担当はSその2
「ん……?」
学校からの帰宅途中、カバンの中のスマホが震えてることに気付き、紅葉は取り出した。
「あれ、華恋からのメール?」
最初こそとんでもない出会い方をしたが、紅葉と華恋だったが、今ではメールアドレスを交換するほどの仲になっていた。
「何の用だろう?」
スマホを操作し、メールを開く。メールには件名はなく本文のみが記載されていた。
『師匠が
「いつものことじゃない」
紅葉はメールに対して、そんな感想をもらした。
「透が変態なんて分かりきってること、何で今更メールで送ってきたの? しかも字も間違えてるし」
紅葉はメールの内容に首を捻る。知り合って間もないため、やり取りの回数は少ないが、華恋の送るメールは丁寧で誤字は見たことがなかった。
それなのに今回は雑な一文と誤字。明らかにおかしい。
「まあ、行けば分かるか」
結局紅葉はメールの内容に関しては確認すればいいという結論に達する。
本来の予定を変更し、紅葉は透の家のある方に歩を進めた。
――紅葉はこの時、一つだけ勘違いをしていた。確かに透は変態である。これは疑いようがない事実だ。だが、紅葉知らなかった、華恋が打ちたかった文字は『変態』ではなく、『大変』だったということを。
紅葉にメールが送られる十数分前。
「な、なぜ貴様がここにいる!? 締め切りはまだのはずだぞ!」
透の眼前にはスーツ姿の女性。年齢は二十歳を過ぎたほどだろう。メガネ越しの鋭い視線が透に刺さる。
「安心してください。今日は原稿の催促に来たわけではありません」
「な、何だ、そうなのか……」
飛鳥の言葉に胸を撫で下ろす透。
「もちろん締め切りを破れば容赦しませんが」
「ひィッ!」
飛鳥の言葉に情けない悲鳴を上げる透。
「師匠、こちらの女性は誰ですか? 師匠とはどんな関係なんですか?」
華恋は濁りきった瞳を透に向けながら、二人の会話に入ってきた。
「ちょっ、華恋さん? 目が怖いですよ?」
「いいから答えてください」
もはや華恋の瞳は怒りを通り越して殺意が見え隠れしている。
対して透は、なぜ華恋が怒っているのか分からず、怯えながら華恋に答える。
「こ、こいつの名前は如月飛鳥だ! 俺の担当だ!」
「何だ、担当さんですか。ならいいです」
何がいいのか、そもそも華恋はなぜ怒っていたのか。色々とツッコみたい透だったが、やぶ蛇になりそうなので諦めた。
「初めまして、師匠がいつもお世話になってます。弟子の菊水華恋と言います」
「これはご丁寧に。私は如月飛鳥。そこのJS太郎先生の担当編集をしています」
華恋と飛鳥は互いに自己紹介をし、透はその様子を黙って見守る。
「しかし弟子ですか……失礼ですが菊水さん、あなたのご年齢を訊いてもいいですか?」
「十四歳です。あと私のことは華恋でいいですよ?」
「では今後は華恋さんと呼ばせていただきます。それにしても、先生がJCの弟子を取るとは意外です。そのうち近所のJSを拉致して捕まると予想していたのですが……残念です」
無表情のまま透に毒を吐く飛鳥。
「貴様が普段どういう目で俺を見ていたかはよく分かった。あと、そいつは俺の弟子じゃない」
「そうなんですか?」
飛鳥は華恋の方に振り向き、訊ねる。
「近い将来に正式な弟子になる予定なので、今から弟子を名乗ってもいいとは思いませんか?」
「いいわけあるか、バカが」
華恋の戯言を、透はあっさりと切って捨てた。
「それで、今日は何の要件だ? 貴様が原稿の催促以外で来るなんて珍しいな」
「実は、今日私がここに来たのは、編集部に一本の電話がかかってきたからなんです」
「電話?」
「かけてきたのは、近くの小学校の校長です。先生、何か心当たりはありませんか?」
「……知リマセン」
少し間を開けて、片言で返す透。怪しさ百パーセントだ。
そんな透に冷たい瞳を向けつつ、飛鳥は続ける。
「電話の内容はこうでした。『最近、学校の周辺をカメラを持って徘徊している変質者がいます。警察に報告しようと思いましたが、そちらの作家の方に姿形が似ていたので先に連絡させていただきました。何か気付いたことがあったら教えてください。ご協力お願いします』とのことです。先生、本当に心当たりはありませんか?」
「…………」
冷や汗が止まらない透。心なしか目も泳いでいる。
「先生?」
「お、俺は知らないぞ!」
「そうですか……なら仕方ありません」
そう言うと、飛鳥は懐から漆黒の鞭を取り出した。
「な、何をするつもりだ!?」
「自供するまで拷問します」
「よし、話し合おう。俺たちは人間なんだ。対話で問題を解決しようじゃないか。ひとまず、その物騒な鞭は置いて――」
「ふッ!」
飛鳥が風を切る音を鳴らしながら鞭を振るう。鞭は吸い込まれはように透の胴体に直撃。
「ぎゃああああああああ!」
「し、師匠! 大丈夫ですか!?」
「大丈夫じゃない! 超痛――ああああああああ!」
「まだまだいきますよ!」
更に怒涛の勢いで鞭が振るわれる。
「や、やめてください! 師匠が痛がってるじゃないですか!」
「だからいいんですよ! 苦痛に顔を歪める人に鞭を振るう、これ以上の快感はこの世にありません!」
華恋の言葉は飛鳥に届かず、鞭の動きは止まらない。
「華恋電話だ! 紅葉に電話で助けを呼んでくれええええ!」
「わ、分かりました!」
華恋は即座にスマホを取り出し、紅葉に現状も簡単にまとめたメールを送った。
――この時、華恋はメールを打ち間違えたのだが、紅葉は透の家へ向かったので結果オーライとなった。
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