第5話 初めてのクラスメイト

「へぇ、結構生徒いるんだなぁ、殆ど貴族の集まりみたいなところだと思ったけど、俺と同じ身分の人の方が多いのか」


 雑貨屋を出て真っ直ぐ魔法学校に向かったリンは今、恐らくつい最近行われたであろう校内にある実力テストの成績を見ていた。


 リンは編入生なため、勿論学力テストは受けてない。

 見たところ校内全員の成績が貼られており、名前の傍らに身分が書いてあった。


(こういうのって身分差別とか起こらないんだろうか)


 基本的に貴族と平民の位にはかなりの差があり、RPGをやっていたリンにとって余りいいイメージではない。

 内心思いながら職員室に向かった。


「失礼します、今日から編入することになったリン・ウォルコットです」


 職員室に入ってキョロキョロしてると見知った人物と目があった。


「あれ? もしかしてリン君?」

「はい、お久し振りです。えっと……」

「キリカよ」

「あ、そうでした。キリカ先生」


 (何だろうこの存在の薄さ、あのときは試験のことしか頭に無かったから半分記憶から抜け落ちてるんだけど、まあ、なんとか顔だけは覚えてたからいいけど……)


 因みに、キシリカ先生は身長百五十センチくらいの大きさで赤紫のボブヘアーで黒い眼鏡をかけている。


「もしかして教室知らされてない?」

「はい」

「そうだっけ? 前に伝えた気がするのだけれど? それとアナタは私が受け持ってるSクラスよ、前にも言った気がするんだけど?」


 (あーそんなこといってた気もする)


 リンはそのあとの動揺っぷりを見て、焦ってたから忘れていた。


「まあ、そんな事は置いといて、そろそろホームルームが始まるから付いてきて」

「わかりました」


 そのままリンはキリカ先生の後ろに付いていった。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 自己紹介


 (ヤバい、さっきまで平然としていられたのに緊張してきた。母さんはあんまり身分気にしなくていいとは言ってたが、貴族は貴族。プライドの高さは必ずあるはず、しかもまだ魔法を習い始めた生徒達から見たら俺は規格外だし、しかも平民、そんなことが割れたら確実に蚊帳の外にされるのは明白だ。何としても自重せねば……)


「心の準備はいい?」

「は、ひぃ!」


 頭の中で自己紹介をどうするかを必死に考えていたら、急に声をかけられて声が裏返ってしまった。


(やべっ、はずい……)


「そんなに緊張しなくてもいいのに」


 キリカ先生はクスッと笑いながらそう言った。


 (てか、そう言うなら態々心の準備はとか聞くなよ……。まさか、編入試験の時の仕返しなのか? そうなのか!?)


 そう思ってチラッとみて見ると、ニヤニヤしてる辺り、やられたっと思った。それと同時に、この先生案外性格悪いなと思うリンであった。


 そしてキリカ先生が教室に入っていった。

 どうやら朝の挨拶をしてリンの事を簡単に説明をしているらしい。


 少しして、キリカ先生が扉から顔を覗かせてきた。


「さあ、入って」

「はい」


 遂にこのときが来てしまった。

 そして、キシリカ先生に連れられて教室に入って、壇上の隣に立った。


「はーい! 皆さん注目! こちらが今日から一緒に授業を共にするリン・ウォルコット君です。さあ、リン君、みんなに紹介して」


 キリカ先生が言うと、視線は一気にリンに注がれた。


「えっと、初めまして、ハルクーム出身のリン・ウォルコットです。みての通り私は平民です。無作法やら不都合なところはいくつかあるでしょう。こんな私ですが、皆さんとの楽しい思い出を共有して行けたらいいと思う所存です。今日からよろしくお願いいたします」


