第17話 後輩ちゃんの授業参観。
ゴブリン達が街に襲来してから三日が経った。
俺は少し緊張しながらある学校の校門前に立っている。
「俺の格好は傍から見たらどう見えるんだろう。本当、大家さんどこからこんなの持ってきたんだ……」
校門前で心の準備を整えている俺の横を、おそらくここの生徒ではないであろう方々が通り過ぎていく。大家さんに流されてしまったが、学校に着いてからのことを全く考えていなかった。
どうして俺が学校前でこんなに頭を悩ませているかというと…………。
~~~~~~~~~~~~
ゴブリン達から街を防衛した翌日、街は普段どおりの喧騒を取り戻していた。あずさちゃんは学校で勉学に励み、俺もお客さんが来ることを願いながらいつもどおり店で仕事をしている。
全く薄情なもんだ。一応一緒に戦った仲間なんだから、冒険者さん達もお買い物に来てくれてもいいのに……。結局ポーションを配りに行っただけだったな、俺。
収穫があったとすれば、大家さんに夜ご飯を作ってもらえたことぐらいだ。
ご褒美にしては十分すぎるか。
「………ちわ」
「いらっしゃい、ダッカさん」
どうやらギルドにも御厚意ある方がいてくれたようだ。口数は決して多くはないけど、そんなことは物ともしないほど思い遣りの心をもっている人なんだよ。
俺の財布にはあまり優しくしてくれないけど。
「昨日の祝勝会はどうでしたか、楽しめました?」
「……ご飯だけ」
「……そうですか」
まぁ、あまりそういう場は得意じゃなさそうだしな。ギルドマスターや三兄弟が彼女にちょっかいをかけて飛ばされてなかったかが心配だな。
でも、帰還して早々に屋台の串焼きを食べつくしてなかったか?
あずさちゃん以上に食い意地が張っているかもしれない。
「それで、今日は何をお求めで?」
「……約束」
「約束?」
「……ポーション」
どうやら、採取依頼を受けてもらった際の約束を覚えていてくれたらしい。意外と律儀な人だな。
でも、モンスターと戦うような依頼はあまり受けないらしいし、ポーションを買う必要はあるのか?
「でも、ダッカさんは討伐系の依頼とかあまり受けませんよね?」
「……妹の」
「妹さんがいたんですか?」
「……冒険者」
「えっ、もしかして昨日の戦いにも参加されてました?」
「……いた」
どうやらゴブリン達との防衛線にも妹さんがいたらしい。全然気づかなかったな。確かにダッカさんの他にも海人族の人はいたとは思うけど。
どの人だろう?
「でも、それなら普段から一緒に依頼を受けたりはしていないんですか?」
「……変な子」
「……えーと、そうですか……」
変な方らしい。……ダッカさんも十分変わってるけどな。
でも、妹さんのためにわざわざポーションを買いに来てあげるぐらいなんだから、仲は悪くないんだろう。どんな人なんだろうか?ダッカさんと同じように物静かな人なのかな。
俺にも可愛らしい妹が一人、いや二人?いるから、ついつい買い与えてしまいそうになる気持ちはとても分かる。
「……会いたい?」
「え?そうですね、また機会があれば……」
「……いつか、ね」
「…………」
焦らしプレイだろうか。意外とSなのかこの人は?
