第20話 ペットは甘え上手。


「コツネ、こっちにおいでー」


「コツネちゃん、お姉さんのところに来てくれたらいっぱいナデナデしてあげますよ~!」


現在俺とあずさちゃんは座布団に座りながら、コツネにおいでおいでと手招きをしている。あずさちゃんとどっちがコツネになつかれているのか勝負をしているところだ。


「クゥン……?」


「さぁ、お兄さんのところに来たら朝ごはんを分けてあげようじゃないか」


「えっ、本当ですか!?……クゥンクゥンクゥーン!!」


「何であずさちゃんが来ちゃってるの……」


あずさちゃんが四足になりコツネの鳴き声を真似しながら俺の元まで来た。俺の膝にお手をして、上目遣いで小首をかしげながら、ちょうだい?とでも言うように擦り寄ってくる後輩ちゃん。


……ぐっ、我慢だ。頭を撫でたいなど思っていないからな!


「私、今日はとてもお腹が空いているクゥーン。お兄ちゃんのお情けが欲しいクゥン?」


「お腹が空いているのはいつもでしょ。……それと、大家さんに疑惑の目を向けられそうなことは言わないの」


そんなバカなやりとりをしていると仲間はずれにされたと思ったのか、コツネが俺の顔に目掛けて飛び掛ってきた。


「クゥンクゥゥーン!!」


「うわっ、コツネ! おいでとは言ったけど、爪が髪にかかって痛いから! 眼鏡ズレ落ちちゃうから! ちょっ、待って、コツネっ!!」


「あっ、コツネちゃんずるいクゥン! 私も突撃するクゥーン!!」


「ちょっと、ダメだってっ!!」


コツネが離れてくれなくて四苦八苦していると、食いしん坊キツネも胸に飛び込んできた。


胸に頭を擦り付けるようにグリグリしてくるからこそばくてしょうがない。そして、コツネも顔にも必死に離れまいとしがみついてくる。


この子達、対処しきれないんだけどっ!!



「ほれ、朝ごはん出来たからおとなしく座りなー」


そこに大家さんが朝ごはんを持って現れてくれた。俺の顔からコツネを引き剥がして、自分の横に持っていってくれた。


あとはこの食いしん坊だけなんだけど……。


「クゥンクゥン!!」


「……いつまでやってるのさ」


「っあいた!!」


コツネが離れたにもかかわらず相変わらずグリグリしてくるので額にチョップした。涙目で見上げてくるけど、早く席にもどるように視線で訴えたら、しぶしぶ自分の席に戻ってくれた。


どっちがコツネになつかれているか勝負していたはずなんだけどな。





「大家さん、おかわりお願いしますっ!!」


「……もう三杯目だろう、そのくらいにしとけ。腹こわすぞ……」


「えー、まだ大丈夫ですよ。腹六分の食欲十二分ぐらいです!!」


「ダメだ。また太るぞ?」


「…………そ、そんなことはないクゥン。あ、あれからお菓子は控えめにしているから大丈夫なはずクゥン……」


そんなはずはない。お店でもかわらずのお菓子消費量だったはずだ。


動揺してコツネの鳴き声が語尾についているぞ。


自制したのかおかわりと言わなくなったあずさちゃんを気にもせず、コツネも大家さんに鳴き声をあげて訴えかけていた。


「クゥーン?」


「……お前もか。さっきあぶらあげ追加してあげただろ。お前もダメだ」


「クゥンクゥン……?」


「………………ぅ」


コツネがつぶらな目をむけながら、どうしてもダメ? と言いたげに鳴き声を上げている。


大家さんもそれに少し狼狽えているようだ。


「……しょうがないな、今日だけだぞ?」


「クゥンクゥーン!!」


大家さんはコツネの甘えには弱いようだ。おかわりをコツネに用意してあげ、しょうがないやつだとでも言うように頭を撫でている。


しかし、それに不満を持つ食いしん坊が一人。


「ずるいですっ!! コツネちゃんは良くて私がダメな理由の説明を要求しますっ!!」


「別にコツネは太ってもいないからな」


「…………わたしもふとっているわけじゃ、ふとっているわけじゃ……」


あずさちゃんが己に言い聞かせるようにブツブツとつぶやきだした。


……まぁ、前例があるからな。仕方ないだろう。


「クゥンクゥーン!」


「はぁ、もう今日はダメだからな」


「クゥン!」



今日はコツネの一人勝ちだな。





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「別に私、もしゃもしゃ、太ってなんか、むしゃむしゃ、いませんよね!?」


「…………今はね」

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