第35話 店主、勇者宅へ。
街の郊外に佇む、塀に囲まれた一軒の大きく立派な屋敷。
ここは勇者さん達が住んでいる屋敷だ。勇者に選ばれた際に王様から頂戴したものらしい。
護衛の依頼でしばらく街を離れていた勇者さんが、隣街で面白いものを見つけたのでぜひ僕の家に来てくれ、ということで今日は遊びに来た。
友達の家に遊びに来るというのも久々だから、妙に緊張するな……。
「ごめんくださーい! 勇者さんに呼ばれて来たんですがー!!」
…………………………………
門扉の前から中の住人に向けて大声で用件を伝えるが、一切の物音がしない。
誰もいないのかな。勇者さんに時間を教えてもらってきたんだけどな。
…………ドカーーンッ!!
「……っ、何だ?」
もう一回屋敷に呼びかけてみようと考えたとき、屋敷の裏手から大きな爆発音がした。爆煙が屋敷の上まで上がり、何やら二人の男性の声が小聞こえてくる。
ヴァン爺! もう店主が来る時間だから、修行は終わりにしよ……っうわ!!
ふぉっふぉっふぉ、そんなことを言ってまた逃げる気じゃろ? 前もギルドに依頼を探してくると言って、遊具屋をうろついておったのは誰じゃったかのぉ
……た、確かにそんなこともぉっ、あ、あったけど、今日は本当に……っ、うぉ、……来るんだってばっ!! もう店主も来ているかもしれないしぃっ、……っ、あんまり待たせるのも悪いでしょっ!!
ではもう少しファイアーボールを増やして、早めに今日の修行を終わらせることにしようかのぉ
……っ、い、いやこれ以上増やされたら本当に避けれなくなるよっ!! ……そ、その数は無理だってーーーーっ!!
ほれほれほれー、まだまだ行くぞい
……っ、こ、この鬼爺ーーーーーっ!!
ドーン!ドーン!ドカーーン!!
……どうやら勇者さんはお取り込み中のようだ。
ヴァンさんに、事前に俺が来ることを伝えてくれていなかったんだろうか。
いつ勇者さんの修行が終わるかも分からないし、今日は大人しく帰ろうかな。
「店主様、もう来ていらしたのですね」
「あぁ、シスターさん。こんにちは」
後ろから、シスターさんに声を掛けられた。彼女は俺がいることに疑問を持っていないようなので、勇者さんから予め伝えられていたんだろう。
シスターさんも屋敷にいるものと思っていたが、買い物袋を両手に持っているのを見ると、どうやら買い物帰りのようだ。何とか中には入れてもらえそうで助かった。
「門の前でどうされたのですか?」
「実は屋敷に入れず、どうしようかと考えていたところだったんです」
「えっ、勇者様とヴァン様が中にいるはずですが……」
「勇者さんが修行中のようで、まだ時間がかかりそうだったので」
「……申し訳ありません。お二人には、後できつく言っておきますので……。それでは中へどうぞ」
シスターさんが買い物袋を持った肩を少し落としながら、門扉の鍵を開けて屋敷の敷地へと迎え入れてくれた。
あまりシスターさんに心労をかけてはいけないぞ、勇者さん、ヴァンさん。
「……荷物持ちましょうか?」
「……すみません、ありがとうございます」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ふぉっふぉっふぉ、ほれほれまだまだじゃ…………ぁ」
「……くっ、もう限界…………ぁ」
「お二人共、もうお客様が来ているんですよ?」
「「…………すみませんでした……」」
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