ギルドマスターにも容赦なかったしな。
「ポーションだけでよかったですか?」
「……む」
「……お菓子も一緒に買って行きます?」
「…………」
「……お金ないんですか?」
「……予想外」
お菓子の方をじーっと見ていたから、勧めてみたがどうやらポーション分しかお金を持っていなかったようだ。
そして、今度は俺をじーっと見てくる。
「……とりあえず、今日は付けておきますか?」
「……ん!」
納得されたようだ。表情は変わってないようだけど、ちょっと機嫌よさげに店から出て行った。
彼女なら付けを踏み倒すようなこともしないだろう。
~~~~~~~~~~
「先輩、ただいま帰りました」
「おかえり……?」
ダッカさんが帰ってしばらくして、あずさちゃんがバイトに来てくれた。でも、いつもより何だか元気がないように見える。
どうしたんだろう? いつもならお菓子をすでに食べ始めているのに、おとなしく会計に立っている。
今、お客さんいないから他の仕事をしてもらいたいんだけど……。
「あずさちゃん、何か学校であったの?元気なさそうだけど」
「……えっ?あぁ、いえ。………あの、先輩」
「うん、どうしたの?」
「明後日ってお店開けてますよね……?」
「そうだね。休みってわけじゃないし、いつもどおり営業してるかな」
「……そうですよね」
「それがどうしたの?」
「い、いえ!!……何でもないです、明後日友達に遊びに誘われちゃって!!それでバイトどうしようかなーっと思いまして」
「そっか、別に大丈夫だよ。そんなにお客さん来ることもないだろうし、たぶん俺一人でも何とかなると思うから。気にせず遊んでおいで」
「そうですか、……あ、ははは、じゃ、じゃあ明後日はお休みしますね」
「うん……?わかったよ」
何だろうな、どうにもいつものあずさちゃんと違うみたいだ。
何か別の理由でもあるのか? だけど、無理に聞きだしてもなぁ。年頃の女の子の事情に無用心に首をつっこんでいいものか。
「……………はぁ」
「…………………」
結局そのあと店を閉めるまで、あずさちゃんとは気まずい空気のまま上手く話せなかった。
アパートまで帰る道のりも、いつものようにワイワイすることもなく、夜道が読まなくてもいい空気を読むように静かなものだった。そのままアパートに着いてしまいあずさちゃんとはまた明日、と別れを告げいつもどおりにそれぞれの部屋に戻った。
本当、どうしたんだろうな。何があったのか話してくれたらいいんだけど。
~~~~~~~~~~~~~~
次の日の朝もあずさちゃんは元気がなさそうだった。今朝は俺と同じぐらいしか朝ごはんを食べていない。いつもはおかわりをするのに。
そして、食べ終わってすぐに学校へと向かってしまった。
「てん、あずさに何かしたのか」
「何もしてませんよ!!……俺が教えて欲しいぐらいです」
「ウチの元気印があんなんだと飯も美味くならん。なぁ、コツネ?」
「クゥーン……」
大家さんとコツネも心配しているみたいだ。
俺だって何とかしてあげたいけど……。
「あずさから何も聞いてないのか?」
「はい、特には。……昨日、仕事中に明後日友達と遊びに行くから休みにしてほしいってことぐらいで……」
「明後日?…………明日。………明日か」
「大家さん?」
大家さんが黙って何か考え出した。
思い当たることでもあるのか?明日に何か重要なことでもあったか?
「……てん、明日は店閉めとけ」
「えっ? 何でですか?」
「……はぁ、明日はあずさの学校の授業参観だ」
「……授業参観」
「てっきりあずさはお前にも既に伝えてあるもんだと思っていたけどな」
授業参観っていうと、あれか?学生の御家族さん達が子供の成長、教育がしっかり行われているか確認をするために学校に集まる、……あれか?
それで、あずさちゃんは落ち込んでいたのか……。でも、何で言ってくれなかったんだ?
別に店を閉めて学校に行くことぐらい出来たのに。
「気をつかったんじゃねぇか?お前に店を閉めさせてまで来てもらうようなものなのか、ってな」
「………………」
大家さんが俺の心を見透かすように告げてきた。
……変なところで気を使う子だ、全く。
「てなわけで、明日行って来い」
「……でも、俺がですか……」
「あぁ、お前が行ってやれ」
「大家さんが行ってくれた方が……」
「あずさは、私じゃなくてお前を呼んでんだろうが」
「………………」
「それに最後まで責任持ちな。……てん、お前の後輩だろ」
「……そうですね」
仕方ない、明日は臨時休業だな。
……困った後輩ちゃんだ。
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「てんとあずさのためにあれを用意しておいてやろう」
「クゥン?」
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