労働待遇の改善を図りたいもんだよな、男も含めてだが

「それにしてもひどい、基本休み無しってのは」


 吉原の遊郭に見世の休みは1年に2回しか無い、月にではなく年に2回な。


 それは正月の1月1日と盆の7月15日。


 それ以外はずっと営業している、多少天気が悪かろうとなんだろうとな。


 まあ流石に台風が直撃してる時や嵐がやばいときとかは例外だが。


 生理中も見世側が許す休みは基本二日程度であり、それ以上休みたければ馴染みの客に来てもらい、行為をしないでもカネを落としてもらうとか、自分で自分の働き分を支払うとかしなければならない。


 借金が増えることを恐れて二日の休みも取らないで働く妓は多く、そのぶん体を壊すことになった。


 まあ、コンビニや牛丼屋、ファミレスのように年中無休の24時間営業よりはマシだが、問題は遊郭にはコンビニや牛丼屋、ファミレスのようにスタッフがシフト交代で働くので交代で休みが取れるという概念はないことだ。


 すなわち毎日がお仕事で遊女の年間休日はたった2日しかない、俺も含めた男もだけどな。


 現代だったら超絶ブラック企業認定確定だな、うん。


「その点で武士や普通の商人はいいな」


 ちなみに江戸時代の武士や役人は五十日(ごとうび)の5.10.15.20.25.月末が休み。


 商店はその日が決算日で翌日が休み。


 職人や農民に決まった休みはないが大雨が降ったら休みなどだな。


 一番ひどいのは金山や銀山の鉱夫で基本遊女と同じで正月と盆以外では休み無し。


 まあ武士や商人でも週休二日祝日休みの現代に比べれば休みは少いかもしれないが、おおよそ5日に1日休みがあるだけ十分だろ。


 そして遊女は朝6時頃に一緒に寝たお客と別れて送り出しそこから眠り、朝10時には起きて風呂と朝食、正午の12時から夕方16時までが昼の営業。


 18時以降は夜の営業。


 夜になって客が寝る時間は客の気分次第で、いろいろな理由により客が起きたら遊女も起きないといけないのでちゃんとは眠れずまた翌朝6時頃に起きてを繰り返しだ。


 なので遊女は万年睡眠不足だし、それだけ外見の老化も早かった。


 それを隠すためにおしろいを塗りたくるので余計に悪くなるの負のスパイラルだな。


 27歳で年季上りとなるのもそれ以上の年齢だともう客がつかないからだったりする。


「ある意味これはもったいないよな」


 金をかけて遊女を教育して10年で使い捨てはもったいないと思うのは俺だけか?


 現代なら30代はむしろソープなんかでは人気が出てくる年齢なんだが。


 まあ、制服を着せた女の子とのプレイを楽しむイメクラなんかは若いほうが人気があるが。


 ちなみに現代の風俗は基本それだけで稼いでいるか、昼食就職?をしていて小遣い稼ぎの副業でバイトしているかなどでも違うし個人的な状況もあるので何とも言えないが、風俗だけではたらいていても週4から5日、副業なら日曜日だけの月数回なんてこともある。


 そして生理が来たら5日から1週間ぐらいは休みが多い。


 生理痛や出血量は個人差が大きいので、ちょっとだけ休んですぐ出勤できる子もいれば10日くらい無理な子もいるが。


 時間も3時間ぐらいから朝10時から翌朝4時まで寝ながら待機して稼ごうとする女の子まで様々。


 だからといってすごく稼げるかというと結構微妙で、風俗で一日3万くらい月30万稼げれば最近はいい方で下手すればお客がつかない”お茶挽き”になってしまう。


 風俗で一日働けば10万円、月に200万も稼げるなんてのはリーマンショック以前の随分と昔の話で、今じゃ売れっ子でも一日6万から8万行けば本当にいい方だな。


 そのあたりは店と女の子自体の人気とかルックスとかが関係してくるので一概には言えないけどな。


 ちなみに風俗では店に来るまでの電車やバスの運賃などの交通費などは出ないので、下手すると交通費の分だけ赤字ということもある。


 男の場合は交通費は出るが休みは週一日、拘束時間は一日12時間くらいってことも珍しくない。

 基本は昼の早番と夜の遅番で交代して働くんだが、人数が少なくなると誰かの休みの日には早番から遅番までずっと働き通しになったり休みがなくなったりする。


 それでいて下っ端は給料は25万くらいだったりするから、下手するとコンビニバイトより時給は低かったりな。


 結構笑えない。


 この時代の吉原の遊女も同じで、客がつかないと一日あたりの部屋代やら布団代やら鏡台使用料やらはすべて借金として増えていく。


 現代風俗でもお客さんがつかない状態の女の子を”お茶挽き”というがこれは、暇な遊女が客に出す抹茶を石臼で挽くも客がつかずにお茶をひいただけで終わってしまうということから来た言葉。


