星屑屋へようこそ〜見習いツムギの奮闘記〜

更級 あるん

第1話


秋の訪れを告げる様に黄金の麦を両手に抱え大地を司る精霊ノームの分身が街を早足でかけていくのを見かけたツムギは追いかけたくなるのをグッと堪え、昨年の秋に捧げられた金木犀で染められた絹を纏った精霊を見送った。

季節を告げる精霊を追いかけてはいけないと大人達は子供達に何度も何度も繰り返し教えるのは彼等の邪魔をしてしまうと季節が止まってしまったり、農作物が育たなかったりと生きていくのに困る事になるからだとツムギは聞いていた。

季節を迎えるとその精霊への感謝際フェスティバルを開催されるので街はたいへん賑やかになる。

この国は精霊や妖精達で生活が成り立っている為そういうことが欠かせない。

街の石畳を楽しそうに精霊が飛び跳ねる度にローブの裾が揺れるのを街の皆は穏やかな表情で見つめていた。


「おい、いつまで掃除してんだ?」


低い声がしてツムギは肩を跳ねさせた。


「お、終わってます!ただ……今精霊がお城の方にかけて行ったから…」

「お前、そんなん珍しくもないだろ。」

「ウェンはそうかもしれないけど、僕はいつも楽しみにしてるんだもん。実際今までで一番近いところで見れた。」

「ガキ。」


ああ、だからウェンなんか好きじゃない!とツムギは叫びたくなるがグッと堪えながら、樫の木で作られたドアに寄りかかるウェントゥスを見た。


「ツムギさん、ウェンさん、お茶にしませんか?」


柔らかな声の主のアユムはグレーがかった髪を撫でつけ、今日はスタンドカラーシャツにワインレッドのアスコットタイを巻いていた。彼の首元はいつもお洒落である。


「はい、アユムさん。」


ツムギは元気よく返事をしてウェントゥスの横を擦り抜け店の中に入れば紅茶の香りと甘い香りが漂っており、すでにステラとヘンプが席に着き皆の分の紅茶をカップへ注いでいた。



ツムギが働いているこの店の名は星屑屋という仕立てを生業としている店だ。ニュンフェ王国でも評判で店長のステラを始め腕利きの職人がいるがそれだけではない。

この世界では主に人型ヒューマノイド獣型ビースターの種族が多いが人が働いているため、偶にヒューマン見たさに来る客もいるくらいだ。ツムギも此処で働く前は3人位見たことがあったが話したことが無かったため、間近で見たヒューマンはあまり人型ヒューマノイドと変わらない様に見えたがアユムは博識で何より物腰の柔らかい紳士であったので尊敬と憧れを抱いている。

なによりツムギはモデルハスキーの人型ヒューマノイドで、先祖代々丈夫で体力がある血筋の為幼少時代から身内からも周りからもほぼ扱いが雑なのだ。確かに病気らしい病気も怪我をしたことがないし、両親も兄弟もそんな話を聞いたことがない。

丈夫だけが取り柄のツムギが仕立屋の見習いになると決めた時は家族だけではなく近所のおじさんにも心配される位だったが、まだまだ見習いだが故郷からでて2年仕事を覚えていくのはとても楽しめている。


店長のステラは爬虫類人、副店長のアユムは人、チーフのヘンプは虫人でウェントゥスは鳥人、そして ツムギは獣人と人型ヒューマノイドヒューマンの働く店が星屑屋だ。


「さっき精霊がお城走って行きましたよ。そろそろ麦を撒く時期になるんですね。」

「秋のお祭の依頼がくるかもしれないわね。」


ステラは楽しそうに微笑んだ。

星屑屋は祭の度選ばれる踊り子達の衣装を用意している。祭りは頻繁に行われるので流石に毎回新調する時間がないため、季節のモチーフを縫いつけたり踊り子に合わせサイズやデザインを直したりしている。

ツムギは少しだけ選ばれてみたいと思っているが、それを口に出してしまえばウェントゥスにバカにされてしまいそうなので喉元を過ぎてしまいそうな言葉を飲み込んだ。


「現在受けてる仕事も最後の調整ですから、また仕事を見つけなければいけないですね。」

「私、レースを裾にあしらったり刺繍もたっぷり施した可愛い服を作りたいわ。」

「おめでたいことがあればいいんですけど。」


アユムとヘンプが帳簿を覗きながら話をしているのを横で聞きながら、ツムギは琥珀色の紅茶に口を付けると優しい味が口内に広がって気持ちも紅茶と同化していくような感覚に浸っていた。

仕立屋は常に忙しい訳ではない。偶にオーダーメイドの依頼が重なり忙しい事があるが、基本は売った服がくたびれたり破れたりと何かあった時の繕いが多い。繕う服によっては見習いのツムギも仕事をさせてもらえるので早くせめて技術的にウェントゥスと並びたいと閑散期を待ち望んでいるのだが、そのさいには彼がツムギの指導として付くので複雑な心境だったりする。




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星屑屋へようこそ〜見習いツムギの奮闘記〜 更級 あるん @egoist62

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