美人楼に置くものを増やそうか

 さて、せっかく門外にも美人楼を置くのだが、吉原の中の店には中にしか無い価値をもたせたい。

まあ、予約を入れれば格子レベルの現役遊女に髪洗いやマッサージの施術や入浴の背中流しなどをしてもらえるというメリットは有るんだが、小間物などの売り物でもなんか目玉がほしいよな。


 江戸時代には、21世紀現代ではポピュラーなアクセサリーである、ピアスやイヤリング、ネックレスやチョーカー、ブレスレットやアンクレット、指輪といったような、直接身に着ける装身具は殆ど無い。


 日本では縄文時代には耳飾りや首飾り、腕輪や足輪、腰飾りなどの装飾品は女性が一般的に身に着けていたが弥生時代になると裕福な者のみが身につけるようになり、古墳時代までは権力者層の女性は菅玉、勾玉の首輪や腕輪などを身につけたが、飛鳥時代から奈良時代以降はほとんどなくなくなってしまった。


 この変化は仏教の伝来による、災いよけなど呪(まじない)の変化や衣装の変化、要は素肌を見せない服装になっていき、髪の毛も冠をかぶったり、まとめて結い上げることをしなくなったのが大きいかと思う。


 武士に権力が移ってもそれは変わらず、戦場で対峙した相手を威圧したり、敵を討ち取った際に存在をアピールすることを目的として兜鎧はものすごく派手になっていくが、平素では装身具は身に着けられなかった。


 しかし、江戸時代になると女性は髪を結い上げるようになり、髪を美しく飾り立てる、飾櫛(かざりくし)・簪(かんざし)・笄(こうがい)などの髪の毛の装飾品が非常に発達した。

しかしそれ以外の装飾品の指輪やネックレスなどはキリスト教が入ってくるとわずかにキリシタンには広まったが、秀吉や家康のキリスト教の宣教師の追放とともに廃れてしまい、結局一部の蘭学を修める者以外には顧りみられなかった。

まあ、十字架のネックレスなんかを持っていたらキリシタンとして捕まりそうなのはわかるけどな。

男性では薬を入れる印籠などが装飾品代わりだったようだ。


「しかし、簪なんかをつけるようになったんだから衣装飾りや帯飾りなんかは需要ありそうだけどな」


 いわゆるブローチだな。

それとも布に針で刺すと布地が痛むと思われるかね?

飾りのほうは七宝焼の花柄などでもいいし、日本では装飾品として扱われていない真珠・珊瑚・翡翠・瑪瑙・琥珀と言った宝石類や象牙・鼈甲(べっこう)・螺鈿(らでん)(貝殻の内側の虹色の光沢を持った真珠層の部分を切り出した板状の素材)・水晶などでもいい。

このあたりは簪職人と相談してみるか。

俺は早速美人楼の小間物屋を通して簪職人に話をしてみた。


「お前さんの腕を見込んで一つ試してもらいてえ物があるんだが。

 襟巻や帯をとめるために使う飾り針を作ってもらいてえ」


 簪職人は首を傾げた。


「飾り針?」


「ああ、そうだ。

 針に装飾を施した飾りをつけてもらいてえ。

 それを使って衣服の胸元などを飾ったり、帯を留めたりできるようにな」


 一応職人は合点がいったようだ。


「ふーむ、できないことはねえが今まで作ったことがない分高えぞ」


「まあ、そのあたりはわかってる。

 とりあえずはこれを使ってくれ細工に使う分が半分、後は手代だ」


 と金のインゴットを渡す。


「お、おう、じゃあやってみるぜ」


「よろしく頼むな」


 さて、これが完成したら藤乃に胸元なんかにつけさせて、太夫行列でお披露目するかね。

藤乃が身に着けていて美しさを引き立たせるということがわかれば、金持ちには売れるんじゃなかろうかな。


 そういえば水戸の若様なんかは羅紗つまりは毛織物のメリアス編みの足袋、要するに毛糸のメッシュ足袋なんかを履いていたな。

羊は奈良時代以降は日本に度々輸入されたが、その体毛の性質上、暑さや湿気に弱く、広い放牧地が必要なので日本にはなかなか定着しないでいる。

しかし、会津などの東北や信州などのように冷涼な所であれば、飼育も成功するんじゃなかろうか。

まあ一番いいのは蝦夷地つまりは北海道なんだろうけどな。

北海道が羊肉料理であるジンギスカンが有名なのは、寒くて広い土地が在るからだ。

閑話休題(それはともかく)、寒くなったら毛糸の手袋やショールなどの防寒着や毛糸の腹巻や股引などの下着があれば遊女も暖かいだろう。

毛織物は今は輸入しか無いのでバカ高いがこれも安く手に入るようになると良いのだが。


「会津の名君・保科正之なら羊の毛糸で防寒用の肌着などの衣服が作れることを理解してもらえるか?

 輸入するなら対馬経由で半島から手に入れるか。

 まあ、唐からでもいいんだが」


 ついでに真珠などの宝石で飾った飾り針ことブローチが、貿易に役に立つといいんだがな。

多分浮世絵なんかも高く売れると思うんだが。


「砂糖の日本国内での生産精糖も早く進めたいところだな」


 オランダや中国からの輸入だのみの砂糖はまだまだ高い。

しかし、国内で生産、精糖できるようになれば値段も安くなるだろう。

そうすれば貴重な金銀銅を国外に流出させなくても良くなる。


「とは言え本州でサトウキビ、後はウコンがうまく育ちそうな場所は紀伊くらいかね、あそこは蜜柑などの柑橘類もよく育つし黒潮のおかげでかなり温かいからな。

 蜂蜜も作ってもらうつもりだし、案外条件のいい場所かも、まあ米は取れづらいがな」


 先ずは御三家や徳川の親藩や譜代大名などに色々広めてもらえば、他の諸大名なんかもやりやすいんじゃないかな。

大名様の懐が寒くなるとこっちもきつくなるからな。

この時代は天災が多いから不作の年が在るのはしょうがないが、飢饉にはならないでほしいものだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る