第36話 店主、勇者宅へ。。
「よく来てくれてたな、店主!!」
「ふぉっふぉっ、よう来たの」
「どうも、お邪魔してます」
シスターさんから屋敷の一室に通された後、しばらく待っていると勇者さんとヴァンさんがやってきた。勇者さんは普段着ている鎧を脱いで私服姿だしヴァンさんもローブを羽織っていないので、今の二人の姿は少し新鮮だ。
……だけど二人共、額が赤くなっているぞ。シスターさんに杖で小突かれでもしたんだろうか。
「お茶とお菓子をお持ちしましたので、よかったら食べてください」
「ありがとうございます。……このクッキーは、シスターさんの手作りですか? いろいろな形のものがありますけど」
「はい、……お口に合うかわかりませんが、よろしかったらどうぞ」
シスターさんが小食を持ってきてくれたが、クッキーの形が星だったり、ハートだったり、真ん中に穴が開いていたりとバリエーションが豊富だ。
早速一口食べてみようか。
「……おぉ、すごく美味しいです! ウチの店に置いてあるものよりもよっぽど味もしっかりしていて、サクッとした感触もほど良く感じられますね。」
「……ありがとうございます。まだありますので一杯食べてくださいね」
流石はあずさちゃんが目標とする女性だ。全く弱点らしい弱点が見つからない。
あずさちゃんは彼女に近づくことができるんだろうか……。
「そうだろう、そうだろう。シスターの作るお菓子は街で一番上手いからね!!」
「ふぉっふぉっふぉ、そうじゃの。シスの料理にハズレはないからのぉ」
「勇者様達は少し遠慮してくださいね」
「「……………………………」」
勇者さんとヴァンさんは、シスターさんの料理の腕前を自慢しながらお菓子に手を伸ばしていたが、彼女に釘をさされると大人しく縮こまった。
やっぱり、一つ屋根の下で暮らしていると女性が一番力をつけるんだな。
「それで、勇者さん。面白いものを見つけたって話でしたけど、何を見つけたんですか?」
「ふっふっふ、よく聞いてくれた!! 実はね…………これなんだよ!!」
「それは?」
勇者さんは部屋の端に備え付けられていた棚に向かい、棚の上に置かれていたものを取ると、こちらに見せ付けるように差し出してきた。
「カードゲームですか?」
「ああ! ちょっと変わったゲームでね。せっかくだから四人でやろうと思って店主を呼んだんだ!」
「む? 儂等もやるのか」
「まだご飯の準備をしていないのですが……」
「まぁまぁ、ヴァン爺もシスターも座って座って。人が多いほうが楽しいからね!!ルールもそんなに難しくないからさ」
「「…………まぁ、それなら……」」
勇者さんに言い包められて皆で座って輪を作り、カードゲームをすることになった。
ゲームなんかあんまりしたことないから、勝てる気がしないんだけどなぁ。
勇者さんがカードの束を掴むと、カードを配りながら俺達に説明をしてくれた。
「まず、初めは皆、手札を二枚ずつ持つんだよ。順番に手番が回って、自分の手番のときに山札からカードを一枚引いた後に、カードを一枚を使うんだ。それぞれのカードにはいろんな効果があるから、最後まで残っていた人が勝ちだよ。あと、自分の手札が無くなっても負けだからね」
「ルールだけ聞くと簡単そうですね」
「ふむ、そうじゃの。細かい駆け引きはなさそうじゃ」
「私にもできそうです」
「うんうん、でしょ! それじゃぁ、早速始めてみようか!!…………ふっふっふ、みんな甘いな……」
「何か言いました、勇者さん?」
「いやっ、何でも無いよ! じゃあまずは僕の番から始めるね!!」
勇者さんが山札からカードを一枚引いて、手札を見て考え出した。俺も自分の手札に書かれている効果を確認したが、よくわからないことが書かれていた。
ちらりとヴァンさんとシスターさんを見ると二人も困惑しているようだ。
「勇者さん、これって……」
「それじゃあ、出すよ。『アイシクル』のカード!! このカードを出すと他の人達は手番が二回休みになるんだ!! 」
「いや、勇者さん……」
いきなり反則級のカードを出されたけど、このカードゲームむちゃくちゃじゃないか?
