第14話 ゴブリン、ご来店。


それは朝、アパートであずさちゃん達と仲良く朝ごはんを食べているときに突如おとずれた。


「先輩、醤油取ってください」


「ん、はい。あっ、そっちの塩ちょうだい」


「はい、どうぞ」


「うん、ありがとう。……こら、コツネ。卵の殻は食べちゃダメだぞ」


「クゥンクゥーン?」


「コツネ、そんなものは食べるな。ほら、おかわりの油揚げだ」


「クゥンクゥン!」


「全く何でも食べようとするな、お前は」


「コツネちゃんは育ち盛りですもんね!」


「あずさちゃんもだけどね」


「失礼な!!私は食べ物の分別はついてますっ!!」


「いや、そっちじゃなくてね……?」


「お前らもさっさと飯食っちま……」



──ウォンウォンウォンウォン………──


目玉焼きとゆで卵を食べつつ、コツネちゃんの悪食に注意をして大家さんにせかされているとき街中に警報が鳴り響いた。


「……これはギルドの警報ですね」


「何かあったんでしょうか?」


「クゥン?」


「ほれ、コツネこっちに来い」


警報に怯えたコツネが大家さんに抱き寄せられた。


……あずさちゃんが何か訴えるようにこっちを見ているが無視しよう。



──ただいまゴブリンの群れが街に向かってきています。現在街の外に出ている方はすぐに街中へお戻りください。二時間後に門を閉めますので、お急ぎください。繰り返します。ただいま………──


