担当はSその3
「――というわけです」
「なるほど。つまり透が変態なのが原因というわけね」
華恋に経緯を聞いた紅葉はそんな結論に達した。
「何でそうなるんだよ!? どう考えても俺は被害者だろ!?」
透は悲鳴じみた声で、紅葉の結論に異議を唱える。
華恋がメールを送って十数分後、紅葉は透の部屋に来た。
部屋に入った紅葉が最初に目にしたのは、鞭打ちの刑に処されている透と、執行人の飛鳥だった。
知り合いが幼馴染に鞭を振るう。普通の人が見れば度肝を抜かれる光景だが、悲しきかな、その光景を見慣れている紅葉は動じることもなく二人を止めた。
「うるさいわね。飛鳥さんの鞭打ちを止めてあげただけでも感謝しなさいよ」
「それは確かにそうだが……」
「そうですよ。先生はもう少し常識というものを身に付けるべきです」
「飛鳥さん? 私前にも他人の家で鞭を振るなって言いましたよね? そんな人が常識を語るとか、ふざけてるんですか?」
「ごめんなさい……」
紅葉に凄まれてしょんぼりとうなだれる飛鳥。
先程まで透に鞭を振るっていた時とは打って変わって、借りてきた猫のように大人しくなった。
「まあ、今後はこんなことがないよう、透は後でお仕置きしておきますから、それで勘弁してあげてください」
「分かりました。私はそれで構いません」
さらりとお仕置きが決定した透。鞭打ちの次は幼馴染のお仕置き。もはや哀れとしか言い様がない。
「え!? 俺、あんな苛烈な鞭打ちを受けたのに、まだ何かされるのかよ!?」
「当然でしょ? 二度と小学校周辺をうろうろしないよう、徹底的にやってやるわ」
『徹底的』の部分が特に強調されてるのが恐ろしい。紅葉がかなりキレていることがよく分かる。
「俺死ぬぞ!? まだ鞭打ちの痛みが残ってるのに、これ以上何かされたら本当に死ぬぞ!?」
「大丈夫ですよ先生! 鞭の扱いに関してはプロである私のしごきに耐えられた先生なら、紅葉さんのお仕置きも余裕ですよ!」
「何の慰めにもなってねえよ!」
ちょっとした死刑囚のような気分になってしまう透。
――逃げるか。
脱走を決意する透。
三時間くらい外をぶらついていれば、紅葉も諦めるだろう。
チラリと玄関の方に視線を向け、逃げる算段を立てるが、
「逃がさないわよ?」
流石は幼馴染。透の考えることなど、お見通しのようだ。
彼にできるのは、紅葉のお仕置きが軽いものであることを祈ることだけ。
「そ、そうだ! 華恋、お前からも何とか言ってくれよ!」
最早なりふり構っていられない透は、最終手段として華恋に助けを求める。
「は、はい! 今助け――」
「華恋は私の味方よね?」
華恋の肩を掴みながら、紅葉は訊ねる。口元は笑みの形を作っているものの、目は笑っていない。
「……ごめんなさい師匠。何とか生き残ってください」
絞り出すような声音でそんなことを言う華恋。
なぜか紅葉の掴んでいる肩からミシミシとおかしな音が鳴っているが、透は気にしないことにした。
「それじゃあ早速始めるね」
「え!?」
「せーの!」
「や、やめろおおおお!」
透は何とか抵抗しようとしたが、全ては無駄だった。
――後に華恋は語る。紅葉は怒らせてはいけないと。
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