第4話 先輩後輩。ときどき勇シス。


今日はお店が休みの日だ。あずさちゃんに外出に付き合って欲しいとおねだりされたので、市街まで出てきている。


俺のお店は少し離れたところにあるから、あまりこっちまで足を運ぶことは多くは無いんだよな。以前、ギルドに調合用の材料採取の依頼をしたとき以来だ。


街はずれには木造の家や建物の方が多いが、市街まで来ると石造のものが増えてくる。


「それで今日はどこに連れて行ってくれるの?」


「お目当てのお店に着くまで内緒ですっ!!」


「別に教えてくれてもいいんじゃない?逃げるわけでもないし」


「……本当ですか?絶対に逃げませんか?」


「……今から、聞いたら逃げるようなところに連れて行かれるの?」


どうやら、俺にとってあまり好ましくなさそうな場所に連れて行かれるらしい。


しまったな、聞く前に逃げておくべきだったかも。


「いえいえ、ずっと行きたかった場所というか、食べたかったものがありまして……」


「でも、ただの飲食店というわけじゃないんでしょ?」


「うーん、飲食店には変わりないんですけど、その食べたかったものというのが私一人では食べることができないんですよ」


「ん?食べきれないほど量が多いの?」


「いえ、量もそう多くはないんですが、食べるにはある条件がありまして……。

あっ、あそこです!!」


目的地についたらしい。どうもスイーツ店のようだ。店の看板には『ラブパフェ』と描かれている。


……何だろう、そこはかとなくイケナイ店に思えるのは俺の心が汚れているだけなのか。


「スイーツが食べたかったの?」


「はい、しかし、ただのスイーツではありません!特別な限定メニューがあるんです!!」


「へぇ~、そんなメニューがあるんだ………」


ふと、店の外に設けられているテラスに目を向けると、見覚えのある人影を見つけた。勇者さんとシスターさんだ。勇者さんと目が合った。


なぜだろう、いけない物を見られてしまったような顔をして、しかし、納得したような表情を見せ、若干引き攣った笑顔をこちらに向け手を振ってきた。

……何だろうな、そこはかとなく行きたくない。


そのまま見なかったことにしてあずさちゃんと店内に入ろうとしたが、勇者さんがこちらに向かってきた。


「店主、何で無視するんだ!明らかに気づいていたじゃないか!!」


「いや、碌なことにならなそうだなと思って」


「ひどいっ!!」


つかまってしまった。


「何の用なんですか、勇者さん。私達はこのお店に特別限定メニューを食べに来ただけなんですよ」


「えーと、せっかく会えたんだから一緒に食べたいなと思って。どう?ほら、シスターも一緒に来てるしね」


「むぅ、ですが……」


シスターさんもこっちに気づいて手を振ってくれている。若干、あずさちゃんが不満そうなのが気になるが、しょうがないだろう。


そのままシスターさんが待つ席に連れて行かれる。


「こんにちは、店主様、あずさ様」


「「こんにちは、シスターさん」」


「もしかして、お二人も特別限定メニューを食べに来たのですか?」


「ええ、といっても俺はあずさちゃんに黙って連れてこられたんですけど」


「……ふふふ、そうなのですね。実は、私も今日は勇者様に付き合ってもらい、同じものを食べにきたんです」


どうやら、シスターさん達も同じ目的で来ていたらしい。いつの間にかそんなに世間で流行りになっていたんだな。


「先輩先輩、さっそく注文しましょう!!」


「え、まだ俺決めてないからちょっとまっ……」


「特別限定メニューは二人で一つなので却下です!!店員さーーん!」


俺の意思を無視して注文されるようだ。


……その特別限定メニューというものが気にはなっていたから別にいいんだけど。


「ご注文はお決まりでしょうか?」


「はい、カップル限定ラブラブパフェをお願いします!」


「ぶふぅっ!!」


思わず噴いてしまった。


……なるほどな、このためだったのか。わざわざあずさちゃんが俺を連れてきたのも、勇者さんがシスターに連れてこられた理由も。でも、店員さんも俺達の席を見て少し困っているぞ。