「……ゴブリンですか。勇者さん達が調査に行っていたはずですけど……」


「先輩、わたしこわいですぅー……」


「今日はみんな自宅待機だね。ほれ、コツネもう一眠りしていいぞ」


「クゥン?」


少し勇者さん達が心配だな。もうすでに戻った後だといいけど。


……あずさちゃんは余裕がありそうだな。毛布にくるまっておきなさい。


さて、今ごろ冒険者達がギルドに向かっているはずだ。俺も一応行っておこうかな。何か役に立てるかもしれないし。


「それじゃあ俺はちょっと行ってきますね」


「えー、先輩行くんですかー」


「俺もお世話になってるからね。行っておいたほうがいいでしょ」


「アパートでゴロゴロしてましょうよー」


ポーションとか持っていくだけでも助けにはなるだろう。多少剣も握れるし数にはなるはずだ。


……先輩は安心だよ。無茶なことに首をつっこまなそうな後輩ちゃんで。


「気をつけて行ってこいよ、大丈夫だとは思うが」


「クゥンクゥゥゥン!!」


「ええ、無茶するつもりもないんで。危なかったらすぐに帰ってきますよ」


「おう。」





~~~~~~~~~~~~~





アパートを出て店に寄って、ポーションをかばんに入れてからギルドに向かった。流石に今日は冒険者と警備兵以外の人は、建物の中で隠れているようだ。いつもはにぎわいを見せるギルド近くも人が少ない。


ギルドに入ると、冒険者達が騒々しく職員に詳細を聞いているようだった。


「おい!ゴブリン共がこの街にやって来ているってどういうことだよ!」

「そうだ、何で森から出てきていやがるっ!」

「あいつらは一体何が目的なんだ!人を襲うことはめったにないはずだろう!」

「そうよそうよ!警報のせいで朝ごはん食べ損なっちゃったじゃない!」

「ちょっと待ってくれ!俺の依頼はどうなるんだ!?俺のミーちゃんが家出してしまったんだ!すぐに見つけてくれないと俺は……おれはぁーーーーっ!!」

「……私の紅刀がうずいている……ごめんね、もうちょっと我慢してね……?」



………唖然失笑、阿鼻叫喚だな。収拾がついていない、帰りたくなってきた。勇者さんはどこにいるのかな。ここにいてくれたらいいんだけど。


そのとき、大きな音を立ててギルドの扉が開いた。


「みんな、聞いてくれ!!

あのゴブリン達がなぜここに向かっているのか分かったかもしれない!!」


勇者さんとシスターさんだ。とりあえず、無事でよかった。ちょうど今帰ってきたところなのか?


だが、調査の成果はあったみたいだ。何かヒントをつかめたみたいだな。


「「「いったい、あいつらは何が目的なんだ!?」」」


「……僕達はゴブリンの調査に行っていたんだけど、この近辺にいるゴブリン達に共通点を見つけたんだ!!」


「それはいったい何なんだっ!?」


「…………どのゴブリンも普段腰に巻いているはずの腰巻をしていないんだっ!! どのゴブリンも大事なところがまるだしだったんだ!! おそらく奴らの目的は……!!」



「……はっ、そうか!!」

「あいつら、腰巻を求めに俺達の街に向かっていやがるのか!!」

「もし、このままゴブリン共の侵入を許したら……」

「私達の服やお布団がゴブリン達の腰に、股間にまかれてしまうというのっ!?」

「俺のミーちゃんのお洋服が……やつらの股間にだとっ!!」

「まっていてね、彼らの血で満たしてあげるから……」



なるほどな。………なるほどか?


確かにゴブリン達は、いつも腰巻を巻いて腰を隠すようにしている。だが、勇者さん達が調査してきた限りだと、どうやらまるだしだったようだ。シスターさんが何も喋っていないのはそのせいか。……信憑性が増したな。


侵入を許したら人的被害はともかく、街の損害は大きくなりそうだ。


「みんなっ!!力を合わせてゴブリン達から街を守ろうっ!!僕達の大切なものをっ!!」


「おう、当たり前だっ!!」

「でも、奴ら数は結構集まっているんだろう?」「一匹一匹はたいしたこと無くても……」

「おいおい、何を言ってやがる、俺達の大事なもんが奪われるかもしれないんだぞ!?」

「でも、もし負けたら全てを奪われて、外ですっぽんぽんになっちゃうかもしれないじゃない!!」

「ご褒美だぜっ!!」

「私にはあなたさえいればいいわ……紅刀」


勇者さんが勇ましく冒険者達に奨励するが、ゴブリンの数が多いこともあって及び腰になっている人も多い。


女性冒険者からしたらそれも当然だろうな。自分の衣服がゴブリンの腰にまかれるなんてトラウマものだ。……例外もいるみたいだけど。



「へいへいへい、汚物には蓋を忘れちゃだめじゃなぁ~い!!」

「おうおうおう、お洗濯の時間だぜぇ~!!」

「けっけっけっ、隠すのは涙だけにしとけだぜぃ~!!」


「落ち着け野朗共っ!!ギルド条例十項『静かにしねぇとぶん殴るぞテメェ等』だ!!」


「「「「「…………………………」」」」」


ギルド奥のギルド長室から三兄弟とギルドマスターが出てきた。三兄弟はまた絞られていたのか、頭にたんこぶが出来ている。


さすがギルドマスターだな、あれやこれや騒いでいた冒険者達の声がピタリと止んだ。


……職権乱用しまくりだけど。


「いいか、テメェ等っ!!ゴブリン共はもうすぐこの街までやってくるっ!!

それを止められるのは俺達しかいねぇ!!警備兵の奴らは数がいねぇし、いざというときのために街の中に待機していてもらう。


俺達の手にかかってんだよっ!想像しろっ!奴らに好き勝手にされる、お前らの大切な者達のあわれな姿をっ!!守るべきものを守れなくなった俺達の姿をっ!!奴らの惨劇が去った後の、この街の姿をっ!!


許せねぇよな、そんな好き勝手させてやるわけにはいかねぇだろうがっっ!!

だったら、立ちやがれ!!たとえ、奴らに辱められても立ち止まんなっ!!

テメェの身一つになっても戦い続けろっ!!一番みっともねぇのは何もかも失うことを恐れて、テメェ自身の生き様を隠すような腰抜け野朗だっ!!


テメェ等は腰抜けの集まりか、それともテメェの全てをさらけ出して笑っていられるバカ共か、どっちだっ!!」



「………っ……………だよ……」


「あぁん!?聞こえねぇぞっ!!」



「笑ってやるって言ってんだよっ!!」

「なめんじゃねぇぞ!上等だ笑い続けてやるぜっ!!」

「……裸になるくらい、何てことないわ。私の美しさが穢れることはないのだからっ!!」

「やってやるよっ!!僕の大切な人に笑っていてもらうためにね!!」

「この街を守るのは俺達だ!!俺達自身がこの街の鎧なんだからなっ!!はがせるもんならはがしてみなっ!!」

「私と貴方の間に隠し事なんかできない……だって貴方が血を求めるように私は貴方を求めているのだから」


「………テメェ等はバカだ、大切なもんのためにマッパになれる最高のバカ共だっ!!

帰ってきたテメェ等を笑うような奴がいれば俺がぶっ飛ばしてやる!!


ギルド条例百項『テメェに正直に生きろ』っ!!


ギルドからの緊急依頼だ!!俺達の生き様を守るための戦いに行くぞ、バカ共っ!!」


「「「「「うぉおおおおおぉぉぉっぉーーーーーっ!!!!」」」」」



……乗り遅れたな、俺も参加すべきだろうか。


勇者さんもあっちに参加しちゃってるしなぁ。あっ、シスターさんは安心したようにこっちを見ている。仲間を見つけたような気分なんだろうな。………俺も同じ気持ちだ。


皆がギルドを出て行く。その中にギルドマスターもいるが、受付嬢達に引き止められている。


「止めるんじゃねぇ!!俺も行くんだよ!!」


「ギルドマスターまで行ってどうするんですか!!冒険者のみなさんにあとは託してください!!」


「くそっ、離しやがれ!!俺の思いが止まんねぇんだよぉぉーー!!」


「ちょっとーー!!誰か止めるの手伝ってくださいーー!!」


「はっはっはっ、今俺達の心は一つになってんだよ!!止めるやつなんざいねぇ、えぶしぃっっ………!!」


「……へ?」


「………はい」


流石にダッカさんはさっきの激昂に流されはしなかったようだ。ギルドマスターが彼女に剣の腹でかなり強めに頭をぶん殴られた。


……容赦ないな。しばらく起き上がることはないだろう。


そのあと、彼女はこっちまで歩いてきた。


「……行く?」


「はい、冒険者ではないですけど多少は剣も使えますし、ポーションもいくつか持ってきたんで」


「……行こ」


「あ、私もご一緒させてもらっていいですか?」


他の冒険者たちは既にみんな移動しているようだ。


俺とダッカさんとシスターさんも街の外まで向かう。



……不安だ、いろいろと。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「ちょっと、何で私一人でギルドマスターを運ばなくちゃならないんですかっ!?誰か手伝ってくださいーー!!今、目をそらしましたねっ!!あとでギルドマスターにあることないこと吹き込んでおきますからねっ!!」

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