第16話 ゴブリン、ご来店。。。


「みなさん、諦めないでください!!」



その皆を励ます声は、アイちゃんのものだった。


なんで街の外に出てきているんだ!? もし、あの子の身に何かあったら男連中の目を潰さなければならないじゃないか!!


「おい、あの女の子はまさか……!!」

「なんでこんなところに……俺達のために来てくれたのか!?」

「私ほどの美しさではないけど、戦場でも映えるその可憐さ……認めてあげるわ……」

「……天使が見える。彼女が見守ってくれるなら、僕は全てを失おう。彼女の大切なものを守るためにっ!!」

「貴方でも彼女の血は浴びたくないというの?……そう、嫉妬しちゃう……」


彼女が来てくれたことにより、冒険者達が熱く沸き立ったようだ。


雑誌でも見たことがあるアイドル衣装を着込んでいるが、この場には似つかわしくない筈の格好も、不思議とその華やかさに目を惹かれる。



「みなさん、私は戦うことはできませんっ!ですが、………私はアイドルですっ!!私がアイドルである限り、みなさんの傍に立ち声を上げ続けます。私には支えることしか出来ないからっ!!


それでも、一緒に戦わせてくれませんかっ!!」



───────────っ!!!



「「「「「────っうぉおおおおおおおぉぉぉぉぉっっ!!!!」」」」」



瞬間、冒険者達の勢いがゴブリン達の侵攻を上回った。


それほど、アイちゃんの献身的な叫びに心を打たれたんだろう。ゴブリン達もその勢いにたじろんで、前線が少し下がり歪んだみたいだ。



「へいへいへい、こうなったらとまれないじゃなぁ~い!!」

「おうおうおう、止まる気もないぜぇ~!!」

「けっけっけっ、少女の願いを邪魔するのは無粋ってもんだぜぃ~!!」


「…………ふん、ふん、ふん、ふん」


「よし、いけるぞ!!このままゴブリン達を押し返せば僕達の勝ちだっ!!」



冒険者達の怒涛の攻めにゴブリン達はどんどん後ろに下がっていく。もう皆ぼろぼろになっているが、その顔は前を向いている。


ゴブリンの下半身にも見慣れて、耐性もついてきたみたいだな。……戦いの後に、興奮が冷めてから大きな傷になっていなければいいけど。


「ゴギャアッーーーッ!!!」


「…………っ、む……」


しかし、もうあと少しでこちらが押し切れると感じた時、後ろに下がりだしたゴブリン達の流れに逆らって、普通のゴブリンの三倍以上はありそうな大きなゴブリンが現れた。


ダッカさんがそのゴブリンが持っていた木の金棒のようなもので弾き飛ばされてしまった。


……あれはこのゴブリン達のリーダーか? ギルドマスターよりもでかそうだ。周りのゴブリン達も距離を置いている。


「あのゴブリンは……っ!!気をつけてください、キングゴブリンがいます!!」


シスターさんが前線の冒険者達に大きく声を投げかける。


……キングゴブリンか。ダッカさんが弾き飛ばされたのを見ると、相当力を持っているらしい。もうちょっとで勢いそのままに押し返せそうだったのに。


「キングゴブリンだと……そんなやつまでいやがったのか!!」

「……てめぇも腰巻してねぇくせにボスっぽく出てくるんじゃねぇよっ!!」

「待って!!……私達の方を見ていないわ。一体何処を見ているの……?」

「……っあの野朗、街の、ギルドの旗を見ていやがる!!」

「ギルドの旗を腰に巻こうとしてるっていうのかっ!!……くそ、そんなこと絶対にさせない!!」

「……やっと私達を満足させてくれる子が出てきたのね、……いいわ、来なさい、坊や?」


多くの冒険者がキングゴブリンを止めるために立ち向かおうとしたが、しかし、勇者さんが冒険者達をその場に留めた。


「……みんなっ、キングゴブリンは僕がやるっ!!他のゴブリン達を近づかせないでくれっ!!」


「───っ勇者様!!」



「うぉおおおおおーーー!!」


「ゴギャアッーーーッ!!!」



勇者さんがキングゴブリンに立ち向かっていった。


シスターさんは悲痛な表情で勇者さんの名を呼ぶ。


おそらく勇者さんは、キングゴブリンを自分一人で止めておくことによって、引き続き他のゴブリン達を冒険者達の力によって、倒してもらうつもりなんだろう。キングゴブリンに人を割き過ぎては再びゴブリン達に攻められてしまうからな。


だけど、勇者さん大丈夫なのか。決して勇者さんは自分の力を過大評価してないはずだ。


それでも立ち向かっていったのは……。


「うぉおおっ、今回ばかりは引けないんだ!!」


「ゴギャギャア!!」


「まだ、今の僕はお前より弱いことは分かっているっ!!」


「ゴギャアーーー!!」


「でもそれでも、ギルドはっ…………っ!!

