第15話 ゴブリン、ご来店。。
街の外に出ると、遠目にでも分かるくらいにゴブリン達が迫っていた。
思っていたよりも多いな、こちらの冒険者の十倍近くはいそうだぞ。冒険者達もその数に少し怯んでいるようだ。
「……きも」
「何度も見てしまったものを思い出してしまいます……」
ダッカさんとシスターさんも戦意喪失しかけている。
シスターさんはゴブリン達のものを改めて思い出してしまったようだ。年頃の女性にはショッキングなビューだったんだろうな。
トラウマにならなければいいけど。……また今から近くで見ることになるんだし。
「みんな、もうすぐゴブリン達が目の前までやってくる!!簡単に奪い取れると思っているあいつ等に見せてやろうっ、僕達の力を!!」
「……お、おう、スゴイ数だな。よ、よしやってやるぜ!」
「ふっ、いつでも準備は出来ている、来るなら来いっ!!」
「た、たったこれっぽちなの?も、物足りないわね!!」
「と、とうとう始まるのか、だが覚悟は決めた!最後に立っているのは僕達だ!!」
「はやくはやくはやくはやくはじめましょうっ!?もう渇くのが怖いのっ!!私とこの子の渇きが満ちる瞬間がっ!!」
勇者さん今回は珍しく頑張っているんじゃないか?
本物の勇者のようだ。いつもの姿から想像できないくらい既に活躍している。一皮むけたということだろうか。
……それに、さすが冒険者さん達だな。ゴブリンの数にみんなの熱気が冷めそうになっていたけど、再び息を吹き返したみたいだ。
「勇者様には今回の依頼が終わったら一週間休みにしましょうと伝えてありますので」
「なるほど。それでいつもよりやる気になっているんですね」
「はい、やれば出来る人なんです」
シスターさんからご褒美をしっかり貰っていたらしい。しっかり勇者している理由はそれだったのか。
ずっと望んでいた長期休暇だもんなぁ。……しかし、やはり母子のような関係だな。
「……………くる」
「……ダッカさんも戦うんですか?」
「…………なぐる」
彼女もゴブリンとの戦闘に参加するみたいだ。
どうやら、剣の腹で殴るつもりらしい。あのギルドマスターを沈めたぐらいだから、ゴブリン達も十分に相手取ることができるだろうな。
俺も一応ギルドから剣を借りてきたけど、できれば使いたくはないな。ポーションもみんなに渡したし、後ろの魔法使いさん達のグループに混ざっていようか。後衛の護衛も大事だからな。
……ビビってるわけじゃないよ?
そして、とうとうその時が来た。
「「「グギャグギャ、グギャーー!!」」」
……やはりまるだしである。少し前から見えていたけどまるだしだ。
「落ち着きましょう、私。目の前に見えるのは……見えるのは、そう、じゃがいもを腰につけている、ただのゴブリンです。ただのゴブリンなのです……」
「ふんっ、全く気品のかけらも持たない方々ですわねっ!!乙女の前にその姿を出すのであれば、葉っぱでもなんでも巻いてきなさい!こ、この、ふるちん達っ!!」
「あはははははぁぁああ、もう私は愛おしい気持ちで胸が冷たいの……。だから、───あなた達の血で私達を暖めて……?」
シスターさんも他の女性冒険者達も非常に嫌そうな顔をして、顔を背けたいんだろうけど背けられないジレンマに陥っている。……例外もいるけど。
「よし、みんな戦うぞーーー!!!」
「「「「「うぉおおおおぉぉぉぉぉ――――!!!」」」」」
「「「「「グギャアグギャアーーーー!!!」」」」」
俺達とゴブリン達の戦いがとうとう始まった。
「へいへいへい、ゴブリンさんやい、こんなもんかぁ~い!!」
「おうおうおう、全然物足りないぜぇ~!!」
「けっけっけっ、強くなけりゃ何も奪えやしないぜぃ~!!」
まず、こちらから飛び出したのは三兄弟だ。
彼らはそれぞれ剣、槍、弓を持っていて縦の陣形を作っている。ゴブリンに剣で斬りかかり、槍で距離をとり、弓を放ち連携を取り合っている。周りのゴブリン達も彼らに手を出しづらそうにしている。
戦っている姿を見たのは初めてだけど、本当に強かったんだな。正直、半信半疑だったんだけど。
そして、大剣を振り回す彼女もとても善戦している。
「……………ふん」
「グギャーーーー!」
「………ふん、ふん」
「「グギャグギャギャーーー!!」」
「……ふん、ふん、ふん」
「「「グギャグギャギャグギャアーーーー!!!」」」
大剣を一振りすると一匹、二振りすると二匹、三振りすると三匹。
その振りに乗じるがままにゴブリン達がぶっ飛んでいく。ダッカさんの近くに行くと敵味方関係なく、その旋風に巻き込まれそうだ。それにしてもよくあの細腕であの大剣を扱えるもんだよな。
俺なら背負うだけで苦労しそうなのに。
「うぉおおぉぉーー!!」
「グギャーーー!!」
そして、勇者さんは他の冒険者達と協力しながら確実にゴブリンを倒している。
……何だろう、もう勇者さんは冒険者としてずっとやっていけばいいんじゃないだろうか。冒険者達といつの間にか信頼を重ねているように見えるぞ。案外、うまくやっていけそうだ。
だが、ゴブリンの数が多すぎて減っているように見えないな。
数が多いこともあって、冒険者達に被害が出始めている。
「くそっ、離れやがれっ!!……あっ、俺のマントがぁあ!!」
「いやーーっ!!私のマフラーがゴブリンの股間にーーー!!」
「仲間に手ェだしてんじゃねぇ!!やるなら俺に………、あああぁぁぁーーーーーっ!!」
「あれは、じゃがいも。じゃがいもじゃがいもじゃがいも………」
「……………私の衣はあげるわ、代わりに貴方の血をちょうだい……?」
少し場が乱れてきたな。こっちにもゴブリンが数匹、抜けてきている。
後衛の人達に近づけないように頑張って剣を振るおう。ゴブリンぐらいなら俺でも何とか戦える。後ろから魔法の援護もあるしな。
……ちょっ、服を引っ張るな!最近買ったばっかりなんだよ!!
後ろでは、シスターさんも傷ついた人達を次から次へと癒している。
だけど、このままじゃゴブリン達よりこっちが先に力尽きそうだ。やっぱりギルドマスターも連れてきた方がよかったかもしれない。居たら居たで騒がしいが、今この場には必要なものだ。
被害者が増えるにつれて、俺達の間に不穏な空気が漂い始めた。
だがその時、そんな不穏な空気を浄化してしまうような無垢で清らかな声が戦場に響いた。
「皆さん、あきらめないでください!!」
その声に気づいて皆が街門の方を振り返る。
この声は………。
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「……ふん」
「グギャー(ありがとうございますっー)!!」
「………ふん」
「グギャー(もっと強いのをー)!!」
「…………ふん」
「グギャー(もう死んでもいいー)!!」
「……………きも」
「「「グギャー。」」」
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