遊女の見習いの禿が習うのはまず読み書き九九算盤から
さて、現代であれば小学校及び中学校は義務教育なので、日本人で読み書きや算数などができない人間はほとんどいない……はずだ。
だが江戸時代では読み書きや計算ができる人間のほうが少ない。
女であれば文字をかけるもののほうが僅かだ。
売られてくる中でもそれができるのは商人の娘くらいだな。
それで今、俺は桃香に文字の読み書きを教えてるところだ。
「よし、一通り読んでみろ」
「い・ろ・は・に・ほ・へ・と ち・り・ぬ・る・を。
わ・か・よ・た・れ・そ つ・ね・な・ら・む。
う・ゐ・の・お・く・や・ま け・ふ・こ・え・て。
あ・さ・き・ゆ・め・み・し ゑ・ひ・も・せ・す・ん」
「うむ、いろは文字については完璧に読めるようになったな」
得意気に桃香が答える。
「あい、わっちでももう読めるようになったでやすよ」
「うむ、では漢字交じりでも読み書きできるように頑張るんだぞ」
「あい、わかりんした」
桃香が今度は先程のいろは歌を漢字を交えて紙に筆でかいていく。
ちなみにこうやって使ってる紙や筆、硯などの代金は全部借金となる。
”色は匂へど 散りぬるを
我が世誰そ 常ならむ
有為の奥山 今日越えて
浅き夢見じ 酔ひもせず”
「おお、ちゃんとかけてるな。
偉いぞ桃香」
「それほどでもありんせん」
そう言いつつも照れて居る桃香。
うむ、なかなか飲み込みが早くて助かる。
勉強と言うのは本人のやる気もあるがセンスも必要だからな。
この時代の職業の割合だが
武士、僧侶、公家など=7%
農家、漁師、猟師、木こり、鉱夫など=80%
職人、大工など=7%
商人=6%
といったところだ。
こういったもの職業全てをひっくるめて、基本的な読み書き算数と簡単な地理歴史を知っているのは男子の40%、女子の10%程度。
それ以外は読み書き算数などはできなかった。
江戸の街に限定すれば男女ともに80%程度はそういったことはできるとされてるようだが現状は怪しい。
なにせ江戸は徳川家康が幕府を開くまでは何もないど田舎だったんだ。
鎌倉なんかは幕府や鎌倉府が有ったせいで開けていたし、小田原も後北条氏の城下町として栄えていたんだが。
で、中級以上の武家、僧侶、公家などは職業的な必要性からほとんど読み書きはできたし、商人は帳簿をつけるために読み書きに加えて計算もできなければならず、土木・建築にかかわる大工や職人は長さの書いてある図面を描いたり読めたりもしないといけないわけだから、当然そういった職業では勉強の必要がある。
しかし、農民などは読み書きは仕事上特に必要なわけでもないので、年貢を取りまとめたりする庄屋など以外は自分の名前と村の名前がかければいいほうだ。
そして男と違い女は読み書きなどができる人間が少ない。
職業的に必要とされて居ることは少なく、基本は育児や家事に専念するためだな。
なので、江戸以外のちょっと大きな街に住む商人は妻にするために遊女を身請けして算術や愛想のある妻にすることも多い。
遊女は読み書き計算ができ笑顔を振りまいたり、感じの良い手紙を書いたりするのはお手の物だからな。
それに見た目もきれいな場合が多い、遊女の引退後は地方の大きな商人にもらっていかれるというのは割と理想的な環境だ。
だから、こういったことに関した勉強は全員きっちりやる。
5歳とか7歳とかの幼いころから引き取るのは遊女の教養としては読み書き、算術、地理歴史は基礎の基礎だからだ、年を取ってしまうとそういった勉強や芸事を覚える時間がないからな。
読み書きが終わったら次は算術だ。
この頃の数学は和算と呼ばれる。
桃香はぱちぱちとそろばんを弾きながら九九を数えている
「一の段は
いんいちが いち、
いんにが に、
いんさんが さん、
いんしが し、
いんごが ご、
いんろくが ろく、
いんしちが しち、
いんはちが はち、
いんくがく
二の段は
にいちがに、
ににんがし、
にさんがろく、
にしがはち、
にごじゅう、
にろくじゅうに、
にしちじゅうし、
にはちじゅうろく、
にくじゅうはち……」
無事に九の段まで数え終えた桃香は一息ついた。
「できんした」
そう言ってニパッと笑う桃香。
「おう、ちゃんと数えられてたな」
あっという間に初歩の読み書きや算術ができるようになるんだから大したもんだ。
やはり俺の目は間違ってなかったようだ。
ま、勉強だけでも覚えないといけないことはたくさんあるんだがな。
陸奥とか出羽とかと言った国名と諸藩の名前とか大まかな日本の歴史とか。
当然漢字もだし和歌や漢詩を覚えたりもしないといけない。
様々な楽器も弾けるようにならないといけない。
ま、少しずつステップアップさせていくしか無いがな。
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