 リンは思い当たる言葉を使い、挨拶を一通り終えて一礼して少しだけ前をチラッと見ると、拍手をしている人もいればつまらなそうな顔をしている人もいた。

 ただ、予想外だったのが平民が来たのにも関わらず誰一人と軽蔑する者がいなかったのだ。

 正直これは驚いた。


 そんなことを考えていると一人の男の子が近づいてきた。


「いつまで頭を下げている、表をあげよ」

「では、失礼します」

「はは、余り畏まらなくとも良い、何せこの学校は身分で物を言わせるのは国家に叛くことと同じだからな、そなたが平民であろうと権利を行使してくることはあり得んよ」


(あ、そうなん? だから気にしなくていいと言ってたのか。そういうことならあらかじめ言ってくれれば良かったのに。俺の頑張りを返せ!)


「そう言えばまだ自己紹介をしてなかったな、私はクラントブール王国第二王子――ロドニ・レオンハートだ、よろしく頼むぞ」


 (王子マジか!? でも確かに周りと風格がかなり違う気がする……)


 そんなことを思いつつ、


「こちらこそよろしくお願いします、ロドニ殿下」

「うむ」


 (この子、本当にに十歳なのか? 気迫が全く違うんですけど? これが王族パワーってやつか……)


「それより、聞いたぞ」

「えっと、何をでしょうか?」


 恐る恐る聞いてみた。


「そなたの父と母の事だ」

「なっ!?」


(ヤバい、今朝の出来事がフィードバックしてきた。この場で悶絶したくなるんですけど……)


「どうした? そんなに引き釣った笑みをして? 胸を張れば良いだろう? 何せ、父親は剣神で母親は聖女と呼ばれていたほどの伝説の英雄ではないか」


(いや、みんなの知ってる英雄の裏を知ってるからこそこうなってるんだよおおおおお!!!)


 と内心で叫んでいると、物凄く体がむず痒くなった。


 気づけばクラスは英雄の話で持ちきりになっていた。


 (早く帰りたい……)


 周りが騒いで気を落としていると後ろから声をかけられた。


「ねぇねぇ! リン君だっけ? 今日君の家に遊びに行って良いかしら!」

「あ、ずりーぞ!? 俺も行くぞ!」

「何よ! あたしが先よ!」

「先とか関係あるかよ!」

「邪魔だっていってるの! わからないかしら?」

「んだと!?」

「やる気? なら表に出なさい」

「望むところだ!」


(なにこの二人? 急に話しかけてきてなんか言い争って終いには宣戦布告しちゃったよ。取り敢えず止めるか)


「あのー……」

「「アンタ(お前)は黙ってなさい(ろ)!!」」


(カチーンこれは流石にイラッと来ちゃいましたよ。でかい音を耳元で鳴らして驚かせてやろうか……)


 そんなことを考えてると、誰かが喧嘩を割って止めた。


「二人ともその変にしとけ」


 止めたのはロドニ殿下だった。


「でも!」

「だけどよ!」


 物凄く不満げだ。


「私は止めろと言ったぞ? 二度は言わせるな」


 (なにこの言葉の重みは? やっぱ気迫やベーよ)


「「はい、すいません殿下」」


 喧嘩をしていた二人はロドニ殿下に怒られるとシュンとしてしまった。


 (まあ、収まったのならいいか……でも、期待だけさせてこのままは申し訳ないしなあ……)


「二人とも今日は無理だけど休みの日なら来ても大丈夫だよ」


 そう言うと、しょぼんとしてた顔が急に輝きを取り戻す。


「「是非!」」


 そんなこんなで話が纏まった。


「はーいそろそろ授業の支度してくださいね? 遅れちゃいますよ?」


 喧嘩が終わった頃を見計らってキリカ先生はクラスに呼び掛けた。


 (あ、いたの? 完全に空気になってたなこの先生)


 こうしてリンにとって始めての異世界の授業が始まる。といっても内容は初歩の初歩、リンにとっては殆ど退屈な時間だ。

 基本的に授業の応用を頭で考えて時間を潰すのであった。


(早く終わらないかな……)


 と初日からテンションの低いリンは内心で思うのであった。

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