第21話 後輩ちゃんのクラスメート。
むぅ、バックスペースから商品を出そうと思ったがまったく整理できてないな。
どこに何があるのか非常にわかりづらい。先ほどバイトに来たばかりで、暇を持て余しているあずさちゃんにでも頼もうか。
「あずさちゃーん、裏の整理頼んでもいい?思ったより汚くて商品取り出すのにも不便だから」
「えー、そんなに汚かったですか?」
「最近整理してなかったからね。大まかにでもわかるようにしてもらえばいいからさ」
「しょうがないですね、わかりましたー」
そうして会計台に手をついて足のつまさきを伸ばしていたあずさちゃんが、バックの片付けに行ってくれた。
日ごろからちょっとでも運動をしようとしているらしい。
……三日坊主にならなければいいけどな。
「ポーションの補充と、お菓子のラインナップの追加……。あと、砥石をもっとわかりやすい所に置いておこうか」
あずさちゃんが裏で片づけをしてくれている間に、こっちは商品の補充と陳列の場所替えなどを行っておこう。
しばらく仕事らしいことをしていると、来客を知らせるチャイムが鳴りあずさちゃんと同じ学校の制服を着た男の子が入って来た。
「いらっしゃいませー」
「……っ、見つけました!!」
しかし彼は来店して早々、商品を補充していた俺を見るとこちらにドシドシと歩み寄ってきた。
何だ? お目当ての商品があるようにも見えない。俺に用事でもあるのか?
「どうされましたか?」
「あなたは、……あなたはっ……!!」
「はい?」
「あなたは、あずささんの何なんですか!?」
「…………先輩ですけど」
鬼気迫った表情で問い詰められたが、何だこの子。 あずさちゃんの友達か? もしかしたら、彼女のクラスメートなのか?
だとしたら、授業参観であれを見られていたかもしれないな。
……まだ微妙に恥ずかしいんだよ、俺も。
「それだけですか? ……ただの先輩後輩の間柄とは思えませんっ!!…………恋人ではないんですか……?」
「いや、違いますよ。この仕事上の先輩後輩の関係に過ぎません」
「…………本当ですか?」
「本当ですよ」
「……そうですか」
俺とあずさちゃんがただの先輩後輩と分かって安心したような表情を見せている。
やたら疑われていたが、この子はあれか。好きなのか、あずさちゃんが。
……ふむ、どうしよう?
「では、あれも結局ただの噂だったんですね。バイト先の人と同じ場所に住んでいる、というのは……」
「いや、それは本当だけど」
「…………へ?」
まぁ、同じアパートには住んでいるからな。
それよりもこの子があずさちゃんのことを好きだというなら、どの程度の思いを抱いているのか試さねばなるまい。中途半端な気持ちで彼女にちょっかいをかけるつもりなら、言わずもがなだ。
だが、質問をする前にあずさちゃんが裏から戻ってきてしまい、聞きそびれてしまった。
「せんぱーい、裏の整理終わらせましたよ!! すっごくきれいになりましたからねっ!! 何だったら今日先輩の部屋も掃除してあげましょうか? ……ついでに体も、お・ふ・ろで手伝いますよ?」
「……いや、部屋の掃除は定期的にやっててきれいだから必要ないかな。それにお風呂はゆっくり入らせてよ。それよりも今あずさちゃんの学校の子が……」
男の子の方を見ると、ボーッと放心するように俺と裏から出てきたあずさちゃんを交互に見ていた。
「…………同じ住まいで、部屋を掃除して、一緒にオフロに……?」
「あれ、何でここに居るんですか? クラスの誰にもお店の場所教えてなかったのに」
「………………っ」
「はい? 何ですか?」
「あ、あずさちゃんの、エッチすけべ変態マイペットーーーっ!!」
「……はい?」
「あぁん!? 誰が誰のペットだ、このクソガキャァーーー!!!」
男の子が言い放った言葉に俺がぶちぎれた。
あずさちゃんをテメェのペットだとでも言うつもりか、あぁん?
少し試してやろうと思ったがダメだな。しつけが必要みたいだ。
「このちょめちょめにゃんにゃん眼鏡ーーー!! 二度と来るもんかーーー!!!」
「あっ、待てこの野郎っ!!」
俺達に好き放題に言い放った後、顔を手で覆いながら逃げて行きやがった。
今度会うようなことでもあれば、ただでは済まさんっ!
全く最近の学生はあんなのが多いのか?
「……何しにきたんですかね?」
「知らないし興味も無いよ」
「先輩、怒ってくれてます……?」
「…………当たり前でしょ」
「……さっきの言葉は学校で流行っているやつですよ?」
あんな言葉が流行っているのか? どうなっているんだよ学校。
俺の中で碌でもない場所にカテゴリーされそうだぞ。
「エッチなことを言う相手にふざけて言うもので、特に言葉通りの意味もないですよ?」
「…………そ、そうなの?」
「はい、女の子どおしでも言ってたりしますし」
「…………へ、へぇー……」
「私もたまに使いますから」
「………………」
……あれ、俺やっちゃった? 結構本気で怒りそうになってたんだけど。
えっ、そんなの流行っているの?
まずい、気恥ずかしくなってきた。
「……ふふふー。そうですか、そうですかー」
「…………な、何でしょうか……」
俺が妙な恥ずかしさにあずさちゃんの方に顔を向けられずにいると、彼女が機嫌よさげにこちらに近づいてきた。
「私のためにあんなに怒ってくれるとは、ちょっとビックリしましたねー」
「…………いや、分かってたよ? おふざけなんだろうなーって……」
「『あぁん!?』でしたっけ」
「…………っ!」
「『このクソガキャァーーー!!!』ですよね」
「…………っっ!!」
「『待てこのヤロ』……」
「すみませんっ!!勘違いしてましたーーっ!!」
あずさちゃんの言葉攻めに俺の心があっさり悲鳴を上げた。
しまった、俺としたことがあんな黒歴史を創ってしまうとはっ!!
彼女がニヤニヤしているのが見なくても分かる。くそぅ、数分前に戻りたい……。
「大家さんにも、教えてあげたらおもしろそうですよね~」
「……っどうかそれだけはご勘弁をーっ!!」
大家さんに知られてしまったら、きっと生暖かい目でしばらく見られるに違いないっ!
……朝ごはんをしばらく食べられなくなりそうだ。
「ふふふ、冗談ですよ」
「ありがとうございます……」
「……嬉しかったですよ、あんなに怒ってくれて。普段、滅多に見れるものじゃなかったからですねー」
「…………できれば忘れてもらえたら嬉しいなー、って」
「ダメです、私の脳内に永久保存させてもらいますっ!!」
「………………」
とても良い笑顔で言い放たれてしまった。
あぁ、早く忘れたい……。
「…………本当に嬉しかったんですよ?」
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「あの子同じクラスメートなの?」
「私にラブレター渡してきた男子ですよ? 私の後を付いてきたんですかね」
「……やっぱり許さん」
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