯の光に照らされる。


 傘の裏にはだんだんとはだけていく、二人の着物の影が写っていた。


 姉妹の影は近づいて時折絡み合い、傘は段々と小さくたたまれていく。


 ”うおーみえたー”


 最後に姉妹は全裸で閉じた傘を担ぎ、手を取り合いながら観客席へ一礼して袖へ去っていた。


「決めた、俺はあの姉ちゃんにする」


 親方は三河屋へ走っていった。


「ちょっと親方、おいて行かないでくださいよ」


 大工の親方が鈴蘭を指名しようと走って三河屋についた時、運の良いことにまだ鈴蘭は空いていた。


 こうして権兵衛親方は鈴蘭を、太助は山茶花を指名して遊ぶこととなった。


「わっちをご指名いただきありがとうござんす。

 どうぞお上がりなんし」


「おう、上がらせてもらうぜ」


 鈴蘭に手をひかれて二階に上がる親方。


「ひ、久方ぶりだね」


「あい、お久しゅうござんす。

 どうぞ上がりなんし」


 太助もまた、山茶花に手を引かれて2階に上がっていく。


 二人は、二階の上り口にある遣り手部屋の遣り手婆に一分金を渡そうとした。


「ああ、今は私へは渡さんでいいんだよ。

 そいつらに直接払ってやりな」


「ほう、そうだったのかい?」


「そうだよ、別に私にくれてもかまわないんだけどね」


 二人は正直そこまで懐には余裕はなかったので頭を下げてそのまま通り過ぎた。


 さて親方は鈴蘭の部屋に通されて、鈴蘭の手引で上座の床に座った。


「お客はん、酒と茶どっちがよろしゅうござんすえ?」


 親方は少しだけ考えた。


「じゃあ、茶を貰おうか」


「はい、ではしばしまちなんし」


 鈴蘭は茶道具で優雅にお茶を点てる。


「そういえばお前さんさっきの歌劇だが」


「はい」


「ありゃ、お前さん達の話なのかい?」


「全部じゃありませんが、大体は」


 それを聞いてブワッと泣く親方。


「そうか、おめえさんも苦労したんだな。

 よし、なんかうまいもんでも取ろう。

 何が食いたい?」


 それを聞いて困ったように笑みを浮かべる鈴蘭。


「ありがたいことですが、余り食べると太ってしまいんす」


「なになに、女はちょっと太っててケツがでかいほうがいいんだぜ。

 遠慮すんな」


 鈴蘭は苦笑したがせっかくの心遣いと受けることにした。


「では、旦那の懐が痛まない程度に何か頼んでくんなまし」


「じゃあどぜう鍋でもたべようや」


 親方は外に控えている若い衆に頼んでどぜう鍋をたのんだ。


 まだ、夜は肌寒く、泥鰌をネギやゴボウとともに割下で煮たどぜう鍋は臓腑があたたまるものだった。


「ほんにありがたいこってす」


 二人はにこやかに仲良くどぜう鍋をつついた。


 ・・・


 太助が山茶花の私室に入るのは2回目だがやはり恐る恐る太助は部屋に入る。

 太助はガチガチに緊張しながら、そろそろと歩く。


「あいかわらず、きれいな部屋だね、お邪魔しますよっと」


 そこは山茶花も慣れたものである、そっと手を引いて座敷の上座に彼を誘導する。


「あい、太助はん、まずは茶と酒。

 どっちが良ござんす?」


「じゃあ今日は酒で」


 山茶花が外に酒を頼むとイカの塩辛とともに酒が運ばれてきた。


「では早速一杯、あがりなんし」


 山茶花が猪口に酒をつぐと太助はそれをキュッとのみ。

 塩辛に箸をつけると其れも口に運んだ。


「うーん、うまいねぇ。

 酒ってのもいいもんだ」


「へえ、適度に飲むなら酒もいいもんですな」


 ・・・


「旦那もお疲れのご様子。

 どうぞわっちの膝にてお休みなさんし」


 鈴蘭は自分の太ももに手をおいてニコニコと権兵衛親方を呼び寄せる。


「ああ、じゃあそうさせてもらうぜ」


 鈴蘭の膝枕は柔らかく、とても良い香りがした。


「旦那の耳垢、とらさせていただきんすな」


「ああ、頼むぜ」


 鈴蘭は簪を一本引き抜くと、権兵衛親方の耳掃除を始めた。


 そして、反対の耳を掃除してから穏やかに事を進めていくのであった。


 ・・・


 さて、若い太助は布団の中でハッスルしていた。


「んふふ、相変わらず元気でようござんすな」


「へへ、おいら、山茶花ちゃんしか知らないけどうれしいな」


 山茶花はニコニコと笑って言う。


「ふふ、わっちにおまかせでありんすよ」


 そして事が済めば、仲良く手を繋いでゆっくりと寝たのだ。


 ・・・


 そして夜の明けた、翌朝、顔を洗い、歯を磨き、服を着せてもらい、大工の親方と太助は見世を後にした。


 親方も太助も大門まで付き添いで見送られながら帰っていく。


「今後ともご贔屓に」


 鈴蘭が親方に言う。


「ああ、また来月にでも来るな」


 山茶花がニコと笑いながら、言う。


「どうかわっちの床にまた来てくんさいな」


 太助もニコと笑い返して言う。


「あ、ああ、奉公金が出たらまた来るよ」


「ぜひおまちしてますえ」


 そして大門をくぐって大工師弟は吉原を出て行く。


「親方、昨日はどうでした」


 権兵衛親方は満面の笑顔で答えた。


「ああ、もう最高だな。

 優しくてつい故郷のお母さんを思い出しちまったぜ。

 遊女は値段じゃねえってよくわかったぜ」


 其れを聞いて太助も笑顔で言った。


「へえ、そのとおりですな」


 こうして江戸の一日がまた始まるのだった。

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