JCの懇願

 時を遡ること、一時間前。

 透が自室のドアを開けると、玄関前でセーラー服の少女が正座をしていた。

 最初は驚きこそしたが、何やら話があるとのことなので一応リビングまでは通した。

「ええと……君、誰?」

「え……覚えていませんか?」

 開口一番透が訊ねると、少女は悲しげな表情でうつむいた。

 そんな顔を見ると思い出してあげたくなるが、JS以外はまともに覚えられない変態には無茶な要求だ。

「ごめん。さっぱりだ」

「そうですか……なら仕方ありません」

 そう言って、少女は勢いよく立ち上がり、透の顔をジッと見つめながら口を開く。

「私は菊水きくすい華恋かれんと言います。十四歳の中学二年生、彼氏はいません!」

「お、おう……」

 唐突に始まった自己紹介に、透は多少気圧されてしまう。ちなみに、最後におかしなな一文があった気がしたが、面倒なのでツッコまないことにした。

「俺は菱川透。十八歳だ」

 透も手早く自己紹介を済ます。

「それで……君――菊水さんでいいかな?」

「華恋とお呼びください!」

「わ、分かった。ええと……華恋、君はどうしてここにいるんだ? というか、どうやって入ってきた?」

「それはですね……」

 華恋は傍らに置いていた学生カバンの中を漁る。しばらくすると、JCが持つには不釣り合いな工具箱が出てきた。

「これで開けました」

「…………」

 まだ工具箱を具体的にどう使った聞いてないのに、耳を塞ぎたくなる透。

「それと、余計なお世話かもしれませんが、ここの鍵は替えた方いいですよ、師匠」

「本当に余計なお世話だな。あと師匠って誰のことだ?」

 この場には透と華恋の二人しかいないため、師匠というのが誰のことを指すのかは分かっているが、面倒なのですっとぼける。

「もちろんあなたのことですよ、師匠。私はあなたに弟子入りするためにここに来ました!」

「弟子入り? 俺別に竜王とかじゃないぞ?」

「いえ、私は将棋の弟子入りをしに来たわけではないんですけど……」

「え、そうなのか? なら他に理由なんて――」

「ありますよ」

 華恋ははっきりと断言する。

 しかし、透は弟子入りされる覚えはないので、首を捻るしかない。

「私はラノベ作家のあなたに弟子入りしに来たんですよ――JS太郎さん?」

 唐突に告げられたペンネームに透は軽く目を見開く。

「……どうして俺がJS太郎だと知っている?」

「調べました」

「マジか……」

 ――情報社会怖い。

 個人情報が筒抜けな現代社会にビビる透。

「というわけで弟子にして――」

「嫌だ」

 華恋の言葉を遮り、きっぱりと断る透。

「どうしてですか!?」

「JSじゃないからだ。俺に頼み事をしたいならJSになってから出直せ!」

 華恋知らなかった。透がラノベ作家JS太郎である以前に、JS好きの変態であることに。

「もちろん無料ただでとは言いません! お代はこの身体で払います!」

「いや話聞けよ!」

 着ているセーラー服を脱ぎながら迫る華恋に、透は叫ぶような声をあげるのだった。

 


 


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