第4話 意外な事実

 登校当日


「リン学生書は持ったか?」

「おう」

「身分証は持ったか?」

「おう」

「筆記用具は持ったか?」

「おう」

「ハンカチは持ったか? あと……」

「持ったわ! いちいち聞くな! どこぞのオカンか!」


 何回も聞かれてうんざりしてついイラッとしてしまった。あとついでに前世の某氏を思い出してしまった。


「しかしだな、お前は時々抜けてるところがあるからなぁ……心配なんだよな」


 (一番家族の中で不安定な人に心配されるとか……)

 リンは頭を抱えながら呆れていた。


「大丈夫だって、忘れ物は無いかちゃんと確認したよ、父さんに心配されるような事はないって」


「だがなぁ……ッ!?」


 それでも心配して言いかけたハルターだったが後ろから氷のような冷えた感覚に襲われ即座に後ろを向く。

 背後にはニコニコとしたアルシャが立っていた。だが、目が笑ってない。

 ハルターそんなはアルシャ見て冷や汗を掻く。


「あらあらアナタ? リンの邪魔をしちゃダメでしょ? こう言ことも一つの経験なんですから、大人が首を突っ込むなんてお門違いですよ?」


 相変わらず怒ってる時の母さんの気迫といったら蛇に睨まれてる蛙のような感じだ。


「いや……だ、だがな……」

「何か問題でも?」

「な、なんでもありません!」

「なら、そろそろ時間ですしリンを見送りましょう」

「はい……」


ハルターは結局アルシャに丸め込まれてしまった。

 王都の人達がこの光景を見たら何て言うんだろうなぁと思いつつリンは二人のやり取りを見る。


「では、父さん母さん行ってきます」

「行ってこい」

「行ってらっしゃい」


 そして、俺は王都向かって歩きだした。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 リンが家を出て暫くたってアルシャとハルターは家に入っていった。


「こんなにも早く家を出るなんてね、産まれたときは全く泣かなくて心配したもの」


アルシャは昔のリンを思い浮かべていた。


「そうだな、子供ってのはいつも俺達の想像を越えやがるぜ、全く」

「うちの子がこんなに早く親離れするなんて思いもしなかったわ。赤ん坊のだった頃がつい最近のように感じるのに、こんなに立派になって……」

「そうか? 俺には背伸びしてくるようにしか見えないけどな」

「それでもよ」

「まあ、俺はアイツが幸せに生きてくれればそれで十分だ、もし、道に迷ったら、その時は俺達が支えてやればいいことだしな」

「あらあら、さっきまでの過保護はどこに行ったのかしら?」

「痛いところを突くな」


ハルターは不意を突かれて苦笑いをする。


「ウフフ」


それを見たアルシャ嬉しそうに微笑した。


 そして、二人はリンの過去を懐かしみながら肩を寄せあった。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 その頃、リンは王都に入ったところだった。


「ほへぇーにしても王都は人が多いなぁ、余所見したらうっかりぶつかりそうになるわ、これ」


 そう呟きながら王都を散策してると、目の前にある雑貨屋を見つけた。


 中を覗いて見ると至るところに魔道具が置いてあった。

 奥に進んでみると、本を並んでいた。

 その中の一冊を取り出してみて見ると、どうやら内容は物語らしい。


 本を物珍しそうに眺めていると、後ろから声をかけられた。


 振り向くと、白髪の生えた老人が立っていた。


「そこの少年よ、君も好きなのかね? 『剣神英雄談』」

「いえ、何となく目が止まったので、見ていたんです。あ、でも、物語自体は好きですよ? ここに来て唯一の娯楽ですから」


 そう言うと、老人は嬉しそうな顔をしていた。


「ところでどういった内容なんですか?」


 そう老人に尋ねると、


「それは剣神ハルター様が聖女アルシャ様と共に危機に瀕した王国を救うお話じゃよ」


 それを聞いて、俺は固まった。


 (……はい? 剣神ハルター様? 父さんが物語に!? マジか!? 何処が“ちょっとやんちゃしてただけだ”だよ! レベルが違うわ! レベルが! てか、母さんに関しては聖女とか呼ばれてるし、見た目はともかく中身を知ってる身としては想像しただけで恐怖でしかないのだが!?)


 リンは考えてるだけで頭痛がした。

 唐突の爆弾発言を聞いて頭を抱えていると、老人が不思議そうにしていた。


「どうしたんじゃ?」

「いえ、何でもありません。理想と現実ってこうも違うものなんだと肌に感じてるだけなので」


 リンは遠くを見ているような目をする。それを老人は不思議そうな顔で見ていた。


「では、俺はそろそろ学校に行かなければなりませんので、これで失礼します」

「お、すまんな、引き留めてしまって」

「いえいえ、貴重な話が聞けてよかったですよ?」

「そうか、ならいいんじゃが」

「はい、では失礼します」

「頑張るんじゃぞ」


 俺は逃げるようにこの場を離れることにした。


 そして、家に帰ったらこの事で父さんを弄ろうと心に決めた。


 それと同時に背筋震わせるハルターであった。




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