 あんまりにも客がつかない場合は、遊ぶのに金がかからない中見世などに売られて借金が増えたうえに安い金で働らかないといけない場合もある。


 それから遊女の手に入る金は店が客からもらった金の1割が遊女の取り分、残りは店の取り分。


 太夫と遊ぶのに10両(約100万)かかるとしたら手に入るのは1両(約10万)ってわけだ。

 これの店の取り分には遊女の借金返済分も含まれてるけどな。


 店はそんなに遊女からふんだくってどうするのかというと、行灯の油代、飯炊きの薪代、内湯の薪代、遊女以外に働いている飯炊き女、針子、男衆などの給料、建物の修繕費用、三味線やら和歌やらなどの教養の師匠の手配金、幕府への上納金などだ。


 だから思われてるほど稼げるわけでもないんだよ。


 女を食いもんにしてる忘八と蔑まれるには割に合わない気がするんだが。


 お公家なんか国民を食いもんにしてるんじゃないかね。


 現代の風俗ではだいたい店と女の子の取り分は半分ずつがおおい。


 60分で2万円なら女の子の取り分は1万円。


 割引をしても女の子の給料は下がらないのが普通なので、客が割引を求めると店がその分損をする。


 女の子じゃなくて店が損するならいいじゃんと思うかもしれないが、店の経費が減ると写真に金をかけることができなくなったり、男子従業員の質の低下が女子の質の低下に繋がったりするし、セコく値切らないほうがいいと思うぜ。


 ソープの場合受付で払う入浴料金が店の取り分で、女の子に直接払うサービス料金が女の子の取り分、昔は入浴料の3倍がサービス料だったりしたが今はそこまで高くできないので入浴料の2倍とか同額という場合もあるみたいだな、詳しくは知らんけど。


 まったくどこも世知辛くなってるな。


 それはともかく俺は店の遊女を集めていった。


「明日から基本的に昼見世はやめる。

 どうせ昼は客もほとんどこないし大して儲からんしな。

 その分ゆっくり寝てくれ。

 早く起きて習い事や手紙を送りたいものはそれも構わん。

 ただし、武家の大名様とかから予約が入ったときは、昼にはたらいてもらう、その分夜は休みでも構わんぞ」


 昼の12時から16時までにわざわざ吉原まで来るやつは基本外泊禁止の武士以外はたいしていない。


 さらに吉原に来るやつのうち遊女を見て回るだけの、冷やかしが1000人、客になるのが10分の1の100人、馴染みになってくれる客が10人、けれども、遊女を身請けしてくれるのは1人だけという世界だ。


 江戸の人口のうち2/3は男で女は3人に1人しかいないんだが、遊べるほど金に余裕があるのは10人に1人ってところなわけだな。


 そして昼の時間帯はその時間にはたらいていないような連中で、冷やかしばかりだから、無理して店を開けるほどじゃない。


 とは言え武家には基本夕方の6時までには帰らないといけないという門限があるので昼見世に全く意味が無いわけでもないんだが。


「そういうわけで皆は昼過ぎまでゆっくり寝てくれ」


 遊女の1人が首を傾げながら聞いた。


「わっちらにはほんにありがたいことでありんすが、楼主様は其れでよろしいのでありんすか?」


「ああ、睡眠時間は重要だからな」


「誠にありがたきこってす」


 せめて昼過ぎに起きるようにすれば睡眠時間も多分十分だろ。


 一日に熟睡できる時間が4時間は辛いからな。


 睡眠時間が短いと体も心もともに病む可能性が高い。


 せっかく金をかけて遊女を育てたのに睡眠が十分でなくて自殺されたりするのは損でもあるんだが、まあ、こういうのはなかなかわからんよな。


 其れが普通になってると。


 休日も月一ぐらいで定めたいのだが流石にそれは許してもらえそうな気がしないな。


 誰にかって、母親にだよ。


 楼主の妻は遊女上がりか裕福な商人の娘がなることが多いんだが、母は遊女上がりで自分がやってきたことなんだからとなかなかわかってくれない。


 こまったもんだなぁ。

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