JCの懇願
時を遡ること、一時間前。
透が自室のドアを開けると、玄関前でセーラー服の少女が正座をしていた。
最初は驚きこそしたが、何やら話があるとのことなので一応リビングまでは通した。
「ええと……君、誰?」
「え……覚えていませんか?」
開口一番透が訊ねると、少女は悲しげな表情でうつむいた。
そんな顔を見ると思い出してあげたくなるが、JS以外はまともに覚えられない変態には無茶な要求だ。
「ごめん。さっぱりだ」
「そうですか……なら仕方ありません」
そう言って、少女は勢いよく立ち上がり、透の顔をジッと見つめながら口を開く。
「私は
「お、おう……」
唐突に始まった自己紹介に、透は多少気圧されてしまう。ちなみに、最後におかしなな一文があった気がしたが、面倒なのでツッコまないことにした。
「俺は菱川透。十八歳だ」
透も手早く自己紹介を済ます。
「それで……君――菊水さんでいいかな?」
「華恋とお呼びください!」
「わ、分かった。ええと……華恋、君はどうしてここにいるんだ? というか、どうやって入ってきた?」
「それはですね……」
華恋は傍らに置いていた学生カバンの中を漁る。しばらくすると、JCが持つには不釣り合いな工具箱が出てきた。
「これで開けました」
「…………」
まだ工具箱を具体的にどう使った聞いてないのに、耳を塞ぎたくなる透。
「それと、余計なお世話かもしれませんが、ここの鍵は替えた方いいですよ、師匠」
「本当に余計なお世話だな。あと師匠って誰のことだ?」
この場には透と華恋の二人しかいないため、師匠というのが誰のことを指すのかは分かっているが、面倒なのですっとぼける。
「もちろんあなたのことですよ、師匠。私はあなたに弟子入りするためにここに来ました!」
「弟子入り? 俺別に竜王とかじゃないぞ?」
「いえ、私は将棋の弟子入りをしに来たわけではないんですけど……」
「え、そうなのか? なら他に理由なんて――」
「ありますよ」
華恋ははっきりと断言する。
しかし、透は弟子入りされる覚えはないので、首を捻るしかない。
「私はラノベ作家のあなたに弟子入りしに来たんですよ――JS太郎さん?」
唐突に告げられたペンネームに透は軽く目を見開く。
「……どうして俺がJS太郎だと知っている?」
「調べました」
「マジか……」
――情報社会怖い。
個人情報が筒抜けな現代社会にビビる透。
「というわけで弟子にして――」
「嫌だ」
華恋の言葉を遮り、きっぱりと断る透。
「どうしてですか!?」
「JSじゃないからだ。俺に頼み事をしたいならJSになってから出直せ!」
華恋知らなかった。透がラノベ作家JS太郎である以前に、JS好きの変態であることに。
「もちろん
「いや話聞けよ!」
着ているセーラー服を脱ぎながら迫る華恋に、透は叫ぶような声をあげるのだった。
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