僕が力を持たない勇者だと分かっても、暖かく迎え入れてくれた大切な場所だ!!!


それを、お前達に汚させはしない!!聖剣よっ、僕に力をくれぇっーー!!」



「ホーリーセイバーーーーッ!!!」


「ゴギャギャギャアアァーーー!!!」



勇者さんが大きく聖剣を掲げると、辺り一面が眩しい光に包まれた。


くっ、何も見えない。勇者さんはどうなったんだ!!


「………勇者様っ!!」


シスターさんの声が聞こえる。目を開けると勇者さんが力尽きたように倒れている。しかしキングゴブリンはその身をボロボロにしながらもまだ立っていた。


まずいっ、このままじゃ勇者さんが、勇者さんの鎧がっ!!


「このままじゃ勇者が……!!」

「くっ、どけぇっ!!このままでは……」

「勇者の鎧が、キンゴブリンの股間に納まっちまうっ!!」

「……あなたの大切なものを、守ってみせなさいっ、勇者!!」

「勇者ぁっ!!立て、立つんだーー!!」

「勇者君、貴方の剣はまだ呼んでいるわよ……貴方の戦場を……」



「…………ぐっ、ぼくは………っ!!」


「……ゴギャアーーーー!!」



冒険者達は勇者さんが立つことを信じ、必死に声をかけ続ける。


力を振り絞りゆっくりと立ち上がる勇者さん、しかし剣を握るので精一杯のようだ。キングゴブリンはそんな勇者さんに一歩一歩近づいていく。


勇者さん逃げるんだっ、じゃないと……。



「僕は決して逃げないっ!!剣を失おうとも鎧を失おうとも、僕は僕の生き様を失いはしないっ!!」


「「「「「勇者ーーーーっ!!!」」」」」



キングゴブリンの手が勇者の鎧にかかりそうになったその時。



「ふぉっふぉっふぉっ、よくぞ言った」



キングゴブリンにその身を覆い隠さんとする程の炎が襲い掛かった。たまらずその場から下がると、炎を消すように転げまわるキングゴブリン。


声の主を探すと、近くに埋まってる大きな岩の上に、ローブを着た人物が立っていた。


…………あれ、ヴァンさんだよな。


「それでこそ、勇者というものなのかのぉ」


「……あ、あなたは一体……?」


「儂のことは後じゃ。それよりも、ほれ、己の壁を越えてみせよ。勇者、なんじゃろう?」


キングゴブリンが再び立ち上がった。かなりイライラしているみたいだ。


何が起こったのかもわかっておらず、まずは勇者さんを標的にしたようで再び歩き出した。


「ゴギャァ、ゴギャギャァアーーー!!」


「……………。キングゴブリン、お前は強い。でも、僕はみんなのために負けられないっ!!いや、僕のためにも、………僕は勇者なんだーーーっ!!!」



「ゴギャゴギャァァアアーーー!!!」


「ガアアアァァァァァアアーーー!!!」



勇者さんとキングゴブリンが一瞬交差した。


………どちらも剣と金棒を振り切った構えで止まっている。


どっちの武器が相手より速く届いたんだっ!?



「…………だ……」


「…………ゴ、ギャ……」


キングゴブリンが倒れた。


そして、勇者さんは……。



「………僕の、僕達の勝ちだっ!!」



────────────っ



「「「「「ウオオオォォォォォオオオオーーーーーー!!!!」」」」」





~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~





そしてあの後、ゴブリン達はキングゴブリンが倒れたことにより、森の中へ帰っていった。


今回の依頼に参加した冒険者達には報酬が払われた。今日はギルドの食堂で祝勝会をするらしい。そして一層絆が深まったような冒険者達を見てギルドマスターが拗ねた。


そのギルドマスターに三兄弟が八つ当たりされていた。



ダッカさんはいつもどおりに戻った街の屋台で串焼きを買っていた。


動いた分いつも以上にお腹が減ったようで、出来上がり次第に屋台の前で食い荒らしていたな。



シスターさんは無茶をした勇者さんを怒りつつも、少し誇らしげに見つめていた。ヴァンさんが勇者さん達と話をしていたが、とうとう勇者業入りするのかもしれない。


魔王さんも危ういかもしれないな……。



アイちゃんは俺がしっかりと家まで送り届けた。


彼女にも助けられたから今度お店に来たときはサービスしてあげよう。



そして、俺は……。




「先輩おかえりなさい!お土産はありますか!?」


「……おう遅かったな、おかえり」


「クゥーーン!」



「ただいまー」






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

後日、街中から使わない布を集めて森の前に置いておきました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る