劇場を建てよう、まずは脱衣(ストリップ)劇場から
さて、遊郭の経営の一環としての売上を上げるための補助施設として俺が考えたのは劇場だ。
もう一つは風呂なんだがこっちは許可を得るのは難しいかもな。
この時代には歌舞伎や能楽などの公演のための劇場はすでにある。
そういったものを参考にしつつ現代に有った施設を作ってみようと思う。
とは言え金を握ってるのは母さんだ、まずは相談だな。
「母さん、こんな感じで劇場を作ったら、遊女たちがもっと稼げるようになると思うんだけどうだろう?」
母さんは首をひねった。
「しかしそうすると土地の権利を買わないといけないねぇ」
俺は言葉を続ける。
「そのくらいの金はあると思うのだけどどうかな?」
母さんはしばし悩んでいた……。
「まあ、いいでしょう、やってみなさい。
その代わりちゃんともとは取れるようにしなさい」
「ええ、わかっていますよ、成算はあるんです」
俺は筆で大雑把な劇場の形をかいて、大工などと話し合った。
「客用の出入り口と遊女用の楽屋口は表裏別で、客用出入り口でまずは入場料を取ると。
で、本舞台中央から伸びる花道とその端と真中に円形の小舞台ですか?」
「ああ、それが大事なんだよ」
「わかりやしたやってみやしょう」
新吉原への移転が去年だったせいも有って、まだ土地は空いている。
その空いている土地を買って劇場を建設する。
演目は出雲阿国が江戸でやった女勧進歌舞伎でもいいんだが、やっぱり禁止されたものをいきなりやると幕府に楯突いたと思われても困る。
なので、もうちょっと違うものをやる。
具体的にはストリップ劇場だ。
ストリップは、舞台上で女性の踊り子が、音楽に合わせ踊りながら少しずつ服を脱いでいくもので、日本神話の世界ではアマテラスが天の岩戸に引きこもった時にアメノウズメが天岩戸の前で衣装を脱ぎながらの踊りが、日本のストリップの元祖という話だったりする。
ただし、性風俗としてストリップのようなものの伝統はないがな。
料金は最前列なら200文(おおよそ4000円)、其れより後ろなら100文(おおよそ2000円)程度で入場料はいいかね。
踊り子へのタッチや劇場内での自慰行為は禁止としておこう。
興奮したらその後に遊女を買ってくれればいいんだからな。
またストリップには踊りはあるが、歌舞伎のような台詞や役はない。
踊り子がは曲に合わせて踊りながら服を徐々に脱いでいくだけでいいので、それほど難しくもないだろう。
「最終的には天岩戸前のアマノウズメの踊りの劇とかも面白そうだけどな」
この時代だから踊りは日本舞踊、楽器は三味線や鼓、琴などで激しい踊りは合わないけど、まあ日本的でいいんじゃないだろうか。
劇場で踊るのは俺が選んだ。個人で部屋を持つことがまだできていない客を取る遊女になったばかりの新造の
「え、わっちでありんすか?」
「ああ、お前は外見は決して悪くないし踊りもこなせるな」
「さいですな」
「なら一度やってみないか?」
「うーん、わかりんした戒斗様、わっちにおまかせでやんすよ」
「頼むぞ」
俺は自分で楓に踊りを指導する。
本来の日舞ではなく脱衣日舞だ、なんせこの時代にはストリップの仕方を知ってるやつはいないしな。
まあ俺もストリップを見たことはあるが、しかし、はたらいたことはないので詳しいことは分からないけど、まあなんとかなるだろう。
「踊りに気を取られすぎるな、恥じらいつつも笑顔を」
「もっと脱ぐときは客を焦らすように」
「あい、わかりんした」
やがて劇場が完成した時、楓の踊りも完成した……とおもう。
今日は初めての公演日だ。
「よし、いくぞ」
「あい、頑張るでやんすよ」
劇場の開演は16時から昼見世が終わり夜見世が始まる迄の間だ。
「噂になってたみたいで、結構人が入ってるぞ」
「これは、うれしいでありんすな」
客席数は50席だがほぼ満席だ。
男たちが筵の上に思い思いに座っている。
江戸は男が多すぎて女旱りが多い。
若くて可愛い女の裸を見られるというだけでも珍しいのだろう。
”トンテンシャン”
三味線の音とともに舞台の上に楓がゆるゆると入ってくる。
”おおー”
観客もヒートアップしているな、手拍子をたたいて一体感を醸し出している。
中にはおひねりを飛ばしてるやつもいる。
”危ないので踊り子さんへおひねりを投げつけないでください。
舞台へ投げてください”
踊りには多少歌舞伎をイメージしたような演技をくわえ腰をくねらし、艶かしく踊りながら、楓はまず帯を解いて、上の振り袖を解き、襦袢を脱いで、裾よけを解く、そして足袋も脱げば全裸だ。
”おおおー!”
この時代にポラ撮影ができるポラロイドカメラがないのは残念だ。
円形の小舞台の所で四つん這いになって見せたりなどの扇情的なポーズを幾つかした後、スルスルと脱いだ着物を手にとって楓は舞台の袖へ戻っていった。
おひねりが入った紙もちゃっかり拾ってな。
そして、楓の裸踊りに興奮した連中は夜見世が始まる遊郭にどっと向かっていく。
楓が俺と一緒に楼に戻ったときには、楓に指名が入っていた。
おひねりもそれぞれは小銭だがまとまればそれなりに良い金額になったらしい。
楓が笑顔で言った。
「戒斗様、まっこと、ありがとう、ござんす」
「おう、良かったな」
その後楓がお捻りをもらったり指名をうけたりしたのを見た他の新造連中も一生懸命脱衣舞踊の練習をするようになった。
「まずは成功だな」
将来的にはもっと色々やってみたいところではあるが、とりあえず建築費なんかの回収はできそうだ。
それにこれなら気の利いた会話を個人で行って客をつなぎとめるとかが難しい遊女でも大丈夫だろう、性行為などもないからいろいろな危険も減るしな。
ついでに俺は客が待つ間にかるく腹ごしらえを出来るように、劇場のそばにちょっとした居酒屋のような蕎麦屋を造るようにもしたのだ。
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