俺の手札にも、『使ったら全プレイヤーは敗北する』だとか、『自分を表す言葉を言ってはいけない』とか、カードゲームとしてどうなんだろう。
「それじゃあ、また僕の番だね! 一枚引いて……それじゃ、カードを裏に伏せてっと。みんなでジャンケンしよう!!」
「……ジャンケンかのぉ?」
「うん! 行くよ、ジャンケン、ポン!!」
勇者さんだけグーを出し、俺とヴァンさんはパー、シスターさんはチョキを出した。
……今度はどんな効果が待っているんだろうな。勇者さんが嬉々として伏せていたカードを表にして、効果を読み上げる。
「よし、『メテオストライク』の効果でグー以外を出した人は、負けだね!! ということで、この勝負は僕の勝ちーー!!」
「「「………………………………」」」
「うん? どうしたの、みんな?」
勇者さん以外は、何ともいえない顔で勝ち誇っている勇者さんを眺めている。あまりにも理不尽すぎて、文句も何も出てこない。このカードゲームを作った人はいったい何を考えて作っていたんだろうか。
「……ユウよ、もう一度やろうではないか」
「おっ、いいよヴァン爺。それじゃあ、カードをシャッフルして……」
「いや、それは儂がやろうかのぉ」
「えっ? い、いいよ、僕がやるから……」
「ふぉふぉ、負けたものが罰として労働を負うべきじゃろう」
「…………でも……」
「何じゃ? 別に誰がシャッフルしてもいいじゃろう。それとも、自分でシャッフルせねばいけない理由でもあるのかのぉ……?」
「…………お願いします」
カードのシャッフルを自分でやりたがっていた勇者さんから、ヴァンさんがカードを受け取る。勇者さんはしぶしぶ諦めるようにカードを渡している。
さては勇者さん、自分に良いカードが来るようにイカサマをしていたな……。
ヴァンさんはもとより、シスターさんも気付いたみたいで勇者さんを胡乱げな目で見つめている。勇者さんは素知らぬ顔でそっぽを向いている。
何とか勇者さんを負かしてやりたいな。
「それでは二回戦目といこうかのぉ」
「最初はさっき勝った僕からだね! 勝った人から始めるルールだから!!」
「……そんなルールありました?」
「ふぉふぉふぉ、まぁよかろう。それではユウからじゃな」
俺は全く聞き覚えの無いルールに異議を唱えたが、ヴァンさんには何か考えがあるようで、再び勇者さんから始まってしまった。
また、変なカードをいきなり出してくるんじゃないか?
「ふっふっふ、僕から始めさせたのが運の尽きだったねっ!! またみんなでジャンケンだ!!」
勇者さんが一枚カードを伏せて、再びジャンケンをするように言い放った。
また『メテオストライク』のカードか? でもそれならグーを出さなければいいだけじゃないか。……でも、勇者さんの表情から何か不吉なものを感じる。
「いくよ、ジャンケン、ポン!!」
勇者さん以外はグーを出し、勇者さんはなんとチョキを出した。皆の手を見た勇者さんは顔を伏せて、笑っている顔を出来るだけ隠すように手で覆っている。
やっぱりさっきのとは違うカードなのか?……それにしても、腹が立つ仕草をしてるな。
「はっはっはっ、やっぱりみんなグーを出したねぇ!! 『メテオストライク』だと思ったんだろうけど残念だったね、今度は『ウィンドストライク』だ!! チョキ以外を出した人の負けだよ!! はっはっはっ、また僕の勝ちだ!!」
やはり、さっきとは違うカードだったのか。だけど、もしかしたらということを考えてグー以外を出せなかった。また勇者さんに負けてしまうとは……。
だが、決着が着いてしまったと思われたとき、賢者が起死回生の行動を起こした。
「ふぉっふぉっふぉ、では儂はこれを出そうかのぉ」
「はっはっ、は…………ヴァン爺、もう僕の勝ちは決まったよ?」
「よく儂のカードの効果を見てみぃ」
「…………なになに、『ホーリーフォックス。直前に出されたカードの効果を無効にする』だって……っ!? そ、そんな……」
「では、次はシスの番じゃな」
ヴァンさんが出してくれたカードのおかげで、まだ勝負を続けることができた。勇者さんは勝ちを確信した後だったためか、手を床に着き打ちひしがれている。
よし、しばらく勇者さんの番は回ってこないな。次に勇者さんの番になるまでに俺達のだれかが彼を倒せれば、もうそれで勝ちでいいだろう。
「は、はは、はっはっは、だけどまた僕のターンが回ってきたときに、このカードで…………っ!!」
「では、私は『キャットウォーク』のカードを出します。勇者様、手札を二枚もらえますか」
「…………へ?」
「それでは失礼します」
シスターさんが出した『キャットウォーク』のカードの効果を見ると、『任意のプレイヤーからカードを二枚奪う』と書かれている。
自分の手札を見て今度こそはと意気込んでいた勇者さんは、シスターさんが出したカードを見て唖然とした表情を浮かべたまま、シスターさんに残りの手札を全て取られた。
……ということは。
「手札を全て失ったプレイヤーは」「その時点で負け」「だったはずじゃのぉ……」
「………………う、うわあぁぁぁぁん……!!」
俺達が勇者さんに敗北した現実を告げると、勇者さんは再び床に崩れ落ちた。勇者さんを倒した後は、平和的にゲームを続け何だかんだで皆で楽しめた。
たまには、皆で遊ぶのも楽しいな。今度はあずさちゃんや大家さんともやってみよう。
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「もう一回、もう一回お願いっ!!」
「もうご飯の時間ですから、食べてからにしましょう」
「ふぉふぉふぉ、なるほどのぉ。なかなか面白いゲームじゃ」
「その余裕崩してみせるからね、ヴァン爺!!」
「受けて立とうではないか」
「ご飯いらないんですか?」
「「……食べます……」」
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