第2話 後輩ちゃん、ラブレター貰う。


「せんぱーい、私、ラブレター貰っちゃいました!」


「へー、やっぱりあずさちゃんモテるんだねー」


「むー、それだけですか。カワイイ後輩がラブレターを貰ったのに、何かないんですか。『えっ、そ、そうなんだ。よ、よかったね?』程度に動揺してくれてもいいんですよ?」


「……えっ、そ、そうなんだ。よ、よかったね」


「違います、気持ちが足りません!大事なのは気持ちなんです。言葉だけで全部伝えられると思っているのは大間違いです!」


理不尽じゃない? ……からかう気持ちがあったのは間違いないんだけど。


でも、ラブレターか。いろいろと癖はあるかもしれないが可愛いからな。


青春してるんだなー。


「それで、もう返事はしてきたの?」


「あ、気になっちゃいます?やっぱり、気になっちゃいます?どうしようかなー。教えてあげようかなー。ふふふー、知りたいですか?」


「いや、やっぱりいいよ。恋愛ごとに他の人がちょっかい出すのは無粋だもんね」


「もうちょっと押してくださいよ!もう私話してもいいかなー話したいなー、っていうぐらいに温まってましたよ!?」


俺がわざわざ首を出すのは、あずさちゃんとラブレターを渡した男子に悪いだろう。空気を読める男なんだ俺は。


……でも、正直気になるな。どんな子だったのか。


「……ラブレターくれた子はどんな子だったの?」


「む、知りません!興味がないらしい先輩には教えません!」


しまったな、少し意固地になってしまったようだ。こっちから顔を背けてしまった。しかし、いかんせん気になってきてしまった。


もし、ウチの後輩に中途半端な気持ちで告白しようものなら………


「……やっぱり、先輩気になっちゃうなー、教えて欲しいなー、なんて思っちゃったり」


「知りたいですか」


「……知りたいかな?」


「かな?」


「……知りたいです」



「……もう、しょうがないですねっ!そこまで教えて欲しいというなら、教えてあげましょう!!」


途端に嬉しそうに生き生きとした表情でこちらに振り返り、どうだったのか話してくれる。改めて俺が聞いていいことなのか悩みはするが、後輩ちゃんのためだ。


悪いな、名も知らぬ少年よ。


「まず今日の朝、学校へ行ったら下駄箱に私の靴以外のものが入っていたので、何だろうと手に取ってみたんです。そしたら、それは可愛らしい手紙だったんです」


「うん、それがラブレターだったわけだね」


「はい、そのあと教室まで向かい自分の席に座り、改めて中身を確認してみたんです。すると、そこには『あなたのことが好きです。今日の放課後、学校の屋上で待ってます!』と書かれていたんです」


「おぉ、単刀直入で正統派な文章だね」


「はい、そうですね。もう授業が始まりそうだったので、その手紙をかばんにしまい、今日一日いつもどおりに学校での時間を過ごしました。大家さんのお弁当、今日も美味しかったですね!」


「そうだね、いつもながらに美味しかったね。特に卵焼きが」


「はい、そして最後の授業も終わり、いよいよ放課後になったので早くバイトに向かわねばと思い、友達からの誘いも断腸の思いで断り、今ここにいるのです!!」


「……ん?ラブレターの返事はどうしたの?」


そのラブレターには直球的な告白と放課後に屋上に来て欲しい、ということが綴られていたんじゃなかったっけ。


そういえば告白されてから来たにしては、いつもどおりの時間に来てくれたな。


「えっ?知りませんよ。『今日の放課後、学校の屋上で待ってます!』と書かれていただけですからね」


「……ん、そのラブレターは今日貰ったんだよね?」


「ええ、そうですよ?」


「……その子のところ、行ってないの?」


「だってバイトがありましたから。こちらの予定を無視した呼び出しには応えられないじゃないですか。」


「……まぁ、そうだね」


ちょっと哀れにも感じるな。


もし、外見の良さだけを見て告白しようとしている小僧であれば、どうしてやろうかと思っていたけど。当たり前だ、それ相応の覚悟を持っているものじゃなければ許せんぞ。


「ふふふー、安心しました?ねぇねぇ、ほっとしました?」


「……まぁ、半分くらいは」


「―――っ、そうですかぁっ!私は一途な女ですからねっ!!

来るもの追うもの、構わず一途ですからね!!」


「……あずさちゃんはいつも幸せそうだね」


「えぇ、それはもちろん!!」


楽しそうで何よりだ。


俺も見習わないといけないな、後輩ちゃんのこういうところは。


「さぁ、今日はばっちり働きますよー!!」


「いつもだと嬉しいなー」

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