「ですが………」


「Wデート中なんです、私達」


「「~~~っ!!」」


「なるほど、かしこまりました。カップル限定ラブラブパフェですね」



「「「……………………」」」



「あれ、皆さんどうしたんですか?」


さすがあずさちゃんだぜ。全く動じずに平然としていやがるっ。こっちの都合なんて一切考慮してくれないぜっ。


特に勇者ペアが微妙に気まずそうだ。


勇者さんは遅れて訪れた思春期状態だろうし、シスターさんは単純に奥手な感じだからな。

おそらく、勇者さんをここに連れてくるのも実はためらっていたはずだ。間違いない。


「……あー、お二人とも最近調子はどうですか。魔王さんを倒せそうな目処は立ちましたか?」


とりあえず二人の近況を聞いてみる。この気まずい沈黙を打破できるのは俺しかいないだろう。今はあずさちゃんに喋らせるのは得策ではない。


「……い、いや以前魔王と戦ったときにかなりの力の差を感じたし、まだまだギルドの依頼を受けてレベル上げ中だよ。ていうか本当は魔王とも戦いたくないんだけど。強すぎだよ、魔王……」


「……い、いけませんよ勇者様。仮にも勇者の剣に選ばれたんですから。多少はそれらしく振舞っていただかないと」


「だって急に王都の城に呼ばれて、『剣を引き抜けたものが勇者じゃ』って言われてたまたま抜けちゃっただけだよ?絶対僕より強そうな人とかいたじゃん!しかも、勇者の鎧とか普段から着ていなくちゃいけないし。重いし、ガチャガチャうるさいんだよね、これ……」


「……け、剣に選ばれたからには何か理由があるはずですよ。たぶん……。

勇者の素質は単純な力だけではないんですよ。おそらく……」


「シスターも自身なさげじゃないか!!もう、誰かに代わってもらいたいくらいだよ……」


本気で嫌そうな顔をしているな勇者さんは。


魔王が来てから、各国の国がそれぞれ勇者を召募して、どこの国の勇者が最初に魔王を倒せるか競いだした。


……といっても魔王も悪さをしていたりするわけじゃないから、大規模なお遊びみたいなものだ。今のところ、どこの国の勇者も魔王には勝ててないようだけど。強いな、魔王さん。


「私思うんですけど、勇者業に他の誰か強い人に入ってもらったらどうですか?」


あずさちゃんがさも名案というように言い出した。

……でも、確かにね。それこそ、勇者になりたくて集まった人のなかには本当に強い人もいたんだろうし。


募集すれば人集まるんじゃないか?


「それができなくてね。王様が言うには、『勇者業には人数職種制限を設けてある。勇者のほかには僧侶と戦士、魔法使い、武闘家の四人までしか認めん。ギルドなどで募集することもできん、旅の中で出会っていくのだ!!』って話でね」


「私が僧侶なので、あとは戦士と魔法使いに武闘家の三名までしか組めないのです」


各国で決めたルールなんだろうけど、いいのかそれで。めちゃくちゃ国の上層部楽しんでるじゃないか。


まぁ、平和でいいか。


「お待たせしました。カップル限定ラブラブパフェがお二つです」


話をしているうちに出来てしまったようだ。


思ったよりデカイぞ、このパフェ。しかも、パフェの上にそれぞれの名前が彫られたチョコが載っている。


……どうやって知ったんだ、俺伝えてないぞ。


「わぁーー、美味しそうですね!ほら、先輩食べましょう!!」


「……うん、いっぱい食べていいよ、あずさちゃん」


「じゃあ、私は先輩の名前のチョコ食べるんで、先輩は私のものを、私を食べていいですよ?」


「……わぁーい」


テラスにいることもあって、通りすがりの人達の視線が痛い。こんな真昼間からイチャつきやがってこの野郎って感じだろうか。せめて店内で食うべきだった。とき既に遅し。


「……勇者様、私達も食べましょうか?」


「……あぁ、うん、食べよう」


「……私のチョコ食べますか?」


「……じゃぁ、僕のチョコ食べる?」


「「……………」」


目の前の二人はなかなかスプーンが進まないようだ。こっちまで恥ずかしくなるからやめてほしい。


店の中でパフェを持ってきた店員がにやけているのが見える。


仕事しろ。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「また来ましょうね先輩!」

「……うん、そうだね……」


「……シスター、また来たい?」

「……勇者様、また来ますか?」

「「……………」」



あずさちゃんは幸せそうだ。






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